ver.6.0 寝るまでが一日
夕食は食堂にて食べられるらしいのだが、僕は全くと言っていいほど空腹感がなかった。
さっき食事と風呂を忘れていたのもそのせいだと思う。
便利ではあるものの体調がおかしい。
フタツキに聞いてみると彼も同じらしい。それでも僕よりは習慣として身についていたためおかしいということに言われるまで気がつかなかったようだが。
食べる必要がないのか、それとも食欲だけが抜け落ちているのか。
後者なら後々問題になっていきそうなので何か適当に食べに行こうとしたが、時刻は9時を回っておりその日は諦めることにした。
「じゃ、おやすみ……」
明日も平日だ。通学はすべきだろう。
布団を深くかぶって横になる。
「え?寝るの?」
がばり。
「寝るだろう。風呂も入ったし飯は食べそびれたけど歯も磨いたし明日以降のやることもある程度決めたしそれはもう寝るだろう」
「いやいや、部屋にトランプとかあったんだが……」
ほら、と何かキャラクターのグッズらしきトランプを掲げてきた。
確かヒロインのカバンについていた、ような気がする。この世界の流行りなのかもしれない。
「いややらないよ。部屋にトランプがあってもUNOがあってもプラモデルがあっても今はやらないよ。まだこの世界のことがよく分からない以上いますべきことは体力の温存、それに……」
「うおぁ人生ゲームもあったぁ!」
「聞けや!!」
………………
…………
……
パラララララ……
「1、2、3、4……あ、結婚した。祝儀3万円」
「……はい、おめでとう」
少しだけ華美な装飾をあしらったおもちゃの紙幣を三枚渡す。
どうして午前3時に男二人で人生ゲームをしているんだろう。
一回だけやってみようと聞かなかったフタツキに付き合って始めた人生ゲームだが、いくら何でも長すぎるだろ。
マップを広げた時に部屋の床の半分以上を埋め尽くしたタイミングでなぜおかしいと気がつかなかったのか。
「フタツキ、今日はこの辺にしておこう……」
普段美少女ゲームを夜遅くまでプレイしているものの、流石にこの単調なゲームは眠くなってくる。
「え?そうか。まだ半分もいってないけどな」
「だからこの辺にしておこうと言っているんだっっっ!」
人生は長い。
「明日も楽しみだな」
くるくるとマップを片付けながらフタツキは言った。
「オレはあんまこういうことはしてこなかったから」
「…………」
なにか言葉を返せばフタツキの内側に触れてしまうようで、それが僕にはまだためらわれた。
多分、僕が眠すぎて言葉を返すのが億劫になってしまったのだと思ったのだろう、それ以上は向こうも言葉を重ねることはなくお互い黙々と片付けをした。
「よっ、と。それじゃ、また明日」
「あぁ……、明日も平日だろうから4時間後くらいだろうけどな」
明日はすでに来ていた。