第517話 ああ、君たちもですか
「着なさいっての」
「い~や~だ!」
またマギレマさんが、ラプティキさんにつかまっている。
服を着ろというセリフだけ聞くと、なんだかマギレマさんが裸族みたいだなあ。
実際のところは、下半身があれであり、いつも同じようなチューブトップだけなので、あながち間違いでもないのかもしれない。
「あ、レイさん。良いところに。マギレマを説得してくれない?」
「あ、レイくん。良いところに。ラプティキのこと説得してよ~」
同時に俺に気付き、やはり同時に俺に訴えかけてきた。
別にどちらの味方をしてもいいけれど、俺が何か言ってこの二人の関係が変わることもあるまい。
なんせ、魔王軍在籍前からの腐れ縁らしいからな。
「そういえば、マギレマさんって軍服は着ないの?」
「昔のこと思い出しそうで、ちょっとね~」
「そうよ。せめてピルカヤ様みたいに、軍服羽織るくらいしなさいよ」
「ルカちゃんはルカちゃん。あたしはあたしなの」
よくよく考えれば、ピルカヤよりも布面積小さいよなあ。
それも、この犬たちがいるからこそだろう。
「あ、またあんたたち勝手に!」
「いいよいいよ。俺もこの子たち好きだし」
「それ、あたしの足なんだけどな~……」
言わないでほしい。
それを聞くと、なんか俺が美女の足を愛でる変人に見えてしまうじゃないか。
「……あ、これ以上は駄目っぽい。ほら、いくよ! あんたたち! レイくんは魔王様のものだからね!」
それはそう。
マギレマさんの号令により、犬たちは不承不承という様子で、俺から離れていった。
仲が良いのか悪いのかわからないな。自分の足だし、仲が悪いと大変だろうけれど。
「まったくもう、それじゃあレイさん。次に女の子になったときはいつでも呼んでね?」
「呼ばないけど?」
「なんで!?」
フィオナ様を見て知っているから、着せ替え人形にはなりたくないんだ。
ラプティキさんはラプティキさんで、己の欲望に忠実だからなあ。
俺の言葉を聞いてもなお諦めていないようで、虎視眈々とチャンスを伺っているのがわかるし。
「仲良いなあ」
なんだかんだで、仲良く一緒に行動している二人の後姿を見ながらそう呟く。
すると、彼女たちとは別の仲良しコンビが、入れ替わりでやってきた。
「あ、レイ様……こんにちは……。ふぅ……セーフ」
「さすがに単独を見て失神するようになったら、私はあなたをその場に捨てて行きます。お疲れ様です、レイ様」
「えぇ~……」
「プネヴマにエピクレシ。お疲れ」
こちらはこちらで、仲良し十魔将だ。
アンデッドを作成するエピクレシと、魂を管理するプネヴマ。
それらを組み合わせて、魔王軍らしい邪悪な実験とかもしているようだからな。
「今日も実験?」
「う~ん……。良い魂はなかなかないんですよねえ」
「み、みんな……私に歯向かう……怖い魂……ですから」
ああ、なんとなく理解できる。
エピクレシが望む良い魂とは、強者の魂だろうからな。
その手の相手は、癖が強いというか、一筋縄でいかないものばかりだ。
ヨハンやルイスを、おいそれと復活させるわけにはいくまい。
そう考えると、ロマーナって強いのに性格もまともだったし、優良物件だったんだなあ、としみじみと思う。
「まあ、気長にいきましょう。転生者相手となると、慎重にやらないといけませんし」
「そ、そうだね……。昔みたいに……アンデッド軍を……好きに暴れさせたら、怒られ……ちゃうし」
昔か……。
そういえば、この二人もマギレマさんとラプティキさんみたいに、魔王軍前からの縁なのだろうか?
「プネヴマとエピクレシって仲が良いけど、魔王軍に入る前からなのか?」
「え、エピクレシちゃんは……私のおうちにきて……」
家に遊びに行くほどということは、やはり魔王軍に在籍するよりも前からの友人関係だったわけだ。
プネヴマの話を聞いていると、エピクレシがなぜかぎょっと目を見開いて、慌てたようなそぶりを見せる。
「プ、プネヴマそれは……!」
「私の……おうちのもの、色々と……回収しようと……しました」
「……差し押さえの話?」
それとも強盗?
あるいは、そういう力関係だったのか?
気弱なプネヴマから、いろいろなものを借りていき、そのまま返さないとか……。
「ち、違うんです! ええと……うわぁ、話したくない……」
「私のおうちのお友達……みんな、エピクレシちゃんに……回収されて……」
「奴隷商人かなにかだったの?」
「ああ、もう! 謝ったじゃないですか!」
いや、謝って許される次元の話なのか……?
でも、今は仲のいい友達だし……。
そのさらわれていった友達たちがどうなったか、それが一番気になるところだ。
◆
「誰……?」
「お前は……ここにいた悪霊とは少し違うわね。あの悪霊たちは、お前のしもべということかしら?」
威厳に満ちた態度で話しかける吸血鬼を前にしても、その幽霊は意に介する様子もない。
ただ内心で、彼女の周囲に集まっていた悪霊たちは、この吸血鬼に回収されたのだろう、とぼんやり考えているだけだった。
「私を前にその態度、気に入らないわね」
高貴な吸血鬼である自分に対して、なんの興味も持っていない。
心ここにあらずな態度は、彼女のプライドをひどく傷つける。
他種族だろうが、同族だろうが、その圧倒的な力の前で黙らせてきた。
あらゆる相手は、彼女に頭を垂れるだけの存在であり、自身こそが至高の存在。
そんな自分を前に、目の前の悪霊はまるで反応すら返さない。
「いいわ。どうせアンデッドに使う霊魂は、いくらあってもいいのだから。お前も私のものにしてやる」
「……私は……誰にも……興味が無い。だから……みんな、死んじゃえ」
悪霊は、強い怨念で周囲の霊たちを狂わせて従える。
吸血鬼は、コレクションであるアンデッドたちを従える。
二人の戦いは、いつしか周囲を巻き込んだ大乱闘となるのだった。
◇
「というわけで、要するにアンデッドに使う悪霊を回収しようとしただけですよ」
「なるほど。周囲一帯に悪霊が大量発生した呪われたような場所に出向いたら、プネヴマがいたのか」
「え、えへへ……」
話を聞いた限りでは、単にアンデッド生成のためであり、いつものエピクレシだな。
プネヴマはプネヴマで、そんなエピクレシについていくことにしたらしいし、この二人はやはり昔からこうなのだろう。
「あ、そういえば……エピクレシちゃん。昔は……フリフリしたドレス……着てたね……?」
「いいんですよ、そのことは! あれは、吸血鬼として仕方なくですねえ!」
「で、でも……お嬢様っぽい……雰囲気だったし……」
あれ、意外とエピクレシは変わったのか?
今の姿からは想像もつかないな。フリフリしたドレスを着て、お嬢様のようなエピクレシかあ……。
今は軍服を着ずに腰に巻いているし、ほぼタンクトップの姿だからな。
アンデッドを作成するためか、いつも顔や腕やどこかしらが汚れているし。
……悪いが、お嬢様らしさは見当たらない。
「あれは、調子に乗ってたころの、そして無理していたころの私なんです! 忘れなさい!」
「え~……」
「大体あなただって、あのときは負の感情ばかりで、周囲を呪いつくそうとしていたじゃないですか!」
「そ、それは……恥ずかしいから……言わないでぇ……」
「ほらみなさい!」
どうやら、二人も触れられたくない過去というものがあるようだ。
互いに弱みを握りあっているためか、不毛な争いと気付いて言い争いはそこで止まった。
マギレマさんもそうだったけど、あまり詮索されたくない過去を深掘りするのはよくないよな。
「まあ、今の二人のことさえ知っていればいいし、二人の過去は気にしないでおくよ」
「あ、ありがとうございます……」
「レイ様……良い魔族……」
よっぽど触れられたくないんだろうなあ……。
安堵する二人に手を振り、俺は彼女たちと別れて先へ進んだ。
案外、みんなそういう過去があったりしてな。
フィオナ様とかどうなんだろう。意外と魔王になる前は凶暴だったりするのだろうか。
そんなことを考えながら、俺は今日もフィオナ様の部屋へと向かうのだった。




