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4 神様だってさ

 勇斗は目の前の老人を見据えたまま思考を巡らせ、人の記憶に介入してくることから目の前の仙人爺さんは神か悪魔だろうと見当をつけた。

 わざわざ詫びに来たところからすれば悪魔ということはなさそうだ。


 それはそれとして本当に自分は死んでしまったのかと、ようやく納得した。

 納得してしまうと死んだことよりも頭の中に流れてきた情報の方が気になるから不思議なものだ。

 まあ、因縁の相手がとんでもないことをしでかしていたから不可抗力ではあるか。


「執念深いオッサンだな。ストーカーかよ」


 コイツは階段から俺を突き落としてくれた元上司なんだが、会社勤めをしていた頃は何故か俺だけ目の敵にされていた。

 理由はよく分からん。

 あえて言うなら、たまに口をついて出る関西弁くらいだろうか。

 奴はあれに顔をしかめていたからな。


 それくらいしか思い当たらないのだけど「その程度でか?」とも思う。

 親の実家が関西だから家庭内ネイティブは関西弁なのだが。

 そのせいで外では標準語だけど、何かの拍子に関西弁が出てしまう。

 ツッコミを入れる時とか。


 それはともかく奴の行動は異常だ。

 俺の自宅にガソリンをまいて火を付けようとしていたからな。

 俺に対する殺人未遂で刑務所送りになったはずなんだが目的は復讐か。

 出所したその足で殺しに来るとか微塵も反省していない


 奴が相続するはずだったものは俺への慰謝料に化けたから恨みを募らせたってところか。

 逆恨みもいいところだ。

 そんなだから火を付ける前に落雷で死ぬのである。

 天罰覿面ってな。


 ただ、その落雷でガソリンに引火して奴の目的が達せられたのは業腹だ。

 思い出すだけでもムカムカするが、その点についてはとりあえず横に置いておくとしよう。

 確認しておきたいこともあるのでね。


「幾つか聞いても?」


「もちろんじゃ」


 仙人爺さんが大きく頷いた。


「あなた方は神様か、それに準ずる存在ということでよろしいですか?」


 この質問に仙人爺さんは軽い驚きを見せていた。


「お主、無神論者ではなかったか?」


「客観的事実からそうではないかと考えただけですが」


 世の中には徹底して神という存在を信じない者もいるようだが俺は夢の中でさえ遭遇したことがないから信じていなかっただけだ。

 何処かの大学教授みたいに非科学的だとかどうとか無理やり理屈を付けてまで存在を否定するつもりはない。


「あっさりしとるのう」


 仙人爺さんが苦笑する。


「死にかけた上に不自由な体になってしまいましたからね」


 俺も苦笑で返す。


「変に固執してもどうにもならないことばかりでしたよ」


 どんなにリハビリしても元通りにはならなかったせいで色々と諦める必要があったのは正直つらかった。

 趣味だったプラモ作りはそのひとつだ。

 イラストを描くのはリハビリにも使われていたVR技術が発達していたお陰でデジタル限定で継続できたけど。

 それが切っ掛けでVRMMOにのめり込むことになったんだけどな。


 決して悪いことばかりではなかった、かな?

 ただ、復讐に取り憑かれたストーカー元上司のお陰で災いを転じて福となすとまでは言い切れなくなってしまったけれど。


「なるほどの」


 仙人爺さんは俺の説明で納得してくれたようだ。

 話が早くて助かる。


「それで、ご老人は神様ということでよろしいのでしょうか?」


 脱線していた話を元に戻すべく再び質問した。


「いかにも」


 仙人爺さんは大きく頷いて肯定した。


「ワシは創天神イスカリオン」


 そのまま自己紹介を始める仙人爺さん。


「土下座しっぱなしだった彼奴は星界神ステラリーという」


 なんだか美人さんも含めて凄そうな肩書きの神様だ。

 名前とミスマッチに感じるせいかイメージは相変わらず仙人爺さんのままだが。

 美人さんの方もコスプレ女子というのが頭にこびりついている。


 まあ、コスプレではなくリアルであの見た目なんだろうけどさ。

 そう考えるとコスプレ女子というのも変なのか。

 とりあえずイメージの話は保留だな。

 創天神様の話を聞かなきゃならんのだし。


「分かりやすく言えば、ワシはあらゆる世界を管理する最上位の神じゃ」


 凄そうじゃなくて本当に凄かった。


「星界神はそれに次ぐ上級神という位置づけではあるのう」


 それにしては、やたらと腰が低かった。

 いきなり土下座されてしまったもんな。

 そのせいか創天神様の口ぶりも含みがあった。


「残念なことに」


「残念なんですか?」


 まあ、何の事情も説明せずに土下座するような残念女神様だし。


「うむ、碌に確認もせずに天罰を下すようなおっちょこちょいじゃからな」


 その言葉で現状に至るまでの事情をなんとなく察してしまったさ。

 天罰を下されたのが逆恨みしてきた元上司なのは確定と言って良いだろう。

 でもって奴がまいたガソリンが落雷の影響で着火して俺まで巻き添えを食ったと。


「つまり、俺は天罰のとばっちりで焼け死んだ訳ですね?」


「そうなんじゃよ。誠に申し訳ない」


 仙人爺さ……創天神様が深々と頭を下げて詫びてきた。

 油断すると仙人爺さんで呼びそうになるな。

 内心での話だから問題ないのかもしれないけど。


「いえ、もう充分に謝ってもらいましたから」


「お主は随分とあっさりしとるのう」


 創天神様は俺が状況を受け入れたことが信じ難いようだ。

 妙に感心されてしまったが、そうではない。

 神様に謝られても困るし焦るというのが俺の本音だ。

 生き返れないようなことを既に聞いているからな。


「それで俺はどうなるんです?」


 俺の存在が元の世界から抹消されてしまっているなんて神様に言われたし、そちらの方が気になる。

 おまけに一番偉い神様にそれを言われちゃどうにもならないだろう。

 だから今後の処遇を確認しておかないと落ち着かない。


「そう警戒せずとも悪いようにはせんよ」


 是非ともそうありたいものである。


「死ぬ前の状態には戻せないんですよね」


「疑り深いのう」


 創天神様は、ホッホッホと笑っている。

 そう言われてしまうとなぁ。

 事実の確認をしておかないと後悔するのは自分なんだし。


「では、具体的にどうなるか聞いてもいいですか?」


「もちろんじゃ」


 創天神様はそう言って、しっかりと頷いた。


「とは言うても別の世界で人生のやり直しをしてもらうことになるだけじゃがな」


「なるほど……。異世界転生ですか」


 元の世界に戻れないというなら妥当な線だろう。

 やり直しの人生が生前よりハードになるというなら話は別だが。


「お主の世界の住人はそういうのが好きじゃったのう」


「否定はしませんよ」


 むしろ好物の類いだと言って良いだろう。

 でなきゃVRMMOにハマったりはしなかったさ。

 VRの世界なら麻痺なく自由に動けたっていうのもあるけれど。

 とにかくワクワクしているのは事実だ。


「うむ、顔に出ておるな」


「えっ!?」


「ホッホッホ。冷静なように見えるがそうでもないのう」


 冷静に見えていたのであれば買いかぶりである。

 創天神様の仰る「そうでもない」方が本来の俺だからな。


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