焼肉とキシリトールガム -4-
「僕と、付き合ってください」
「嫌でーす」
僕が半ばやけっぱちで行った、4回目の告白も、あっけなく散ってしまった。
しかし、毎度のことながらこんなことなんかでは、へこたれていられない。
「どうして、駄目なんでしょう?最近の僕はバンジージャンプやスカイダイビング、更にはスキューバダイビングなどに果敢に挑戦しておりまして……大分度胸と自信が付いてきたと思います。昨日母親にも”あんた顔つきが男らしくなったね”と言われたばかりでして……」
そう食い下がる僕を尻目に、彼女は爪に塗ったマニキュアを、息で吹いて乾かしているところだ。
「すごいねー」
彼女の気の無い返事であったが、僕は十分に嬉しかった。
「ええ、これで貴女に見合うだけの男になれたと思います」
「それはどうかしらねぇ……」
彼女は手鏡を見ながら、睫毛の具合を気にしているようだった。
「あれ、つかぬ事を伺いますが、もしかしてこれからお出かけですか?」
「うん、デート」
僕の心臓はキュッと小さくなった。多分ノミくらいのサイズになったと思う。
「デ、デート……!?お、お相手は誰なのですか?」
「そんなこと、あんたには関係ないでしょ」
彼女は手鏡を折りたたむと、ハンドバッグに入れて立ち上がった。
普段よりも、派手な服装と化粧なのは”デート”の為だったのか……てっきり僕の事を意識しているのかと思った。
「ちょ、ちょっとお待ちになられて!」
「なに、その言葉遣い……へんなの」
僕は彼女を引き留めたい一心であったが、そんな権利が今の僕に無いことは重々に承知していた。
だから、今できる精一杯の方法を取った。
「僕は、次はどこを直せばいいと思いますか?貴方に見合う男になるために……」
彼女は少しだけ面食らったような表情を見せた。そして、腕を組みつつ、考え込むような仕草をとった。
「そうねぇ……」
彼女は僕の事を見ようとはしない。”うーん”と小さくて可愛らしい唸り声を上げた
「そうだ、あんたスポーツ初めてみたら?」
「スポーツ……ですか?」
彼女はコクリと頷いた。
「私高校の時、野球部のマネージャーやっててさ。運動に燃える男子って萌えるんだよね」
「そ、そうでしたか」
僕の胸中には曇り空が広がった。……運動は大の苦手なのだ。
「まあ、そろそろ行かないと……じゃあ、がんばってね~」
彼女が行ってしまう。
さあ、どうする?僕。
僕は一生懸命、頭を悩ませた。
僕の脳細胞よ、この先一切頑張らなくていいから、今だけ頑張っておくれ。
そうすると、困ったことに何もアイデアなんて浮んでこなかった。
僕は咳払いをコホンと一度だけすると、去っていく彼女の背中を見つめた。
「今日は、いつもの”しょーもない奴”言わないんだね」
そう言い残して、彼女は去っていった。
恐らく、僕自身が ”しょーもない奴” なんだろうな、と思った。
焼肉とキシリトールガム -4- -終-