7 外はどうなっているのか
「さて、これはどういう状況なんだろうな?」
最初はSF系の異世界に転生したのかと思った。
俺がCWOで使っている武装輸送艦ストラトスフィアの中にいると分かったからだ。
ところがギッチョン。
ダメ元で試してみたら魔法が使えてしまった。
SFの代名詞とも言うべき宇宙船とファンタジー定番の魔法の組み合わせ。
水と油と言うべき関係だと思う。
それとも両方を網羅した世界が存在するのだろうか?
「うーん」
思わず唸ってしまった。
イメージ的に科学と魔法が相容れない気がして微妙なんだけど。
「こんな場所で考え込んでも埒が明かないか」
ならば分かりそうな場所に行って確認するとしよう。
俺は廊下を歩き始めた。
何処に向かうべきかは決めているというか、そこしかないだろう。
ブリッジ──艦橋とも言う──だ。
外の様子を確認するには最適の場所である。
カメラ画像だけで良いなら近場の端末でも充分なんだがね。
色々と調べた上で裸眼でも外の様子を確認したいとなればブリッジしかあるまい。
「はあーっ、どうしてこうなった」
深く嘆息しながらボヤくが生憎と誰からも返事が来たりはしない。
俺しかいないんだから当然だ。
長く引きこもり生活を続けてきたせいで独り言がクセになってしまっているのは問題である。
これからは外に出るようになるんだしと思うと意識して口をつぐむのも当然のことだろう。
変人扱いされるのは御免こうむる。
「…………………………………………………………………」
ブリッジに向かう間の沈黙が耐えがたい。
それだけ独り言が馴染んでしまったということだ。
これは苦労させられそうだが他人の目があることを意識して黙々と歩く。
そんなことをしていると誰かの気配を感じる気がしてしまうんだよね。
複数の目線を感じるというか。
「いくら何でも考えすぎか」
そんな風に言ってから、さっそく独り言が出てしまったことに苦笑してしまう。
何かの拍子に気が緩むとやってしまうらしい。
その後も独り言に苦戦しつつ何とかブリッジに辿り着いた。
そして窓に映る光景に落胆する。
「地球型惑星の衛星軌道上かよ」
目の前に広がる光景は見覚えのない大陸を持つ地球に似た惑星であった。
想定はしていたが実際に宇宙空間にいるという状況はショックである。
もしも地上であったなら、創天神様が家代わりに宇宙船をプレゼントしてくれた可能性もあったからな。
これで更に純粋なファンタジー的剣と魔法の異世界が遠のいた。
「いや、まだだ。まだ終わらんよ」
往生際悪くブリッジの端末を操作して惑星上の様子を大型モニターに映し出す。
「……………」
見事に自然が広がっていた。
「未開惑星か」
無理もない。
オービタルリングどころか軌道ステーションとかもないくらいだからな。
それでも諦めずに地上の様子を確認していくと人の存在をポツポツと確認できた。
しばらく観察を続けた結果……
「訳が分からん」
余計に混乱することになった。
地上で繰り広げられている人々の営みは絵に描いたようなファンタジーの世界だったからだ。
中世ヨーロッパ的な文明に剣と魔法をミックスさせた異世界もののアニメやゲームでよくある光景。
それを確認したことでテンションが上がるかと思ったのだが……
ストラトスフィアの存在があまりにも異質で違和感を強く感じることになってしまった。
観察する前はファンタジーの世界に宇宙船があっても許容できるかと思ったのだが。
実際に確認してみると違和感を己の中に浮き彫りにしてしまうだけであった。
「まあ、いいさ」
地上に降り立つことができれば念願の剣と魔法の世界が確約されているんだ。
そうとなれば降下準備を急ぐべきだろう。
まずは手頃な揚陸艇があるか確認することからか。
最悪、ストラトスフィアでも降下することは可能だけどね。
その場合は宇宙へ上がるのが一苦労になる。
打ち上げ施設が必要になるからな。
この星の文明レベルでは、ほぼ不可能だろう。
魔法でどうにかできるのだとしても年単位での準備が必要になりそうだ。
俺1人じゃ、できることなんて限られているからね。
だからこそ小型の揚陸艇で充分とも言えるんだけど。
それなら宇宙に戻ってくるのも苦労はしない。
問題は、それらの装備が存在するかどうかということ。
神様のサービスで拠点は貰えたみたいだけど細かなオプションまであるかは別問題。
そんな訳で格納庫へ急行した。
よくよく考えればブリッジで端末を操作すれば確認できたんだけど、混乱していたせいか条件反射的に動いてしまっていた訳だ。
「あるね……」
俺がCWOでそろえた各種艦載機が最新の状態でそろっていた。
昔のアニメに影響されて魔改造した大気圏突入および離脱能力を持つ可変人型兵器まである。
これをシャトル代わりに使えば揚陸艇より自由に移動できるし自衛能力もある。
荷物の積載に問題は出てくるから状況に応じて使い分ける必要があるだろうけど。
とにかく選択肢が多いのは、とてもありがたい。
しかも整備用のアンドロイドまでいるし神様のおわびは至れり尽くせりみたいだな。
とりあえず一安心だ。
ホッとしたら喉が渇いてきた。
そう感じた瞬間、不思議と笑みがこぼれてしまった。
生きているという実感が湧いたからだ。
死んだままじゃ喉なんて渇きゃしないんだし。
「こんなに嬉しいことはない、ってね」
とにかくお茶でも飲んで一服しよう。
地上の調査は喉を潤して生を満喫してからでも遅くはないだろうさ。
そう思って今度は食堂へと向かう。
自室にも簡単な調理スペースはあるからお茶を飲むくらいは問題なくできるんだけどね。
これは艦内設備の確認も兼ねての選択だ。
食堂の方が開放感があるというのも理由のひとつではある。
ありすぎると言った方が正しかったりするんだけどな。
やたらと広くて、何処の大企業の社員食堂かってツッコミを入れられてもおかしくはない程だ。
そのせいだろうか。
食堂に到着した直後は違和感に気づけなかった。
メイド服姿のアンドロイドたちに無言で出迎えられて適当な席に着こうとして……
「ん?」
とある一角が気になった。
4人掛けのテーブル席に2人ほど座っている。
食堂のアンドロイドが充電やメンテのために座っている訳ではない。
バックヤードならばともかく食堂の客席だからな。
つまり先客がいたということになる。
どういうことだ?
リアルのストラトスフィアは創天神様から貰ったはずだから部外者が潜り込むことは考えられない。
ならばメイド以外のアンドロイドか。
CWOにおいてはアンドロイドを話し相手として登録するプレイヤーもいた。
この規模の船を1人で所持するというのはそれなりの規模の街に1人で住むようなものだからな。
ただ、俺は登録していなかったけど。
要するに正体不明の何者かということになる。
困惑するしかないような状況だが、ずっとそのままでいる訳にもいくまい。
俺は意を決して謎の2人組の元に向かった。
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