ver.1.0 三次元との別れ
窓の外を見ていた。
窓との外にはややピンク色を残した木々が生い茂る校庭があり、体育の時間と思われる生徒たちが、春というにはいささか暑すぎる気候にうんざりしながらのそのそとサッカーをしていた。
同情はするが共感はしない。
なぜなら僕は窓の外に対し、内にいるからだ。
こちらには冷房があり教室を適切な、いや、少し寒いくらいの温度で教室中を冷やしてくれている。
もうそろそろしたらジシュセーのある女子が教師に抗議する頃合だろう。
しかしどうして冷えた教室でカーディガンを着ているとこうも気持ちが良いのだろうか。
なんだか眠くなってきた……。
あくびをかみ殺しながら少し目を細めて、さらに外を見やる。
校庭の、学校の外には海が見え、遠くに海鳥たちがちらほらと飛んでいた。
海鳥たちが薄くかかった雲に消えていくところを見届けようと思ったが、意外にもしぶとく空を飛び続ける彼らに僕は興味を失くして、再び校庭に視線を移した。
七人対七人で行われていたはずのサッカーはいつのまにか三人対四人になっており、多くの生徒が日陰の方で寝転がっていたり、座って談笑したりしていた。というか、教師も日陰にいるし。
「おい、アマギ。余裕だな」
「あ……」
外ばかり見ていたら自分のクラスの教師に叱られた。
当然といえば当然。
僕、アマギ海良は授業中に外の様子を観察するという、なかなか高尚な趣味を持っているのだが、教師によってはその態度を改めるようにするようにしていた。
特に今の時間の授業を受け持つのはタニザキだ。
仕事熱心な男だが、生徒からすればそれは喜ばしいことではなかった。
多分、昨夜にかなり徹夜をしてしまったことが響いているのかもしれない。
自分では結構大丈夫だと思っていても、これではいけない。
「すいませんしたぁ」
軽く謝っておいた。
タニザキとて授業を早く再開したいに違いないし、ぼーっとしてるのは僕だけじゃなかった、はずだ。
彼はブツブツ……と頑張れば聞き取れるくらいの声量で何かを呟いたあと授業を再開していた。
とりあえずこの授業だけは真面目に受けておくことにした。
それにしても眠い……。
……………………
…………
……
そうして真面目に授業を受けながら、時には窓の外を眺めながら、本日の授業を受け終えた。
授業が終われば真っ直ぐに帰るだけだ。
僕はコミュニティに属さない。
それは部活や委員会に入っていない、という意味ではなくシンプルに友人と呼べる人を作っていないという意味だ。
休み時間に軽く話したり、グループ活動になれば組むような知り合いはいるが、気兼ねなく休日に遊ぶような友人はいない。
中学生頃からか。どうにも馬が合わないというか、僕とノリの合う人を見つけることはできなかった。
クラスメイト全員と会話したわけではないし、僕にそこまでの積極性があったわけでもない。
ただ、なんか、諦めてしまった。
たまたま僕に運がなくて会話の合うやつが見つからないのか、それとも世界中を探してもそんなやつはいないのか。
後者のように思えて仕方がない。
学校から駅まで出ているバスに乗り込み発車を待つ。
僕はこういう時には大抵一番後ろの席に座る。
後ろから手元を覗き込まれるのが嫌だからだ。
手元にはスマートフォン。画面に映るのは絶世の美少女……。
絵の。
僕は美少女ゲーム、いわゆるギャルゲーに入れ込んでいて、それだけが唯一の趣味と言ってもよかった。
ちなみに自己紹介の時には趣味は読書としている。近いから。
ストーリー重視のものもいいけれど、やっぱり学園生活でヒロインとの恋愛を重視しているものがいい。
僕にはなかった青春だからだろうか。虚妄で現実を補っている。
とにかく、僕はバスの中でギャルゲーをしていた。
本当に全てがいつも通りだったし、特別な行動は起こしていないのに。
なぜだろう。
何かが"この世界"と"あの世界"を繋いでしまったのだ。