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第151話 注文は多くないけれど迷いやすい料理店

 勇者と聖女のおかげで、聖属性耐性も万全といえる。

 あのあと、アンデッドたちを入浴させたが、やはり聖属性耐性は付与された。

 しかし、残念ながらというか、当然というか、効果は永続ではなく一定時間。

 時間もわりとまちまちなので、次にあのエルフたちがきたときは、直前にアンデッドたちを入浴させるという、なんとも不思議な光景が繰り広げられることになる。


「さて、できれば他の温泉を、といきたいところだけど、このまま順調にダンジョンを進まれるのも困るな」


 温泉は一旦保留としつつ、今日は対エルフたちのためのダンジョン改築といこう。

 フィオナ様の許可も下りたことだし、当初の予定通り好き勝手やってしまえ。


 エルフたちは本気でこちらのダンジョンを攻略にきているし、今後も強いエルフたちがくるかもしれない。

 そいつらを倒し続け、勇者を呼び寄せたらそのときは最悪崩せばいい。

 そう思うと、気楽にダンジョンを作れるというものだ。


「あれ、そういえばアナンタは?」


「胃に悪いからって、カーマル様のほうを手伝いにいきましたよ~」


「アナンタ様は、レイ様がやりすぎないようにするのが仕事ですから。今回は止めることもできないので、見ているほうが胃によろしくないとおっしゃっていました」


 俺の疑問に答えてくれたのはイピレティス。

 そして、アナンタの代わりに俺たちのダンジョン作りに助言をくれるプリミラだ。


 それにしても、アナンタのやつ胃が弱いのか。

 無理して働こうとするのはリグマに似てしまったんだな。

 いつでも休んでくれたらいいのに、責任感が強いから言い出せなかったのだろうな。


「まあ、ダンジョン自体はわりと完成形だから。例のエルフ集団以外は問題ないと思う」


「だが、聖光の刃が出てきた以上、エルフたちは他の戦力を投入する可能性も高い」


「そのときは、適宜対策を練ってダンジョンを変えていかないとな」


「ということは、まずは聖光の刃対策ということでしょうか?」


「ああ。あいつらがまたきたときのために、進むのがちょっと面倒なしかけも作っておこう」


 ディキティスの心配ももっともだが、プリミラが言うように、まずは当面の問題である聖属性集団のほうからだな。

 あいつら、聖属性が苦手なエピクレシのアンデッドだけでなく、ソウルイーターも被害なしで切り抜けた。

 つまり、弱点とか無関係に単純に強いってことになる。

 ソウルイーターの成長をと思って、ミストウルフやシャドウスネークとのコンボを一時中断していたが、これはまた配置換えも考えるべきかもしれないな。


「まあ、まずは無難なところからだな」


 ソウルイーターのことはいったん後で考えるとして、ひとまずは実績も十分にある安心と信頼の迷路だ。

 あいつらのステータスは獣人のルフと同じくらいだったが、ルフも迷路にはわりとてこずっていた。

 ステータスの高さだけで突破できないしかけということで、十分な嫌がらせにはなるだろう。

 あとは、ここに罠とかモンスターを配置して……。


「獣人たちのダンジョンと同じですね。たしかに、あのフロアは有効なのでいいと思います」


「いや、獣人たちのものとは別方面で、効果的な配置となっているようです」


「早くこないかな~。この迷路を通るところ早く見たいな~」


 プリミラだけでなく、ディキティスとイピレティスも満足そうなので大丈夫そうだな。

 それじゃあ、まずはこれでいこう。


    ◇


 最高評議会より命令が下された。

 向かうはダークエルフたちの所有するダンジョン。

 もっとも、それもいずれ俺たちエルフの所有物となるよう動いていることは明白であり、俺たちはそのための障害を取り除くことを望まれた。


 聖光の刃が先んじて成果をあげているため、こちらも後れを取るわけにもいかない。

 こちらはこちらで、与えられた命令を確実にこなさなければならない。


 特殊個体であることが想定されるソウルイーターの撃退か。

 であれば、たしかにやつらよりも、俺たちのような火力バカ集団がふさわしい。

 幸いダンジョンの入り口ということで広さは十分にあるようだ。

 回避も比較的容易だろうが、それよりも俺たち翠光の弓の高火力の魔法の一斉射撃により、確実に倒すべきだろう。


「……それで、ここが入り口だったはずじゃないのか?」


「……ソウルイーターなんて、どこにいるの?」


 気配も魔力もまったくない。

 まさか、ロマーナたちがすでに倒したというのか?

 いや、さすがにそうであれば最高評議会や俺たちに、連絡の一つでもしているはずだろう。

 仕方がない。ならば、せめてダンジョン内を少しだけ探ってみるとするか。

 なんらかの理由で、ソウルイーターが現れていないだけという可能性もある。


「奥に進むぞ。ソウルイーターはもちろん、モンスターの襲撃に注意しろ」


 こちらは遠距離からの魔法攻撃を専門としている。

 敵に気づかれることなく、こちらは敵をいち早く察知し、一方的に攻撃をして倒すというのが主流の戦法だ。

 そのため、敵を察知する能力であれば、ロマーナたち聖光の刃にさえ勝ると自負している。


「奇襲などさせるか。どこにいようと発見し、食らいつく前に倒してやろう」


 歩みを進め、ソウルイーターを探る。

 しかし、ソウルイーターどころかモンスターの気配すらない。

 この先は……たしか、アンデッドの軍勢がいたといわれていた場所か。


「趣味悪いですね……薄暗くて不気味な墓地なんて、長居したい場所でもありません」


「ここはすでにロマーナたちが対応した。ならば、この奥を進んでみるとしよう」


 アンデッドに邪魔をされて進めなかったダンジョンの奥。

 そこにソウルイーターがいるかどうかはわからないが、居場所がわからないのであれば先に進むしかない。


「入り口にいないのであれば、わざわざ奥まで進んで倒す必要はないのでは?」


「最高評議会のことだ。調査を再開してダンジョンの奥でソウルイーターを発見したら、どのみち俺たちに命令を下すぞ」


 ならば、ここで倒しておいたほうが手間も少ない。

 なに、敵の索敵能力ならば得意分野だ。

 危険を感じたのならばすぐに帰還するまでのこと。


 アンデッドたちがいたであろうフロアを抜けると、そこは長い一本道だった。

 おそらくは、これが次のフロアへとつながっている道ということだろう。

 思いのほか長いその道を抜けると、たしかに別のフロアへとたどり着くことができた。


「……迷路か? これは」


「ずいぶんと入り組んでいますね。侵入者を進めないようにするためでしょうか」


「時間はかかるが、進めなくもなさそうだな」


 そう思い迷路に一歩足を踏み入れる。

 かなり面倒な場所だが、いずれここも調査するのであれば地道に地図でも作るしかないだろうな。

 むしろ、まだまだ序盤のうちに配置されていてよかったといえるかもしれない。

 これが奥に配置されていたら、調査のために赴くのも一苦労だ。


    ◇


 迷路に足を踏み入れ、けっこうな時間が経過した。

 さすがに半分ほどは到達したか? いや、それは単なる願望に過ぎず、終わりは一向に見えてこない。

 本当にただの迷路で、それ以外になにかがあるわけではないのがせめてもの救いか。


 これで、なんの成果もなく帰還するということにならないのはありがたい。

 もしも迷路を攻略できなかったとしても、後は後続の探索隊に任せられるだろう。

 何度目になるかわからない分かれ道を、もはや迷うこともなく進んでいく。

 迷うだけ無駄だ。通った道を忘れないようにすればそれでいい。

 大切なのは、この迷路を少しでも埋めることなのだから。


「…………すぐに引き返すぞ!」


 できれば、出口までの調査をと思ったが、それはやめだ。

 団員たちに指示し、急いで迷路を引き返す。

 誰も反論はしない。それどころか、焦ったように引き返す者たちさえいる。

 優秀なことだ……。


 地図を作製していたものを先導させ、間違えて行き止まりに進まないようにだけ気をつける。

 それ以外のことを考えるだけ無駄だ。

 焦るな。まだ大丈夫。俺たちの索敵能力は、エルフの中でも上位のものだ。

 だから……迷路の奥にいたであろうソウルイーターの接近になど焦るんじゃない。

 まだ、時間はある。なんとか迷路の外にたどり着け。


「っ!! はあっ……!!」


 出口が見えた。

 気づけば音を立てず、息さえも我慢していたらしく、思わず大きく呼吸をする。

 馬鹿なことを。音を立てずとも、向こうもこちらの存在を認識し、追いかけてきているというのに。


 奥から迫ってきていた魔力の反応。あれこそが、ロマーナが言っていたソウルイーターだろう。

 開けた場所ならともかく、あんな狭い迷路の中で戦ってなどいられるものか。

 だが、こうして開けた場所に出てしまえば話は別だ。

 当初の目的どおり、俺たちの一斉攻撃により倒してしまえばいい。


「…………? 追ってこない?」


 体勢を立て直し迎撃のために構えるも、敵は迷路の入り口から姿を現さなかった。

 まさか……入り口に陣取っていたソウルイーターが、自分が有利な狩場を見つけたとでもいうのか?

 たしかに、そのソウルイーターが餌に見向きもせず襲ってくるのなら、広い場所で攻撃をかわしてしまうのが一番いい。

 しかし……。


「迷路にソウルイーターは反則じゃないか……?」


 ただでさえ、方向感覚が狂う狭い場所だ。

 突如ソウルイーターと出くわしてしまえば、そのままなすすべなく食われる可能性が高い。

 相手は、そんな自分の強みを活かせる場所に移ったとでもいうのか?


「まいったな……あんな場所での討伐は想定していないぞ」


 あの厄介な迷路も、誰かに引き継がせればいいと考えていた。

 しかし、あの迷路がソウルイーターの縄張りになったというのなら、俺たちが対処するほかあるまい。


「長期戦になりそうだな……」


 迫りくるソウルイーターをかわしながら、迷路の地図を作製し、撃破可能な場所を見つけ誘い出す。

 なんだか、急に命令の内容の難易度が上昇したような気がする。

 部隊から数名見繕って国に情報を共有することにしたが、俺たちはまだまだ国に帰れそうにないな……。


    ◇


「あ~あ。逃げちゃった」


「やっぱり、ソウルイーターは狭い場所のほうが脅威になりそうだな」


「うん! 私こっちのほうが強いよ!」


「よしよし、相変わらずなついてくれるし、たぶんこっちの言ってることも理解しているんだろうな」


「私賢いからね!」


「できれば、広い場所でも小回りが利くように成長させたかったんだが、敵も強いみたいだし、その課題は後々克服しような」


「うん! 私賢いからできるよ!」


「それにしても、迷路に迷い込んだのに、ソウルイーターが来ることを察知して逃げたか。あいつらも強そうだな」


「逃がさなければ、私のほうが強かったんだけどな~」


「ちょっと、やり方を考えてみるか……いっそ、迷路を作り替えるか? いや、それだと毎回ランダムな迷路になっちゃうしな。下手に変えてしまうと警戒されるだけか」


 ご主人様がうんうんとうなって考えてしまった。

 なら、私はご主人様の悩みの原因であるエルフたちを、次こそちゃんと食べないとね。

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