2037年6月18日(木)、AM11:00、東京都葛飾区柴又帝釈天の参道、日本菓子店「斗羅屋」
「ーーー行きなさい」
「ありがとう」
「それじゃ」
「早く行きなさい。時間がないんでしょ?」
ここは京成電鉄金町線・柴又駅至近の横断歩道を渡った目抜き通り。東京都葛飾区、柴又、帝釈天の参道、日本の映画の金字塔「寅さんシリーズ」の舞台でもある。
今日は私立会津高校小美玉校、校外授業日だ。もともと福島県の会津若松市の高校に通う私達にとって東京は遠い。別校舎で教育を受けている今だからこそ、JRの常磐線の快速電車で気軽に来られる首都圏を体験できる。
もしかしたら、合衆国のサンフランシスコ出身のナヲちゃんにとっては、首都圏の発展具合は然したる興味の対象ではないのかも知れない。しかし、これからずっと日本で生きて行くかもだから、常識の範囲で学んでおく事は無駄にはならない。と思う。
で、今日は千葉県の松戸駅で緩行線に乗り換えて、金町駅まで来た。そこからは単線の、下町を走る鉄道っぷりが激しい京成電鉄金町線に乗り換えた。ここは一駅先の柴又駅。このまま、私達は柴又・帝釈天をお参りした後で、各所を回って東京スカイツリーの展望台まで辿り着く予定だった。
しかし、前日の夜に、ナヲちゃんの手元に会津から手書きの手紙が届いた。送付元は朝間先生だった。そこには「校外授業日に柴又から抜け出して、その後に受信したGPSを頼りに指定地を目指すように」と書かれてあった。そして、移動の具体的な手段もその場に辿り着けば解る様になっていると。
「で、葉子ちゃんも連れて来いって書いてあるけれど・・・行く?」
そのナヲちゃんの問には「行く」と即答した。しかし、私は何となく、背筋が寒くなった。なんだろう。「これから何かが起こる」と言う種類の嫌や予感はしない。でも知りたくない何かを知ってしまいそうだ。でも、きっと、私はそれは知らない訳にはいなかい事に決まっている。そして、ナヲちゃんはまったくそれを勘ぐってすらいない。だったら、その瞬間には私が横にいるべきだ。絶対に。
私は朝間先生からの手紙の件を、クラス委員の万条さんにそっと告げた。そして、抜け出した後のフォローを依頼した(ナヲちゃんは何も言わずにぶっちぎって抜け出すつもりだった)。万条さんも、何となく、私の感じる嫌な"流れ"を悟ってくれた。そして、どう言う理由か解らないが、極秘裏に抜け出せる手筈を整えてくれた。
ここは日本菓子店「斗羅屋」。トイレへ行く振りをして、私達三人は席を立った。そして、私とナヲちゃんはどう言う訳か店の人に案内されて厨房を通過して、裏口から外に出た。そして、制服だと目立つと言うので、店で使用されている白衣を二着貸してくれた。私達はそれを着て、アドバイスに従って、家と家の間のブロック塀の上を歩いて小道に出た。それを使えば鎌倉と言うどこかで聞いた事のある様な地域に出られると言う。
途中、庭掃除をしている老人などに出会ったが、斗羅屋の白衣の御陰で怪しまれずに、むしろ「新しいバイトさん? また在庫不足でスーパーにお遣い? 大変ねえ」などと声を掛けられる始末。こちらも、愛想笑いしながら、話を合わせておいた。
しばらくしたら、万条さんは店のテーブル席に戻るだろう。そうしたら、多分・・・居るだろう・・・松島に行った時みたいな、後を付けている人達も異変に気付いて捜索を開始する。それまでにどこまでここから離れられるかが勝負所。と言うか、万条さん、私達の宮城とか東京での顛末を知ってるの? 何も話してないよね?
あの時、茨城で朝霧和紗さんと会ってから、今まで体験していた、腑に落ちなかった色々な事の説明が付く様になった。私ではなく、ナヲちゃんは色々な人達からずっと監視されていたのだ。理由は本人も知らなかったみたい。でも、今はそれを納得している模様。だって、航空自衛軍の飛行機の開発に参加するって話聞いたら、誰だって解るでしょ。
私達は、塀を伝って公園に出た。その公園を通過して柴又街道に出ると、そこには交番(派出所)があった。前に立っている警察官が斗羅屋の白衣の白衣を着ている私達に会釈する。きっと、私達にでなく斗羅屋に対するものだったのだろう。
そこでナヲちゃんがGPSを受信したみたい。
「葉子ちゃん、んっと、東の川の河川敷まで来いって」
「川の名前は?」
「江戸川」
私はこちら側の車線を走っていたタクシーを止める。ナヲちゃんを奥の座席に押し込んで「江戸川の土手まで。ここから一番近い、車を降車出来る所までお願いします」
東京のタクシーは会津でよく見掛けた自動運転タクシーではなかった。聞くところによると、交通の往来や歩行者の飛び出しの多い都内では、自動運転はまだ認可が降り辛いらしい。
「すみません。なるべく急いで」
急がせてしまってごめんなさい。




