21 一方的にトドメを刺すだけの簡単なお仕事?
落とし穴に落ちたゴブリンは魔法を練習するための的でしかなかった。
穴は結構深くて奴らの能力じゃ底から這い上がってくることはできないからね。
加えてどいつもダメージを受けて身動き取れない状態である。
すでに絶命している奴もいるな。
そんな訳で実践的な訓練はお預けだ。
標的はほぼ動かないし魔法の威力調整の感覚を掴むための練習に専念することになった。
順番をじゃんけんで決めて交代しながら単発の魔法を当てていく。
ほとんどルーチンワークみたいなものだ。
とはいえ、52匹すべてのゴブリンを始末し終えた時には加減のコツがつかめたと思う。
収穫ありってことだ。
経験値は元から低い上にパーティを組んでいるから分割配分されるということもあって、ほぼ得られなかったけどな。
まあ、ゴブリンだけでレベルアップしようとしたら何百万匹と狩らねばならないが。
この辺り一帯のゴブリンを狩りつくしても不可能な数字だし現実的ではない。
それならランクの高いゴーレムでも召喚して破壊する方がマシだ。
が、今はレベルを上げるより加減を覚えるのに合わせて実戦の感覚を身につけるが先決である。
血を見て卒倒するなど論外だし、直に魔物を傷つけた際の手応えに不快感を抱いて吐き気を催すのもNG。
一仕事終わった後の落とし穴の中はグロ注意になっていたんだけどセーフだった。
VRMMOのゲーム内ではリミッターがかけられていたから慣れているとは言い難いはずなんだけど。
我ながら不思議なくらい落ち着いていた。
「うーむ」
唸りながら首を捻ってしまう。
田舎暮らしをしていた頃は鶏や獣を解体したこともあるけど、グロさで言えばこちらの方が上なんだが。
「何か腑に落ちないことでも?」
スィーが聞いてきたので疑問に感じたことを言ってみたところ同意して考え込み始めた。
「そんなのどうでもいいニャ」
レイは我関せずである。
「おそらくですが」
そう前置きしてケイトが話し始める。
「私たちの体が龍の素材でできているからではないでしょうか」
具体的に言うと体と魂が融合したことで相手の性質を引き継いだということらしい。
「つまり龍が見たゴブリンなど羽虫も同然な訳か」
この感覚が人間相手に出てしまわないように注意しないとね。
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訓練は続く。
「この辺りはゴブリンばっかだニャー」
何度目かの戦闘を終えた後にレイが愚痴った。
「その方が調整がスムーズに行くと思うんだけど?」
「ケイトの言うことは分かるニャ。でも、たまには違う魔物とも戦ってみたいニャ」
こういうところで性格の違いが出てくるのは何も不思議なことではない。
元は犬と猫な訳だし。
でカラスだったスィーはというと何やら考え込んでいる。
「どうした?」
俺が声をかけると少し戸惑ったような視線を向けられた。
クールな澄まし顔がスィーのデフォルトなんだけどレアな表情を見せてもらったな。
「ゴブリンしかいないのは不自然」
「どういうことニャ?」
「こんな岩ばかりの場所で遭遇するにしてはゴブリンの数が多すぎる」
スィーの指摘に俺たちは「あっ」と声を上げていた。
いくらゴブリンに知性が感じられないと言っても餌場を確保しないはずがない。
だが、この辺り一帯は草も満足に生えていない岩場である。
千に届こうかという数のゴブリンの胃袋をまかなえるほどの食糧が確保できるような場所でないのは明らかだ。
「よそから追い出されたんじゃないかニャ?」
レイが冗談めかして言ったかと思うとNYAHAHAと乾いた笑いを漏らした。
「それにしては数が多すぎよ」
ケイトは即座に否定したものの深刻には捉えていないようだ。
「だよニャー」
レイも苦笑しながら応じたのだが。
「スィー?」
1人だけピリピリした空気を発しているのが気がかりだった。
俺にも思い当たる節があったからだ。
ファンタジー系のラノベではそこそこ定番のネタだし、FFOでも特別なイベントとして参加した経験がある。
「あんまり考えたくはないが、弱い個体が大量に押し出される事例はある」
「それってもしかして……」
「スで始まる6文字のやつかニャ?」
「もしかしなくてもスタンピードだ」
「「うわーっ、ぶっちゃけたぁ」」
「別に隠してもしょうがないだろう」
「そうですね。対応しないといけません」
「スィーは何で躊躇ってたニャ-」
抗議するようにレイは言うが、スィーは堪えた様子もなく平然としている。
「確証がなかった」
「うぐぐ」
身も蓋もないスィーの言葉にレイは唸るしかできない。
それに対してケイトは切り替えが早い。
「そんなことより本当にスタンピードの兆候なのかを確認しないと」
ゴブリンは北側に連なる山々の方から来ていた。
「山脈の向こうから来ているっぽいな」
ゴブリンの体力でよく山越えできたものだとは思うけれど。
スィーが確証がなかったと言ったのは、そこに引っかかったからだろう。
「脱落したのもいるはず」
そういう考えに至るのも当然か。
「えー、死体は見てないニャ」
囮として釣り出しの役割を一手に引き受けていたレイがそんなはずはないと抗議してきたけどね。
「共食い」
スィーが顔をしかめながら言った。
奴らの食糧事情を考えれば妥当な推測だが生でグロいのを見るより忌避感を強く感じる。
「シャレになんないニャ-」
レイは言いながら身震いしていた。
「奴ら悪食みたいだからな」
こういう知識は素材となった龍が持っていたようなので助かっている。
「とにかく山を越えてきているのかを早急に確認すべきでしょう」
ケイトがポジティブな意見を出してきた。
「ドローンを向かわせるか」
「麓の方にも行かせるべき」
言いながら正反対の方向を気にするスィー。
「そうね」
「どういうことニャ?」
ケイトが同意する一方でレイが首をかしげている。
「麓の方に森林地帯があるでしょ。集落があるかもしれないじゃない」
疑問に答えたのはスィーではなくケイトだった。
「えーっ!? 人が住んでなさそうだからこの地方にしたんじゃないのニャー」
「あのね……」
ケイトが呆れ顔で嘆息する。
「住んでなさそうイコール住んでないじゃないのよ」
僻地や秘境でも意外と住人がいたりするものだ。
候補地の選定をした時に部外者との交流がほとんどなければ問題なしとして絞り込んだので原住民がいてもおかしくない。
「知らなかったニャ」
「それはアンタが場所の絞り込みを手伝わなかったからでしょ!」
目をつり上げてレイに詰め寄るケイトさん。
「うっ、やぶ蛇だったニャ」
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