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6 ファンタジー世界に転生したんじゃないの?

「次に目覚めた時は新しい体に馴染んでおるじゃろう」


「へ?」


 俺は創天神様の言葉についていけなかった。

 あまりに行き成りすぎたからだ。

 たとえ大雑把でも説明がまだ続くと思い込んでいたにもかかわらず、ここで終わりらしい。


 これから向かう異世界の情報が何もないのはマズいだろう。

 向こうの常識が白紙状態なのは如何なものかと思うのだ。

 チートでイージーモードを確約していた割にはフォローがぞんざいじゃなかろうか。


 必要最低限の知識くらいレクチャーしてもらわないと困るんですがね。

 異世界だっていうのに言葉が通じないまま放り出されるのは勘弁願いたい。

 だが、抗議したいことが多すぎて何も言えずにいる間に俺の意識は暗転していった。


「……………………………………………………………………………………………………」


 どれほどの時間が経過したのだろうか。

 目覚めは唐突に訪れ眠気は感じなかったのでムクリと上半身を起こす。


「夢ではなかったようだな」


 思わずそんなことを呟いていた。

 事故で半身が麻痺して以来どんなに調子が良くても楽に起きられなくなっていたからね。


「何処だ、ここ?」


 見たことがあるような気がしてならないのに何処で見たのかが分からない。


「あっ!」


 あることを思い出して俺は頭を抱えてしまっていた。


「なんてこったぁ! 知らない天井だごっこができなかったじゃないかっ」


 今更やり直すのは恥ずかしいのでリトライはしないけど。

 とにかく異世界転生したのなら場所の確認からだろう。

 室内は見覚えがあるというのに、ちょっと思い出せない。

 記憶に靄がかかっているという感じではないのだが。

 何か違和感があるせいで記憶検索に引っかからないとでも言えば良いのだろうか。


「こんなところでジッとしていても分かりそうにないな」


 部屋を出て探索すれば何か思い出すこともあるだろう。

 そう思いベッドを抜け出して部屋の入り口の前に立った瞬間──


 シューン


 かすかな音がして自動ドアが開いた。


「ふぁっ!?」


 我ながら素っ頓狂な声だと思ったが、出てしまったのだからしょうがない。

 それくらい驚いたって訳だ。


「どうなってんだ!?」


 俺が送り込まれる予定だった異世界は創天神様が剣と魔法の世界と言ってたはずなんだが。

 これではSFの世界である。


「道理で見覚えがある訳だ」


 思わず呟いていたさ。


「これ、ストラトスフィアの船内じゃないか」


 今まで気づかなかったのも無理はない。

 俺がプレイしてきたVR系のゲームはどれも背景なんかがアニメ調だったからな。

 黎明期のVRゲームはリアルな質感のせいで現実との区別が付けられなくなる者たちが多数出たのだ。

 その対策としてアニメ調の背景が採用されるようになったのである。


 ただ、いざそういう仕様の世界に慣れてしまうとリアルな質感に置き換わった場合は逆に違和感が際立ってしまう訳で……

 実際、俺も気づかなかったしな。


 ちなみにストラトスフィアは俺がCWOで使っていた宇宙用輸送船の船名だ。

 元来は超大型の輸送船だが自衛のため空母や戦艦として運用できるよう魔改造してある。

 故に俺はCWOのゲーム中で勝手に武装輸送艦と呼称していた。

 運営が設定したカテゴリーには存在しないんだけどね。


「じゃなくてっ」


 思わず自分で自分にツッコミを入れてしまった。

 剣と魔法の世界のはずが、どうしてSFワールド全開な状態になっているのか。


「何かの手違いで予定とは違う世界に転生してしまったとか?」


 神様がミスをするのかと思わなくもないが星界神様もウッカリでやらかしてくれているからなぁ。

 創天神様だってやらかしてしまった可能性は否定できない。

 というより結果がそれを物語っている。

 創天神様も星界神様のことをとやかくは言えないのではないだろうか。


 そう思ったが、問い詰めようが責めようが結果は変わらない。

 予定が狂ったせいでテンションがだだ下がり……にはならなかった。

 記憶を残したまま人生をやり直せるってだけでも凄いことじゃないか。

 こんな貴重な体験は何度生まれ変わったってできやしないはずだ。


 という訳で、ここはひとつ前向きに考えよう。

 何よりもストラトスフィアがあるのは大きなアドバンテージだ。

 そこらの宙族──いわゆる宇宙海賊のことだ──などは軽く蹴散らせるからな。

 CWOっぽい世界で無双できるなら、それはそれで有りだと思う。


「魔法は使ってみたかったけど」


 人差し指の先に炎を灯すだけでも格好いいと思うし便利だもんな。

 戯れに目の前で人差し指を立ててロウソクの炎をイメージしてみる。


「なぁんて……ぬぇっ!?」


 イメージ通りに指先から炎が出た。

 そのことが逆に混乱を呼び起こす。


「どういうことぉっ!?」


 SF系の異世界に転生したんじゃなかったのか。

 それともSF系でありながら剣と魔法の世界なのか?

 訳が分からない。

 そんな世界観のゲームをプレイした覚えがなかったからな。


 俺が知らないだけかもしれないがアニメや漫画などでも見聞きしたことがないし。

 混乱しているせいか5本の指先に炎を灯してみたりもした。

 それだけでは飽き足らず、炎と同時に光、水、氷、風もイメージしてしまう。

 別々のイメージなのに楽々成功してしまった。


「あ、しまった」


 成功したが故に己の軽率な行動に顔をしかめてしまう。

 水と氷の魔法を廊下で使えばどうなるかくらいは考えておくべきだった。

 ここが宇宙空間でもストラトスフィアの船内なら重力制御装置によって水が浮いて漂いはしない。


 が、それ故に廊下を水浸しにしてしまうことになる。

 古いSFなら隙間から入り込んでどうこうという致命的な話になりそうだ。

 ストラトスフィアの中ではそういうことにはならないのだけど面倒な拭き掃除をしなければならなくなる。

 現状は指先で生成して保持しているから問題ないが集中力が切れればアウトだろう。

 そうなれば何処にあるのかも不明なモップを用意するところから始めなきゃならん。

 CWOで遊んでいた時はしなくて良かった苦労をさせられるハメになるとはね。


 どうしたものかと考えて……


「仕舞い込めばいいのか」


 という結論に達した。

 よくよく考えれば飲み水として口に放り込むだけで充分だったのだが。

 もしくは水を扱う設備まで持っていくとかな。

 いま出てきた自室にも洗面台や風呂はあるのだし。


 にもかかわらず俺はより手間のかかることをしようとしていた。

 水球と氷の塊を維持させたまま空間魔法を使うというのは我ながら無茶をするものだ。

 思いのほかあっさり成功したけどさ。

 そんな訳で亜空間に収納した。


「ハハッ、こりゃチートだね」


 さして労せず魔法を使いこなしているんだから。

 詫びだと言っていた創天神様が頑張ってくれたのだろう。

 実にありがたいことだ。


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