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天の魚、地の翼。  作者: すにた
第二章「翔」
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2037年7月11日(土)、PM1:30、茨城県東茨城郡大洗町「大洗マリンタワー」

 大型フェリーも着岸する大洗港に隣接する大洗マリンタワー。展望台は約5mの高さだと言う。天候次第では富士山や日光の男体山とかも見えるらしいけど、今回の来場の目的はそれじゃない。夏だからどうせ、そんな遠くの物は見えないだろうし。


 私達は早々に展望台に上る。展望台を一周して、私は全周風景の建築物のマッピングする作業を開始する。


「大洗港は立ってる棒が歪んでる以外は前回の測量と変化ないみたい」

「擬体ってのは本当にスゴイね」


「そりゃ、手の届く範囲の状態なんか、かなり精密にマッピングされてるからねえ。それも無意識のうちにさ」

「遠い物のマッピングなんか造作もないって事か」


「うん。二眼のメリットだよ。観測点にズレがあるから遠近差を確実に把握できる。これにオプションの多眼(自立プローブなど)も併用すると、より死角の少ないマッピングが出来る。もっとも、宿っているユーザーが日常からそう言う事に興味あればだけど」

「なんで?」


「自転車に乗れない人がオートバイに突然乗れないでしょ?」

「うん?」


「過去に経験を積んだ技術に似たような事なら、初めてでもぶっつけ本番で何とかなるのと同じ。擬体の第二小脳にとっても初めての経験ってのは手間取ってミス連発するのよ」

「面倒くさいね」

「それは生身も同じだけどね」


 この辺りの理屈、やっぱり生身の人には解りづらいよね。例えが悪かったかも知れないけどさ。


「浅間神社の木がけっこう伸びてるな。老人ホームの裏手の山もか。修正・・・地上からプラス1m」

「あんなに大きくちゃ、そうそう刈れないしね」


「人が一番集まるサンビーチの中心部、このGPSから800m。打ち上げ花火接地場の「大洗港第四埠頭」までは600m。あ、高低差、自動修正よろしく。補正値、高さ辺=55mて固定」

「何それ?」


「直角三角形の長辺(弦)が800mまたは500m、短辺(鉤)が55m。では残りの辺(股)の長さを求めよ、って公式あるでしょ。ピタゴラスの定理、直角三角形の3辺の内、2辺の長さが解れば残りの辺の長さも解る。ってあれよ。a^2+b^2=c^2。思い出した?」

「ごめん。明日(あした)から頑張る」


「まあ、こんな事知ってて生活に日常的に活用してるって方が変だよね」

「いやいや、誰かがそれをしなければこの世界は進歩しないのだよ」


「葉子ちゃんが不愉快でなければ良いんだけどね」

「いやいや。世界の進歩はぜんぶナヲちゃん任せよ」

「うん、任せられた」


 そこから私は少し静かになる。第二小脳経由で、半分だけダイブして、上空を飛んでいる航空自衛軍・戦術偵察機運用部隊・第501飛行隊のRF-15DJとデータ・リンクを開始する。


ーーーペックへ。こちらフシミ00。

 こちらペック。フシミ00へ。定位置で巡回中。リンク開始を確認した。事前打ち合わせの通り、リクエスト・パーミッション・大洗港第四埠頭の上空をパス。フォー・タイムス。時計回りで。


ーーーペックへ。こちらフシミ00。OK。リクエスト・パーミッテッド。準備完了。作業開始してください。

 こちらペック。フシミ00へ。了解。開始する。オーバー。


 通信終了と同時に、右手の、遠くの方からゴロゴロという雷が鳴る様な音が聞こえ始める。しかし、私がそっちを見るわけにいかない、何故なら、今の私の目は、一時的に第501飛行隊のRF-15DJの目でもあるのだから。


 事前に『その時』に『何が起こる』かだけはしっかりと説明しておいたから、葉子ちゃんは涼しい顔で陸の方を見ている。飛行機が見えるのはまだかまだか、と待ちかねている様だ。いや、1月の震災以来、たくさん色々な事が重なり過ぎたから、こういうのもいつの間にか、何となく"日常的"になってしまったのかも知れないね。ごめん。


 対照的に、展望台にいる他の観光客達の方が、何だ何だ、と少し騒がしくなっている。


 次の瞬間、大洗マリンタワーの展望室から水平距離1000mの所を、青系の洋上迷彩を施されたRF-15DJが、右から左へ通過(パス)して行った。RF-15DJとしては、最低速度(背中のエアブレーキを挙げていた)なのだが、大洗マリンタワーの観光客が度肝を抜かれた。


 それと同時に展望室にアナウンスが入る。今と同じルートを後三回、飛行機が展望室西側の間近を通過するので、是非ご覧下さい、と。


 途端に私達がいた展望室西側の人口密度が急上昇した。さすが、葉子ちゃん。うまく私の擬体を守ってくれている。もう慣れた物だな。


 RF-15DJの二回目の通過が行われた。展望室に観光客の歓声が木霊する。みんな、予想外のショーに大喜びだ。


ーーーペックへ。こちらフシミ00。二回目、指定空路から5m低い。飛行支持(サポート)COに修正入力を行う許可を。

 こちらパイン。フシミ00へ。許可する。サンキュー。

ーーーペックへ。こちらフシミ00。最低安全高度300mにはまだ余裕。細かくてソリー。

 こちらペック。フシミ00へ。それがフシミ00に期待される事だ。ワンス・アゲイン。オーバー。


 RF-15DJの三回目の通過が行われた。今後は完璧だった。指定空路そのもの。もしかしたら、さっきのは逆に私の方が試されていたのかも知れない、と気が付いた。


ーーーペックへ。こちらフシミ00。グッド。展望台は盛り上がっている。

 こちらパイン。フシミ00へ。視認している。ワンス・アゲイン。オーバー。


 RF-15DJの四回目の通過が行われた。今度も完璧だった。ランディングギアまで出して、さらに低速で、展望室から見れば、まるで目撃者の鼻先をかすめる様に通過して行った(実際には直線距離で1km以上離れている)。


 こちらパイン。フシミ00へ。クローズ・ユア・アイ。セイ・アゲイン。クローズ・ユア・アイ。

ーーーペックへ。こちらフシミ00。了。これで作業(ミッション)終了。オーバー。


 そこで私は大急ぎでRF-15DJとデータ・リンクを終了した。ダイブを終了して、擬体に戻って来た。それと同時に空からもう一度爆音が聞こえて来た。


 RF-15DJの予定されていなかった、五回目の通過が行われた。しかも、その回はさっきまでの様な上品な飛行ではなかった。何と一定の速度維持したまま、背面をばっちり見せる旋回ルートで進入して来た。


 私には後部座席に座っているパインが手を振っているのが見えた。そして、RF-15DJはそのまま百里基地へと帰投して行った。


 その後ろ姿を見て気付いた。いつも着けっぱなしのドロップ・タンク(補助燃料タンク)が取り外されていたのだ。なるほど、それは身軽な筈だ。コンフォーマル・タンクとは違って不安定要素だもんね。


 そこで展望室に再びアナウンスが入った。それは「昼間の飛行はこれで終わりだが、PM19:30から開演する「大洗海上花火大会」に、同じルートで再び展示飛行が行われる予定なので、今晩もこの場所に是非ご来訪下さい」と言う様な主旨だった。


 そう。本番は今晩だ。大洗海上花火大会開始を告げる鐘の代役として、百里基地所属の偵察部隊、第501飛行隊のRF-15DJによる展示飛行が行われるのだ。さっきのペックとパインは、本番のルートの確認と予行練習のために、わざわざ展望室が賑わう時間帯を狙ってやって来たのだ。


 そして、実は私もその展示飛行に外部要員として参加して、ショーにおける重大な役割を演じる予定なのだ。ただし、詳細な内容は、葉子ちゃんにもまだ秘密だ。


一時間後、21:00に次ぎの投稿が公開予定です。

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