注文~いただきます
店主が調理の合間にラジオを付けた。地方のAMラジオから流れてくる女性アナウンサーの声。リスナーからのリクエストを流しながらアナウンサーが身近な出来事を話していた。
スマホから、ふと目線を逸らした時調味料セットが見えた。胡椒、酢、ラー油、醤油、塩、爪楊枝、ティッシュ、アンケート用紙。それぞれ調味料には漏れなく埃がうっすらとかかっており、私はそれらを使わないことを心の中で決める。ティッシュも二枚目から使うことにしよう。
ピピピピピ……とキッチンタイマーの音が鳴り、店主は麺を湯切りし始めた。そして慣れた手つきで次々と盛り付けしていき、ドンと私の目の前に味噌ラーメンが置かれた。
「お待たせしました!」
私は空いたこの腹に勢い良く流し込みたくなる衝動を抑えつつ、まずは割り箸を手にした。そして割り箸をカウンターの下でブンブンと振り埃を落とす。勢い良く割った割り箸は片方が途中から折れてしまい幸先の悪さが窺えた……。
味噌色のエーゲ海にはやや厚めのチャーシュー島が隆起し、島の隣にはもやしの森が生い茂り、そして森を抜けると丼に架かる海苔橋へ到着する。私は容赦無くチャーシュー島をかっ攫い半分に食らいついた!
……
…………
………………
そして私は咀嚼したまま反応が出来なくなった。それ程に味の感想に困る普通のチャーシューだった。
ミステリードラマのオチが気になる人の様に麺とスープを勢い良く頬張りネタバレを歓迎した。
しかしそこには普通の人が普通に人を殺して普通に逮捕されるサスペンスドラマの様な退屈な味が広がっていた。
これならつまらない意地を張らずに友達と寿司を食べに行った方が良かったのではないかと、頭の片隅に後悔の念が顔を出す。
平日の昼の閑散たる理由の最たるを味わいながら、競馬新聞に目を落とす店主をチラリと見た…………