ver.3.0 仲間
オールバックの後ろで廊下を歩き続けた。
こいつはどこに向かっていて、何を知っているんだろうか。
今ここで尋ねてみても良かったのだが、なんだか今から行く「その場所」に着いてから説明があったりするのではないかと考え、憚られた。
……なんとなく気まずくなってきた。
いつまで歩き続けるんだ?
それくらいは尋ねてみてもいいかも。
「プールだ」
突然オールバックが言った。
心を見透かされたようでびっくりした。
「プールがなんだって?」
「いや、今どこに向かってるのかくらい言った方がいいかなって」
最初よりもどこか物腰柔らかな物言いになっていた。
もしかしたら何も知らないのかもしれない、と思った。
境遇的には僕と同じなのかも、と。
そうして本校舎からは少し離れたところにあるプールにたどり着いた。
「こっちに」
と、プールの近くにある小屋?に案内された。
ビート板やらパドルやらが綺麗に配置されており、どうやら準備室のようなものなのかと思ったが、隅にあからさまに異質なものが置かれてあった。
「まぁ、適当に座りなよ。ここもこの時間は誰も来やしない」
「怖いこと言うな……」
その異質なもの、ふかふかそうなソファにオールバックは腰掛け、僕もその対面に同じようにあったソファに座った。
オールバックは、「あー……」と、後頭部をわしゃわしゃと掻きながら考えあぐねていた。癖なのだろうか。
特に何か決まったわけでもなく、少し困ったような顔で口を開いた。
「そのー……、以前ここに来たことがあるか?」
なんとも、単純でない質問であると思った。
「ここを知っているかという意味ならYESだけど、実際に自分自身がここにこうして来るのは初めて、かな」
「質問の意図を汲み取ってくれてありがたい。少し手間が省けたよ」
そこで少しだけオールバックは表情を緩めた。
「いや、オレも先輩ぶってはいるけどここに来たのは初めてなんだよね。それでも多分アンタよりは早く来たんだとは思う。このプール準備室を根城にしてね。もう2日くらい経つのか」
周りを見回しながら続けた。
「オレには元の世界があった。同じような人間を探し続けて、今見つけたというわけだ」
「なるほど」
なるほど。2日間。言葉にすれば短いように感じるが、実際には長かったことだろう。
僕はすぐにオールバックに会うことができたが、もし何も解決しないまま時間だけが流れていったら精神を病んでいたかもしれない。
「それで、だ。本題だが、オレはこの世界に長居するのは危険だと考えている。そりゃあこの世界は魅力的だ。『dear Lover』はやり込みまくったし、攻略本も穴があくほど読み込んだ。しかしどうやってもオレたちはこの世界では異端なわけだから、元の場所に戻らなくてはオレはオレでなくなってしまうのではないか、と2日間の間に考えた」
「…………」
僕はじっとオールバックの足を見つめていた。
正直に行って、理解がそこまで追いついていなかった。
が、言っていることは分かるし、正しいと思った。
多分、僕でも時間があれば同じ結論にたどり着くんじゃないだろうか。
「つまり、俺とお前で協力して元の世界に戻る方法を考えようと、そういうことか」
「その通りだ。協力してくれるか」
「俺の名前はアマギ海良だ」
少し間を空けてから、
「……フタツキ樹だ」
フッと笑いながら名乗った。
そうして立ち上がって近づいてきたフタツキと握手をした。
少し、いやかなり気恥ずかしかった。