2037年7月11日(土)、PM3:30、茨城県東茨城郡大洗町「大洗港フェリーターミナル」
大洗マリンタワーの展望室から、往年の戦闘機を駆使したものすごい飛行技術を見せつけられた私。
完全に毒気を抜かれてしまった。私だってそこそこ、みたいな気分だったのに、「それは違う」と悟らされてしまった。
間もなく30代を終える、熟練のパイロット達の飛行技術。経験に裏付けられた戦闘機乗りの実力は伊達ではないのだ。
「私があの域に達する頃には、もうおばあちゃんかもなぁ・・・(タイムリミットで多分無理だな)」
私と葉子ちゃんは、大洗サンビーチ方面の視察・測量も終えて、大洗港フェリーターミナルまでやって来た。どうせなら、北海道などを目指すでっかいフェリーを眺めながら食事休憩する事になったのだ。辺りには「めんたいぱーく」や「大洗シーサイドステーション」などの商業施設もあるのだが、今晩行われる「大洗海上花火大会」目当ての人達で劇混みだろう事を予測して、少し落ち着けそうなフェリーターミナルの方を選んだ。
吹き抜け構造のターミナル・ビルの3Fには港と船を展望出来るカフェが併設されていた。私は擬体用のコーヒーとサンドイッチを。葉子ちゃんはカフェラテとハンバーガーを頼んだ。
「そんなに凄かったの?」
葉子ちゃんが聞き漏らさず、問いただして来た。
「うん。あの飛行機すごく古いんだ。だから、FBWって言うコンピューターのサポートが無いんだ。それでも最新の飛行機と同じ様な飛行をしてるけど、あれは凄く難しい。あんなに綺麗な線を描いて旋回するなんて・・・・・・」
「ナヲちゃんはあの人達と友達なの?」
「ううん。どちらかと言うと隣に住んでる喧しい世話したがりオジサンみたいなものかな。着陸の時なんか、時々、無線に割り込んで来て、やり直しさせられたりする。グライド・パスの線取りが雑だって」
「怖いねー」
「他の基地では大昔に墜落事故をか起きてるから、安全にものすごく厳格なんだ」
「無人機だとナヲちゃんは大丈夫だけど・・・」
「そう、飛行機が民家の上に落ちたら大惨事だ」
そして、私はもう一つ気が付いた事があった。戦術偵察機のRF-15DJは例外なく、全機体が二人乗りだ。そして、前後座席の両方がパイロットだ。何かあればいずれかが操縦桿を握って、必ず帰還出来る。
「二人乗りって羨ましい」
「え?」
「もし、私が操縦桿を握る時、葉子ちゃんがいつでも後ろにいてくれたら良いな、と今凄く感じてる。今日のペックとパインの二人を眺めていたら、そう感じた」
「飛行機にダイブしてる時、いつでも横にいるじゃん」
私は困った。この微妙なニュアンスをどう伝えたら良い物か今はまだ解らない。
「あれは何時も感謝してる。ありがとう。でも、あれはあれ。これはこれなの」
「まあ、善処はするよ。死ぬ時は一緒みたいな心中になりかねないけど」
「それは嫌だー」
すこし化粧の乗りが良過ぎそうなウエイトレスさんが、食事を運んで来てくれた。話を切り上げて、食事に掛かる。かと思うと、葉子ちゃん貰って来たフェリーのパンフに目を通し始めた。
「今、停泊してるフェリー「さんふらわあ・さっぽろ・ふらのII」って言うんだって」
「ふーん。北海道行き?」
「うん。19:45発だって」
「なるほど。最初の花火の打ち上げを出港する船の甲板から見られるんだ」
「所要時間は17時間だって」
「長い・・・」
「でもそんだけ一緒に居られるって事じゃん」
「なるほど。船ってサイコー」
そこでスマホにメッセージが着信した。テーブルに置いたまま指だけで操作する。あ、鴨田さんからだ。
「鴨田のオジサン、もう着くってさ」
「この間の校庭でやった綱引き大会以来かな?」
「うん。今、東水戸道路水戸大洗IC降りたって。えー合流は予定通り・・・大貫小学校跡。あ、今書き換えられた。大洗港フェリーターミナルの到着出口近くの駐車場だって」
「ここにいるのバレてる?」
「間違い無く・・・つまり、アイダさんも一緒に乗ってるって事よ」
「男子力、高過ぎね? ここまで迎えに来てくれるんだ」
「一歩間違えばストーカーだよ。悪気はゼロだろうけど」
葉子ちゃん、そう言うと無言でお手洗いに。そして、私は急いでお会計を。こういうのも阿吽の呼吸って言っても良いのかな? 当然の様に、一つの目標に向かって最短コースを、自発的に打ち合わせ無しで選択するなんて。
そして、大洗港フェリーターミナルの到着出口近くの駐車場に移動して待っていると・・・いつぞやの"戦車みたいな車、軽機動装甲車(L.A.V.)が駐車場の入口から敷地内に入って来るのが見えた。最初からそんな気がしていたけど、やっぱり、だよね。悪い意味で期待を裏切らない。
葉子ちゃんもうは慣れたもの。今回は松本で最初に乗った時は違って、自分から正しい乗り方で車内に勝手に入って行った。物凄い適応力だなあ、と感心する。この娘なら、不意に擬体化されてしまっても、すぐに日常を取り戻してしまうんじゃないだろうか?




