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言葉足らずな素直な気持ち

八話目〜

 話したかった。謝りたかった。聞きたかった。だけど、マロンにとってそれはどれもあまり経験のないことであり、その三つの感情が争いあい、どれを優先すればいいのか分からなかった。


「この喫茶店なら、ゆっくり考えられるだろ?」


 マロンの手を引いてリンは近くの喫茶店に入ると、マロンを席に座らせて飲み物を注文してからそう言った。


「えっと………ごめんね………」


「いいよ。ゆっくりと考えてから、話してくれたら」


 申し訳なく思いマロンが謝ると、リンはなんでもなさそうに優しい声でそう言ってくれる。

 パウ・ベアーと戦っていた時のあの鋭い眼光も、闘志も、今は殆ど感じられない。

 感情を使い分ける。そんな芸当、若くしてSランク冒険者に上り詰めたマロンには難しいことだった。


 今のマロンからは確かな慈愛が感じ取れる。

 そしてその慈愛を向けられているのが自分であることに少しむず痒く感じ、喫茶店の店員の手によって運ばれてきた飲み物に口をつける。


「………にがい」


 16歳であり、未だ子供舌であるマロンの舌には珈琲は合わなかったようだ。


「珈琲苦手か?」


「うん………そうかも………」


 ここで見栄を張る意味がないのでマロンは素直に肯定する。


「あんまり、飲んだことなかったから………」


 なんとなく苦手意識があった珈琲を自然と避け、果実水やお茶や水などを中心に飲んでいたのだ。


「そっか………悪かったな。なにも聞かずに注文して」


 リンはそう言いながら自分用に注文した珈琲を一口飲む。


「………珈琲、好きなの?」


 苦そうな表情を一切しないリンに、マロンは気になって聞いてみた。


「ん?別に嫌いでは無いな。特別好きでもないけど………」


 リンはマロンの質問にそう回答しながら、自分が口をつけた珈琲を見る。


「だけどな、珈琲って深みがあるだろ?」


 だろ?と聞かれても、飲んだこともないマロンにはわからなかった。


「だからかな。たまに、自分の人生に当てはめてみたりするんだよ………」


「人生に………?」


「そう。甘いだけじゃつまらない。苦い(困難な)くらいがちょうどいい」


 そう言ったリンの顔に、マロンは少し見蕩れてしまった。

 だけど、中身はまだまだ幼い少女は、それを隠すためなのか、再び自分の手の中にある珈琲に口をつけたのだった。


「………やっぱり、苦い」


 でも、マロンにはどこか安心出来る味がした気がした。

 そしてマロンはまたリンの姿を見る。

 パウ・ベアーと戦っていた時のような闘志も、今は感じられず。どこか穏やかな雰囲気で静かに珈琲を飲む姿は、とても絵になる。


「えっと、ね………」


 だから、マロンは決心したのだ。

 このまま心の中でモヤモヤを抱えるくらいならば、すぐに謝ってしまおう、と。


「ごめんね………昨日………」


 そう言ってマロンは静かに頭を下げる。頭を下げて、リンの反応が無いことに対してどこか失敗したのかと、心配になったマロンは少しだけ顔を上げてリンを見たのだが


「………」


 リンはなにも変わっていなかった。

 表情も変わっていなかったし、珈琲の入っているカップを持つ手も動いていなかった。


「え?………えっと………」


 あまりにも反応が無さすぎるリンに、マロンは困惑するが、困惑してるのはリンも同じだった。

 マロンからしてみれば、突然現れた格上に倒された苦い思い出があるはずだ。そして、倒したかったからこそ、あの時吼えていたのだと。

 だから、マロンはきちんとした準備を整えていない状況でパウ・ベアーと引き合わせたことを、途中で介入して相手を逃がしてしまったことを謝りたかったのだ。

 だから勇気を出してリンに謝った。

 だけど、ようやく声を出したマロンの様子を見てリンも困惑していた。


(え?………なんで謝ってんの?)


 リンからしてみれば、本当に心当たりがないものだった。

 ギルド職員のミカンからも自分を助けてくれた人物の特徴なんて聞いていなかったこともあり、リンはマロンが昨日自分を助けてくれた人物とは知らなかった。それに加え、リンはあのパウ・ベアーを逃がしたのがマロンということも知らない。故にリンからしてみればマロンは急に謝りだした変な人だった。


(まぁ、たぶん勇気出して謝ってくれたんだろうし………)


 だが、謝るまでに膨大な量の勇気を消費したことはわかった。謝る理由は、わからないけど。


(でも、何に対して謝ってるのかって、聞いてもいいものなのか?)


 自慢じゃないが、リンは前世を含めて女性と仲良くした経験は少ない。前世は機会がなかった故に。今世は、そもそも人との関わりを極力避けていたがために。

 人との関わりが極端に少ない2人が、お互いの意図を理解出来ずに、今ここに困惑の空気が充満していた。


 二人の間にだけ流れる重苦しい空気にマロンは気まずさを覚え、原因を探ることにした。


(なにがいけなかったんだろう………)


 この重苦しい空気になってからは、どちらもなにも発していない。つまり、その直前。自分が謝った辺りからだ。


(もしかして、私のせい!?)


 自分が原因でこの空気を作りだしたのだとしたら、それはマロンが悪い。そう考えたマロンは慌ててなにが悪かったのか考えることにした。


(謝り方は………間違ってなかったよね。じゃあ、なんだろう………)


 昨日はごめんと、マロンはそう謝った。

 昨日。そう、昨日だ。リンがパウ・ベアーに襲われていて、マロンが助けたこと。そういえば、その時のリンはパウ・ベアーにだけ目を向けていて、自分のことを認識していなかったような………。さらに、今日声をかけた時も、初対面みたいな反応を………


「!!!???」


 そこでマロンは気がついた。リンは、マロンのことをずっと知らなかったということを。

 だから、リンは困惑しているのだということを。そりゃ、初対面の人に謝られたら誰でも困惑するだろう。

 その事に思い至ったマロンは、酷く動揺した。

 それはそうだろう。なぜなら、リンからしてみればマロンの印象は、ずっとまともに言葉を発せず、やっと話したかと思えば、よく分からないことを言う不審者だ。


 ならば解決策だ。だが、正直な話だが、マロンに解決策は思いつかない。昨日のことを言うか?いや、だとしてもいきなりすぎる。順を追って説明する?コミュ症のマロンが?無理だろう。却下だ。

 ならば、どうする?結末から話すか?意味がわからなすぎる。


 ああでもない。こうでもない、と。頭を捻らせているマロンに向かってリンは一言。


「取り敢えず、ゆっくりでいいから順を追って説明してくんない?」


「………わかった」

今回の件は、二人の対人能力が低すぎたがゆえの悲劇みたいなもの

現実でも言葉足らずな人がよく起こす現象だよね

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