入口~注文
自動ドアの先はとても清んだ空気が流れており、とてもラーメン屋とは思えない清々しさがあった。私は入口から店内を見渡す。入口隣に券売機、その隣にセルフの冷水器、そしてカウンター席にテーブル席。そこまで広い店内ではないが人気の無さが広い空間を演出している。
「いらっしゃい!!」
厨房の奥から店主と思われる男がひょっこりと顔を出した。何故店主と思ったかって?
それはその男が慌ただしく競馬新聞を畳んで耳にかけていた鉛筆と一緒に無造作に置いたからだ。雇われで勤務中に競馬新聞を読む奴が居たとしたら、そいつは並外れた常識知らずか競馬中毒のどちらか、もしくはその両方だ。
私は券売機の前に立ちメニューを見た。シンプルな【ラーメン】に始まり【野菜ラーメン】【豚骨ラーメン】果ては【生ビール】まで置いてある。私は食券を買うタイプのお店が苦手だ。何故なら半券の残りをコレクションしたくなる衝動に駆られるから。つまりその気が無いのに全メニューを制覇したくて仕方ないのだ!
私は財布と相談しながら、味噌ラーメンにしようと思いお札を一枚手にした。だがそこで店主が一言。
「―――あ、すみません。ソレ今壊れてるのでご注文は直接お伺いします。申し訳ありません」
私は店主の顔を見た後再び券売機を見ると先程は目にも止まらなかったお金の投入口が張り紙で覆われており『故障中!注文は直接お願い致します』と書かれているのに気が付いた。
私はお札をしまい、味噌ラーメンを一つ頼んだ。
「え?二つですか?」と聞き返す店主に、私は人差し指を立て「一つ」と返した。この店は一人でラーメンを二つ頼む奴がいるのか? 例え二つ頼むにしても味を変えるだろう。さては久々の客で気が動転しているのか? 私は少し首を傾げながらカウンター席に座ろうとイスを引いて……戻した。イスの真ん中でビニールが裂けており座り心地が良くない気がしたからだ。
イスを戻しセルフのお冷やを取りに行き、先程の隣のイスに何食わぬ顔で座る。そして味噌ラーメンが届くまでスマホをいじることにした。
「忙しいならいいや。寿司屋の割引券当たったから皆で食べに行ってくるぜ!」
そっとSNSを閉じお冷やを一口。寿司以上に期待を込めるのは酷だろうが、私はこのラーメン屋で寿司以上の満足感を得る必要が出来た。出来たと言うより、より忙しくなったと言うべきか…………。
早くラーメン食べたい