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天の魚、地の翼。  作者: すにた
第二章「翔」
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インターミッション*〜● 05

〜 Bryant's Report.

 日本におけるアンドロイドの法的な立場は「物」であり、そうではない。家電的な要素と軽車両的な要素が絡み合う微妙な法体系と課税制度が背後に有り、そのベースには「動物愛護法(2013年最終改正)」的な保護が施されている。より正確な解説をすれば、「動物愛護法*」の精神(主に「所有者又は占有者の責務」や「適正な取扱い」の部分で)をコピペした条文や法運用によって立場が保証されている。とも言える


*取扱業者も動物と同様に、第一種アンドロイド取扱業者と第二種アンドロイド取扱業者に分類される。当然、都道府県知事や政令市の長による認可制である。


 日本国民の心情としては、ゴミの日に指定場所に、生活ゴミに混じって人形が捨てられているのを見るのは心が痛むそうだ。そして、人と同じ形状であり、人と同じサイズのアンドロイドが破棄、放棄、遺棄するのを目にするのは耐えられないとも言っていた。


 そのため、アンドロイド、またはそれ由来と一目で分かるパーツの所有権を手放す場合は、メーカー、保健所、または専用の業者へ持ち込む義務がある。また、擬体を回収後に分解して、そのパーツを人の目に付く野外に放置する事は、解体屋にも厳禁とされている。


 法律の骨子としては、英国の動物愛護法の精神に近いかも知れない。なお、日本では労働基準法より先に「アンドロイド愛護法(筆者による仮称)」が成立したわけではない。また、そういうアンドロイドを特定する保護を示す公式な法律の名称も与えられてはいない。何故なら、この国の市民にとって、その精神は態態(わざわざ)他人との確認を必要とする様なあやふやなものではないからだ。


 だからと言って、アンドロイドを保護するために、日本に於いて旧共産圏(デストピア)的な相互監視社会が出来上がっていると誤解されては困る。アンドロイドを意図的(このんで)に傷付ける違反者(いじょうしゃ)に対する警察警備部の追跡はさほど苛烈ではないのだから。


 しかし、万が一でもその違法行為が明確な形で発覚した場合、司法や検察による法的な追求は見せしめ効果も狙ってか、相当に凄まじいと聞いている。その刑執行を経験した犯罪者は、遅かれ早かれほとんどのケースで自己破産を申請するほどに多額の違反金が請求されるとも聞いた。


 そのオマケとして、意図してアンドロイドを傷付ける者への多額の罰金刑も存在する。それは所有者であっても、第三者であっても差の無い罪として裁かれる。つまり、自分の金で買ったアンドロイドを自分の意志で破壊する事も禁じられている事を意味する。


 ただし、事故による損傷と認められれば、軽車両などの物損賠償ケースが適用される。


 この辺り、銃器の試射や運用チェックのために「撃たれ」たり「破壊される」ために製造・販売される完全人摸倣型のアンドロイドの運用が無制限に認められている我が国と異なる。


 また、影響力のある仏教寺院また聖地とされる「高野山(**)」の霊園エリアには、業務上の避けられない事情で、自己破壊や物理破壊環境で運用される事を強いられたアンドロイド達の霊を慰める施設もある事が確認出来た。


**害虫駆除剤を製造・販売する企業による、駆除された害虫の霊を慰める施設の実在も確認出来た。


 北米大陸の主要三カ国ではアンドロイドはあくまでも物であり、そこには私有財産の保護と言う観点からの損害管理という法体系しか用意されていない。


 アンドロイドの取り扱いは、実はその社会におけるサイボーグに対する認識を表している場合が多い。その意味で、我がカナダとしては、サイボーグの人権の拡大するために、アンドロイドの保護に取り組んでみるのも有効ではないかと考えるに至った。この考察に至った事が日本短期滞在で獲得した最大の成果だろう。


 とは言え、日本に於けるアンドロイドの活躍の場はかなり限定的だ。それは大概の操縦管理作業を承る人工知能(AI)の判断能力が、まだまだ生体脳に遠く及ばないからだ。


 例えばだ。店内という限定されたエリアで、売り子などの限定的な範囲の作業であれば、生身の人間より優れている面も多い。しかし、それがショッピングモール内、または公共交通なども交えたエリアにまで拡大すると、作業効率は一気に低下する。


 状況の認識、作業の優先順位のタグ付け、作業の選択、作業の実行などに、人間と比べればエラーが多い(もっとも、人工知能(AI)としては真っ当な回答である筈だ)。問題なのは人工知能(AI)から見れば、判断結果が何故エラーなのか理解出来ない。ただ、結果タグに人間によってエラーと判定されるからエラーであるとしか解らない。


 朝間ナヲミなど、擬体保持者が第二小脳に搭載される人工知能(AI)に対して、憤ったり、不満に感じるのは仕方の無い事なのだ。


 ただ、最近の研究では人工知能(AI)には人工知能(AI)の価値観と言うものが成立している可能性が指摘されている。それが本当なら、コミュニケーションによる解決または改善が可能かも知れない。あくまで将来の話だが。


 擬体とアンドロイドは構成が近い。簡易擬体がアンドロイドと言える。最初期の朝霧和紗・初期モデル擬体よりも、現代のアンドロイドの方がよっぽど人間っぽい。アンドロイドの発展の歴史は擬体の技術革新に牽引されている。


 21世紀初頭に人気だったアップル社it製品の「アイホーン」と「アイポッド」の関係に近いかも知れない。擬体がアイホーンで、アンドロイドがアイポッドだ。当時、アイポッドはアイホーンが発売後1年で確実に新世代化するのに対して、製品更新が頻繁に滞ったり、前世代のアーキテクチャーを長く使い続けてしていた。擬体には常に最高性能が求められたが、アンドロイドには常に最高コストパフォーマンスが求められた。「アイホーン」と「アイポッド」でも同様だった。この辺りの市場要求の差も類似していると言える。


 現在のアンドロイドは、擬体から生体部位維持系を取り外し、その空きスペースを電源などに回す事で重量のバランス配分を行っている。


 擬体とアンドロイドの区別は、物理的には簡単だが、それを行うのは難しい。特に、宿り主が女性である場合は。


 その方法とは、疑惑または興味の対象の胸部に耳を当ててみれば良い。もし、脳などの生体パーツに栄養を送る代替心臓(ポンプ)の音や動きを感じられれば擬体であり、それが無ければアンドロイドだ。


 手首でも補助ポンプ作動時に限り、ある程度は脈を測定できるが、生身ほど強い脈動はないので素人には難易度が高い。また、首筋は外部パイピングとのコネクション部であることから、脈を感じる事は出来ない(パイプ内を動く液体の音は感知出来るかも知れない)。


 その点は擬体とサイボーグの共通点である。しかし、アンドロイドや経済的な事情で制限の多い低価格な簡易サイボーグ体を日常的に利用するユーザーを示す「Beat-less(***)」などの侮辱語は、日本では存在しない点が異なる。


***生体パーツ部が少ない簡易サイボーグ体は、代替心臓(ポンプ)の作動出力や回数が低く設定されている(初期導入費や継続運用費も比較的に安価に設定されている)。そのため、生身の触覚を持つ人間が素肌をそのボディと直接に重ねた時に、心拍数ゼロのアンドロイドと誤認し易い事実を(もっ)て、ユーザーを揶揄する侮蔑語として理解される。アンドロイド(特に性愛用途向けの特殊モデル)を示す暗語にもなっている。以上の二点を承知していれば、それが人間(ユーザー)に対して使用した場合は最大限の侮辱語であることは明白である。


 朝間ナヲミが宿っていた"AK系かぐら式標準擬体"にもアンドロイド・バージョンは存在する。駆動系パーツなどでは互換品も多く、多少の感覚的な不便を無視すれば四肢くらいなら即時交換も可能だ。ただし、パーツの工作精度や組み合わせが擬体ほど高いレベルにはない。メーカーは公言はしないが、アンドロイドは、擬体用パーツとして作りながら検品で落ちた第二級品で組まれているのはないかと、市場では推測されている。当たらずも遠からず、と言う所だろう。


 生体部位維持系とは心臓ポンプによる脳への酸素供給、エネルギー供給、ホルモン分泌調整だ。すべては脳核内にあるバックアップ機器でも代行できるが、連続稼働時間に大きな差がある。第二小脳がもし、脳核と擬体接続に断絶(または不安定などの不具合)を感知したなら、ただちに非常用セーフモードを立ち上げて、電力を含めた消耗品の消費を最大限に抑えて出来る限り長く生命維持機能を稼働させるために、意識昏睡状態へと生体脳活動を移行させるだろう。


 擬体と脳核は48系統の接続端子で結ばれている(半分以上は将来を見込んだ拡張性備えたダミー端子)。しかし、それはあくまでデジタル情報用の通信端子だ。生体部位維持系の様な物理的なやり取りは、比較的に簡単に脱着可能な液体交換用接続チューブで行われる。脱着には浸透膜処置が施され、意図していない物質の脳への侵入を阻んでいる。また、万が一侵入が感知された場合は、脳核側に接続されているナノマシンが緊急開放され、危険物質の排除と損傷部の修復を行う手筈となっている。


 擬体保持者とサイボーグの意識の差も大きい。擬体保持者は自らを極普通の市民である事を疑っていない。間違っても、何らかの原理的な主張者や反社会的グループの不満・不安の捌け口として、攻撃の対象になるとは考えていない。擬体保持者と生身の人間の双方で、そう言ったアイデアを閃かないと言った方が正しい様だ。


 例えば、過去一年間で、擬体の四肢や再利用可能なコア・パーツを狙った強盗事件が一件も起きていない。


 この件の違いだけであっても、(サイボーグ)としては忸怩(じくじ)たる想いがある。


 果たして、狂っているのはどちらの社会なのであろうか?


 報告者:ハリー・ブライアント


 これは、私立会津高校小美玉校を訪れたカナダの教員・ハリー・ブライアントが地域の教育局へと送った報告書に添えられていた、とされるメモだ。それが何人の目に止まったのか、何らかの影響を与えたのか、それは現時点では判明していない。


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