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二次元より愛を込めて  作者: デカ百足
新世界とオールバック
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ver.4.0 住まいを探そう

「その上履き……いや制服ってどこかで調達したものなのか」


 僕は分かりきっている質問をフタツキに投げかけてみた。


「いや、この世界に来た時点で既に身につけていた。というかそれはアマギも同じはずだろ?」

「そうなんだ。俺も気づいたら袖を通していた」


 ここはプール準備室。時刻は午後五時。

 握手をして少ししたころでふと疑問が浮かんだ。


「たぶんなんだけど、こんなとこにいないでも寮に部屋が用意されていたりするんじゃないのか」


『dear Lover』では基本的に生徒は寮生活であり、よほどの理由がない限り家から通う生徒はいない。

 自分たち分の制服や上履きが用意されているならば、住居も用意されているのではないだろうか。

 我慢して薄暗い準備室で過ごすよりも絶対に確かめに行った方がいい。

 ここだって、今日はないようだが水泳部の活動があるうちは自由に立ち入りできるというわけでもない。


「……たしかに。まだ確かめていなかったな」

「じゃ、行ってみよう」


 ソファから立ち上がり少し伸びをしてから気づいた。


「そういえば、このソファって元からあったものじゃないだろ。どっから来たんだ」

「応接室から運んで来たんだけど、無駄になっちゃうかもな」

「よし、まず返してこい」


 ………………

 …………

 ……


 僕たちはまず自分の身元を確認する必要があった。

 まさか職員室にでも行って「俺たちって誰でしたっけ」なんて訊くわけにはいかない。

 が、それは思いの外簡単にすんだ。本当は生徒手帳があればよかったのだけど、カバンにも制服にもなければもはや心当たりはない。


 僕たちは自分がいた教室に戻り、学年とクラス、座席表を確認した。

 そこには自分の名前が確かに書かれていた。

『2-B 2番 アマギ海良』

 それがこの世界における僕の肩書きだった。


 フタツキは同じ学年の隣のAクラスだった。

 少し残念そうにしていたが、「情報収集は広くできた方がいいしな……」と前向きに捉えていた。


「じゃ、寮に行ってみるか」

「ああ。でも寮に行ったところで俺は構造を知らないからな……。攻略本かなんかに寮の説明は載ってたりしなかったか?」

「いいや、全くない。内部は背景として少しあるけど。多分ネームプレートくらいはあるだろうから、それはもう総当たりしかないんじゃない」

「うーん、アホっぽいけどそれしかないか」


 話していてわかったのだがフタツキは思慮深いところはあるが最初の発想がアホであることが多い。

 そのためなぜか僕が率先して行動を起こすことがいつのまにか自然となっていた。


 寮の場所はプールとは正反対の端にあり、学園とは一本道路を挟んだ向こう側にあった。

 フタツキが完全に校内の場所を把握していたので助かった。が、ならどうして寮に行くという発想がなかったんだろう……。

 男子寮と女子寮は意外なことに塀はあるものの隣接しており、そのセキュリティの甘さが軽く心配になった。

 学園の一部というよりは、近くにある宿泊施設だ。


 門を出て横断歩道を渡ろうとしたとき、ふと、この道路はどこに繋がっているのだろうと考えた。


「おーい、アマギ? どうした」

「あ、いや。なんでもない。行こう」


 フタツキに追いつくようにして寮に入った。


 ………………

 …………

 ……


 入ってすぐに階段があり、その近くに全体図が描かれていた。部屋番号だけ見てもやはり自分の部屋などわからない。

 しかし、2階が1○○号室、3階が2○○号室、4階が3○○号室となっていた。


「ヨォーシ、じゃあ順番に全部見ていくか。視力はいい方だから走りながら見てやるぜ──」

「いや、まぁ最終的にはそうするしかないかもしれないけど……多分学年ごとに階が分かれてるんじゃないか」

「!」

「俺たちは2年だから3階から見ていこう」

「なるほどな。分かった。じゃ、オレは奥の階段使って見ていくからアマギは反対から見て行ってくれ」

「うん、後で落ち合おう」


 宿泊施設のよう、と言っても華美な装飾があるわけではなく、無機質に部屋がズラーっと並び、やはりどちらかといえば刑務所のようなイメージだった。

 冷たいと感じるのは僕が寮生活をしたことがないせいだろうか。

 と、考えていたが別に奇妙な点があった。

 この寮に人の気配が全くしないのだ。

 いや暗殺業をやってるわけではないから気配に敏感とかそんなことはないのだけど。気配というより、物音か。

 ドアのそばには案の定ネームプレートがあり、二人ずつ適当に名前が書かれてはいたが、ドアの向こうからは物音が一切ない。

 軽くノックでもしてみるかと思ったけど面倒くさいことになりそうなのでやめておいた。


 それよりも自分の部屋探しだ。

 拠点というのは重要だ。

 フタツキはプールの準備室に居を構えていたようだが、そういう『帰る場所』があるというのは心を救う。

 僕はこの世界についての考えはまだあまり定まっていないし、正直フタツキに流されるがままという感じは否めないが、全く知らない場所で夜を迎えるというのは恐ろしいと思う。

 そんなことを考えながらひとつずつ確認していったが自分の名前は見つからない。まぁ人数が人数だからとても広い。


「外から見たよりも、広いんだな……」


 そこそこ歩いてようやく廊下の角が近づいてきた。この角を曲がったら、また同じように無機質な廊下が続いているのだろうか。


「あ」

「おっと」


 フタツキに鉢合わせた。


「ふーっ。ようやく会えた。思った以上に広いなここは」

「見つけたのか? 部屋を」

「あぁ、向こう側の階段のすぐ側にあった」

「なんか徒労感……」


 案内され部屋にたどり着いた。

 ネームプレートには僕とフタツキの名前が書かれていた。


「同部屋?」

「そうみたいだな! やったな!!」


 フタツキは妙に嬉しそうにしていたが、僕はそのことについてはあまり感想はない。まぁ便利か。

 それよりも、


「それよりもなんでB組の俺とA組のフタツキが同じ部屋なんだ……?」

「ふーむ? たしかに」

「そもそも部屋の割り振り方はどうなっているんだろうか」

「まっ、難しいことはいいじゃん。入ってみようや」


 疑問が拭えないまま、またフタツキに流されるようにして部屋に入った。

 この世界の自分が帰る場所に。


 部屋の中は机が二つ並び、その後ろに二段ベッドがあった。

 しかし、それらにはあたかも誰かが住んでいるのではないかと思わせる使用感があった。

 しかも教科書や本、バランスボールまでもがそこらに転がっていた。

 名前の欄には僕たちのフルネームが書いてある。

 筆跡もおそらく一致するのだろう。


「これは……」


 なんだこれは。

 僕は恐怖を感じていた。

 誰かがこの世界に僕たちを組み込んだのではないかと思わざるを得ない。


「こりゃ大変なことだぜ……」


 楽観的に努めてきた(?)フタツキもこれには驚愕していた。


「二段ベッドってことはどっちが上か下かを決めなきゃいけないじゃないか……」


 楽観的だった。

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