第515話 戦闘狂たちの行列
よし、再生が終わった。
あの転生者随分と強かったんだな。ウルラガのやつ、完全に死んでたぞ。
死骸を取り込み、再び自我を芽生えさせ、肉体を得られるまで力を注ぐ。
おかげで、酒やつまみといった嗜好品ではなく、なんとも健康的な食事ばかりになってしまっていた。
いやあ、分体思いだねえ。俺。
「クソ! 死んだ!」
「お、ウルラガじゃん。見事に殺されてたね~」
「無茶すんなよなぁ。得体のしれない転生者相手によぉ……」
「面倒ごとに自ら首を突っ込むとか、俺には理解できないな」
ウルラガのやつは、もう問題なさそうだな。
他の分体たちも、心配などせずに気軽に話しかけている。
「勇者どころか転生者に!」
「まあまあ、落ち着きなさいっての。あれ、リピアネムが強敵と認める相手だったみたいだぞ?」
「相手の技のコピーを使いこなすとか、面倒くさそうだよねえ」
「そもそも、多少の劣化とはいえ、自分のコピー複数も襲いかかってくるとか、むしろなんでリピアネムのやつは圧勝してんだよぉ……」
リピアネムだからな。
あいつの場合、劣化コピーくらいならさばききれるし、変身して一撃で全てを終わらせることも可能だろうよ。
さすがは四天王最強だ。俺たちとは違うねえ。
「ガナなら、なんとかなったんじゃない? ほら、群体を生成したら、数はこっちのほうが上だし」
「コピーも同じことしたら、めんどくさすぎるから嫌だ」
個の戦いというか、かつての戦争みたいになりそうだなあ。
ガナとエピクレシは、一人で軍と呼べるほどの部下を召喚や生成できるし。
「あぁ……クソっ! ちょっと暴れてくる」
「リピアネムに絡まれないよう、気を付けてな~」
同じ竜種だからか、ウルラガが戦っていたらあいつも参戦しようとするからなあ。
それじゃあ、こいつの鬱憤も晴れんだろう。
さすがに、今回ばかりは自重してもらわねえとな。
◇
「レイ!」
玉座の間でフィオナ様をからかっていたら、機嫌が悪そうな足音とともに、ウルラガが怒鳴り込んできた。
ともすれば、俺たちへの不満を今からぶちまけそうな雰囲気だが、そういうわけではないことくらい理解できる。
まあ、色々と言いたいことはありそうだけど、まずは……。
「復活したんだな。おめでとう」
「おう! ありがとう!」
怒ってはいるけれど、律儀に返事を返してくれるあたり、本体の真面目な部分が引き継がれているんだろうなあ。
さて、問題は彼の怒りだ。大方予想はつくけれど、話を聞いてみようじゃないか。
「その様子じゃ、俺に用がありそうだな」
「あのルイスって女が死んだ以上、報復する相手がいねえ! それは俺が弱かったから受け入れるが、このままじゃムカついてしょうがねえ! 気分転換に、戦わせろ」
「ダンジョンでも潜るか? いや……単に戦闘だけのほうがいいか」
「まあ、そうだな」
エネルギーに溢れているので、とりあえずそれを発散させたほうが良さそうだな。
それか戦闘ということなら、四天王やフィオナ様の相手を……いや、やめておこう。
今のウルラガは敗北した後だから、簡単に負けを認めたりせずに、なんか死ぬまで食らいつきそうだ。
「超位モンスターを、ありったけかき集めておいてくれ」
「わかった。とりあえず、それで冷静になってくれ」
俺の言葉を聞き、ウルラガは戦闘訓練用の広間へと向かった。
死んだ直後なのに、元気なやつだなあ。
「ウルラガ、やる気ですねえ」
「みたいですね。……乱入しないでくださいよ?」
「私、そんな戦闘狂じゃないんですけど」
「ものぐさですからね」
「やってやりますとも! ウルラガだろうとリピアネムだろうと、倒してみせましょう!」
「やめてください」
止めたはずが煽る形になってしまった。
からかいすぎたな。反省しなければ。
「とりあえず、モンスターたちを招集しますか」
「あの子たちも、きっといい経験になりますからね」
たしかにそうかもしれない。
わりと怒りのままに行動する準四天王クラスの実力者の戦闘とか、なんなら超位以外のモンスターも参戦したがりそうだな。ソウルイーターとか。
◇
その日も、平和な一日が始めるはずだった。
ひょんなことから、魔王軍のもとで働くこととなり、それもまあ悪くはないかと受け入れ、今ではそれなりに慣れてきたと自負している。
冒険者時代の仲間も一緒だし、ここに適応してきたはずなんだが……。
「な、なに……。なんか、すごい嫌な感じが……」
「怒り狂ったモンスターみたいな、そんな気配だな……」
「侵入者……? いや、それならピルカヤ様が見つけているはずだ」
なんせ、俺たちにもこうしてはっきりわかるほどの気配なんだ。
いや、気配以上に苛立ちというか、とにかく関わってはまずいものが向こうからやってくる。
「……」
「ウ、ウルラガ様……」
恐ろしい何かの正体は、ウルラガ様だった。
死んだと聞いていたが、どうやら蘇生されたみたいだな。
無言で歩いてくるウルラガ様を見て、俺たちはすぐに道を開ける。
すると、向こうはこちらをちらりと一瞥し、そのまま通り過ぎることもなく口を開けた。
「タイラーとか言ったな。俺は今から鬱憤を晴らすために、モンスターたちと戦う。他に戦いたいやつがいたら誰でも参加していい。仲間に伝えておけ」
「は、はい!」
ここで言う仲間というのは、恐らく魔族以外ってことだよな?
つまり、人間や獣人、ハーフリングたちのなかで、血の気の多いやつらに声をかけろってことか。
……いるのかなあ? よりによって、こんな恐ろしい状態のウルラガ様と戦いたがるやつ。
獣人なら、いくらかは参加しそうか。よし、まずはそっちに声をかけるとしよう。
そうして、知り合いたちに声をかけていくが、さすがにウルラガ様相手ということもあって、参戦を希望する者は少なかった。
まずい……このまま集まらなければ、もしかして俺たちが数合わせに……。
そんな嫌な予感に困っていると、ふと適役というか脳筋というか、戦闘集団がやってきた。
◇
「よかったのかしら?」
「まあ、本人たちが志願していたし……」
それでも俺たちが頼んだ手前、我関せずとはいかない。
とりあえず、戦闘訓練用の広間へと向かうと、そこはもうとんでもないことになっていた。
「くたばれ!」
「くっ……重さも火力も上がっている。真正面からは受けられないか」
「ちっ、めんどくせえ戦い方だな! おい!」
「これでもマギレマ相手に雪辱を果たそうとしている身だ。格上相手との戦い方は、日々考えている」
うわあ……。なにあれ、怖っ。
本気の殺し合いにしか見えない。
怒りを隠そうともしないウルラガ様は、ここで見ていても恐ろしい。
だけど、それをたった一人で相手しているオーガのナツラもやばい。
刀で攻撃を受け流し、ブレスは刀を振って無理やり散らし、威力が最も薄い場所に身を投じている。
あれ、大丈夫なのか……?
仲間同士の本気の潰しあいにしか見えないんだけど……。
というか、他にもウルラガ様の相手をしている奴らは……。
あ、いた。奥の方でモンスターたちやオーガたちが、戦闘不能になって倒れている。
これ、まずくないか?
このままじゃ、ウルラガ様が大暴れして手がつけられなくなりそうだ。
……それを伝えようとしたら、俺も戦うことになるのかなあ? 嫌だなあ。
正直この場から逃げたい。それほどに恐ろしい。
「うわあ、派手にやっているなあ」
そんな緊迫した空気を壊すように、なんとも平常心そのものの言葉が聞こえた。
「レイ様……」
「タイラーたちも戦うのか?」
その言葉に、俺も仲間たちも手と首を高速で振って否定した。
「無理です! 今日のウルラガ様、怖すぎますって!」
「わりと苛立っているみたいだなあ。でもまあ、あれだけ暴れたら落ち着くだろ」
ほ、本当かなあ……。
あちらではすでに決着がつき、ナツラが倒れてしまった。
……大丈夫か? まだ暴れたりないとかだとしたら、俺たちが?
「ウルラガ、気は晴れたか?」
「全然だな。ルイスのやつ、死に逃げしやがって」
「まあ、今後もあの手の転生者はやって来そうだし、そのときに頑張ってくれ」
「ちっ……。仕方ない。それで納得しておく」
なだめた……。
まったく物怖じせず、しっかりとウルラガ様を止めてしまった。
二人が去っていく背中を見つめ続ける。その場にいなくなって初めて俺たちは大きく息を吐いた。
「なんで……あんな平然と話せるんだろうな」
「下手なこと言ったら、殺されるかと思ったわ……」
「……慣れているのかもしれませんね」
「慣れているって……ウルラガ様に?」
「というよりも、ウルラガ様以上の実力者と常日頃から共に行動していますからね」
ああ、それなら納得だ。
言っちゃ悪いが、ウルラガ様なんてあの方に比べたらよほどマシだろう。
「魔王様相手にもあんな感じだもんなあ……」
そんなレイ様が、その部下相手に物怖じなんてするはずないよな……。




