第518話 目標は見えるところに貼らないと意味がない
「最近、ダンジョン魔力が溜まってきているじゃないですか」
そう口にすると、フィオナ様がものすごく大げさに首を前後に振る。
なんか、そういうおもちゃみたいだなあ。
「そのとおりです! つまり、ガシャですね!」
「魔王様、落ち着いてください。なんでもガシャに、つなげないでください」
「うぐっ……」
そして、プリミラに口を挟まれ、がっくりと肩を落としてしまった。
だが、実は今回のフィオナ様の考え、あながち間違っているわけでもないんだ。
「まあ、最終的にはガシャが目当てですね」
「え、本当ですか? ついにレイが私を甘やかすことに! レイからの好感度ポイントが、一定数を超えたんですね!」
「いえ、それはもうカンストしてますし」
「え~、もっと甘やかしてもいいんですけど~」
それはせめて、二人だけのときにしません?
とりあえず、納得がいってなさそうなフィオナ様は、適当に頭をなでるとして、話を続けよう。
「テラペイアとルトラの部下を、蘇生させたじゃないですか?」
「ええ、レイの本気、しかと見届けましたよ」
「それによって、二人の負担が軽減されて、地底魔界の人手も増えて、わりと良い感じになったかなと思っています」
話に上がった十魔将二人を見ると、ふたりともしっかりと、うなずいてくれた。
俺の気のせいということもなく、みんなは部下を蘇生すると、当然ながら仕事が楽になるということだ。
「なるほど! では、再び二百連ガシャを!」
「再びも何も、一度も二百連ガシャを引いたことはありません」
しれっと過去を捏造しようとしないでください。
魔王ともなれば、歴史の改変もお手の物ということですか。
「では、百連で我慢します……」
「騙されませんからね」
「くっ……レイが賢い」
「宰相ですので」
魔王とも渡り合える頭脳。それが宰相である俺だ。
悔しそうにするフィオナ様に、得意げな顔を浮かべていると、ダスカロスが割って入ってきた。
「ふざけるのは、そこまでにしておくとして、実際には、どの程度の規模を蘇生しようと考えているんだ?」
ふざけてはいないけれど、そこを決めるのが大切だな。
それによって、どの程度の稼ぎが必要か、蘇生後誰が指導し、どこに所属するかなども変わってくるし。
「まずは、四天王や十魔将の部下なんだけど……」
こういうのは、偉い順だと思っている。
だからといって、魔王であるフィオナ様の部下を全員蘇生なんて無理だ。
それすなわち、魔王軍全員の蘇生になってしまうのだから、それこそ二百連でも足りる気がしない。
そこで気になったのが、四天王の部下たち。
今までの蘇生は、十魔将の部下ばかりになっており、四天王の部下を蘇生していない。
なので、この際だからダスカロスに聞いてしまおう。
「四天王に部下っているの?」
そんな俺の質問に答えたのは、ダスカロスではなく四天王たち自身だった。
「直属って意味ならいないなあ。ほら、おじさん部下なんてもっても疲れるし」
いや、今は部下だらけみたいなもんじゃないか。
宿屋のダートルさんは、今も多くの部下に慕われているって聞いているぞ。
「ボクたちの場合、部下を率いるよりは、単独で動いたほうがいい場合も多いからねえ」
「必要なときは、手を借りるようにしていました。そのため、決まった部下というものはいませんね」
「どちらかといえば、十魔将のほうが人手が必要な専門分野ばかりだからな。私の戦いについてこられる部下は、それこそ十魔将になってしまう」
なるほどなあ。
言われてみれば、四天王はそれぞれが優秀だけど、個として動いている場合も多いし、これといった専門分野はなかったはずだ。
今でこそ、それぞれが、わりと決まった仕事をしているが、かつての魔王軍では違ったのだろう。
そりゃあ、勇者たちと戦っていたくらいだしなあ。戦力として運用するのが一番に決まっている。
「ということなら、次の蘇生も十魔将の部下が候補になるか」
「そうだな。マギレマやディキティスの部下たちも、精鋭こそ蘇生されたものの、その下の者たちもまだ残っている。テクニティスやラプティキも、人手があったほうが、はかどるだろう」
作り手系の二人だもんな。
誰も彼もが優秀なため、一人でも一定以上の成果を出していたが、人手があるに越したことはない。
それが、かつての部下たちであるならば、なおさらだ。
改めて教える必要もないだろうし、効率がぐっと上がるんじゃないか?
「よし、まずはそこが目標だ。あとは、他の十魔将だけど……」
周囲を見渡すと、まずはプネヴマと目が合う。
わたわたと慌てた後に、困ったように笑顔を浮かべているあたり、また内心でテンパっているみたいだ。
その隣では、エピクレシが、呆れた様子で落ち着かせていた。
「プネヴマとエピクレシは、どう? 蘇らせたい部下とか」
「私は、アンデッドたちが部下ですので」
「それもそうか」
「わ、私……は……部下とか……上手に、話せないといいますか……怖いので……」
「それもそうか」
そもそも、プネヴマの仕事は魂の管理とかいう、専門すぎる職だからなあ。
おいそれと手伝えるような部下なんて、そうそうはいなかったのだろう。
「それならイピレティスは……」
「え~、僕ですか~?」
抱き着いてくるけれど、もはやどうとも思わない。
男だとわかった以上は、別にどうということもないし。
それが伝わったのだろう。イピレティスは、からかえなかったことに不満そうにしながら、俺の質問に答えた。
「実は、魔王軍の暗殺部隊がいますよ」
「ああ、なんか納得した。そういうの率いるの得意そうだしな。イピレティス」
「そうなんですよ~。今ならお買い得ですよ? まずは、一緒にお風呂に入るところから始めます?」
「別に男同士だし、かまわないけど」
「くっ……。手ごわい」
なんでだよ。良いって言ってるじゃないか。
それにしても、暗殺部隊か。人類と戦っていたときに、活躍していそうだな。
「僕含めて、斥候みたいな感じで働いていましたね。ピルカヤ様の管轄とは別の場所で、活動していました」
「便利そうだな」
「今のボクなら、パワーアップしたし、大丈夫だけどね!」
「いや、ピルカヤが強いのはわかっているけれど、強すぎて対策されることもあるだろ? テンユウみたいに」
「う~……」
あまり納得はしていないけれど、反論はできないらしい。
ピルカヤは、炎の勢いが少し弱まる程度には、こちらの発言が気に食わないみたいだ。
だが、それらの部隊も必要なのも事実。ピルカヤには、うまく納得してもらうとしよう。
「あとは、ダスカロスは、どうだ?」
「私も不要だな。部下というよりは、私は皆の部下となる者たちを、育てる役割だ」
先生だもんな。
つまり、新人研修はダスカロスのところで行い、そこで適性を見抜いて各所属に割り振られるわけだ。
できることなら、とらえた従業員たちにも、そう働きかけてほしいが、魔族だから難しいよなあ。
タイラーやクララに指導を任せているのも、魔族相手よりは素直に従うからだし。
まあ、そのタイラーやクララたちの相談に乗ってもらっているので、ダスカロスも今のままで問題ないか。
「ということは、テクニティスと、ラプティキさんと、イピレティス。三人の部下たちの蘇生が、今のところの目標ですね」
それで問題ないか? そう確認を込めて、フィオナ様の方に顔を向ける。
すると、彼女は両手で宝箱を持ってきていた。
「……」
「……」
なんですか? その、運んできたから、褒めてほしいみたいな顔は。
褒めませんよ? そもそも、まだ宝箱は開けないって、言っているでしょうが。
「とりあえず、元の場所に戻してきてください」
「魔王の気遣いが、踏みにじられました!」
「一人だけ蘇生させても、説明や指導するのが大変でしょう」
「ぐぅ……。仕方ありません。では、まずは、それらの部下を蘇生するために、魔力を溜めるところから始めましょう」
この前の、ルトラとテラペイアの部下たちで、ダンジョン魔力が一気に減ったからな。
溜めるときは溜める。使うときは使う。そこを間違えると、一気に枯渇するので、計画的に進めるとしよう。




