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天の魚、地の翼。  作者: すにた
第二章「翔」
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2037年6月10日、AM10:45、私立会津高校小美玉校校庭

 私立会津高校小美玉校の校庭に、合衆国海兵隊・第232海兵戦闘攻撃中隊(VMFA-232)レッドデビルズのパイロット達の勢揃いしていた。これは、ハリー・ブライアント経由で学校運営と生徒会に提案された、合衆国のサイボーグと日本の義肢、義手、義足、代替臓器、代替器官保持者との交流会のメインイベントだ。


 それは合衆国対日本の綱引きだ。もっとも解りやすく、直接的に交流する事が出来るとして、競技の体裁は整えられているが、実際は一本のロープで両国を繋げるのが目的だった。結ぶのではなく。


 合衆国・レッドデビルズは全身サイボーグが2人。後は義肢、義足、義眼、または第二小脳に近い補助機械化脳移植者達が8人。全員が戦地での負傷経験者と言う訳でない。彼らの一部は演出として、人工皮膚を纏っていない、まるでハリウッド映画「エイリアン2」に登場した「パワー・ローダー」のような義手・義足に付け替えてくる者達もいた。


 一方、日本・高校生は外観だけなら、生身の人間とまったく区別の付かない、極ありふれた代替器官保持者の生徒達ばかりで構成されていた。参加者は約30人。参加者は人数調整のために、聴覚又は平衡機能の障害、視覚障害、音声機能、言語機能又は咀嚼(そしゃく)機能の障害などの該当者を除外し、肢体不自由(上下肢・体幹・肢体不自由)5級以上に限定した。それと万が一の事故を防ぐために、心臓・呼吸器の機能、免疫の機能などの突発的な症状変化を起こしかねない障害項目への該当者も除外した。


 事前に、エキジビションとして行われたレッドデビルズによる「パワー・ローダー」風の義手・義足によるショーも生徒達、特に完全に生身の者達に大変に好評だった。合衆国式サイボーグが誇る物凄い破壊力や牽引力は、見た目による強そうな印象だけで無く、目の当たりにした存在感のサイズでも日本の"擬態"を明らかに圧倒していた。


 その様はまさにアメコミに登場するヒーローその物だった。もし、彼らは"例の全身タイツ風"の特別衣装を纏ってさえいれば、目からビームを出したり、空を飛んでも不思議は無さそうだった(合衆国では動画配信個人業者が、自分で手作りした一品モノのサイボーグ用飛行ユニットは多数存在している。日本では航空法がらみでそれは認められていない)。


「グース、日本の高校生達はシャイだけれど友好的で良いな」

「玄界灘のあっちでは居心地が悪いらしいな」

「ノー・コメント」

「賢い軍人だ。マリーンズらしくないぞ」


 レッドデビルズからグースと呼ばれた、鴨田三佐はここでは「鴨田先生」として、綱引きのレフリー役でこの場に参加している。日本勢は自動修復機能付き人工関節を保持する生徒会書記がリーダーとして、列の先頭に組み込まれている。そして二番手には朝間ナヲミ。そして、司令塔として最後尾に松島からの留学組の相田つかさが入った。


 競技前の僅かな時間、レッドデビルズと競技参加者達が立ち話程度の交流を行っている。そして、その様子を公安刑事の「山田」が気配を完全に消して見守っている。あくまでオブザーバーであると立場を(わきま)えて、積極的な参加は控えている。


 日本の高校生達、特に男子達は、パワー・ローダー風の義手・義足を接続したサイボーグの周りに集まっている。やはり、世代超えてガンダムを支持する民族に属すだけでなく、思春期真っ盛りの若者には耐えがたい魅力がある様だ。


「OK. I'm proved to engage Firefox.」


 その喧噪の中、朝間ナヲミに近付く影が一つあった。それはレッドデビルズ隊長、全身サイボーグであり、スコードロンの(かなめ)である複座式のF-35CbB"スーパー・ライトニングII"の後部座席に収まる男だった。


私は(・・)コナー・マクラウド。この男は(・・・・)レッドデビルズの隊長をやっている者だ。君が有名な眠り姫だね。今はASAMA-SANと呼ぶべきかな?」


 そう言って握手を求めてきた。朝間ナヲミもそれに握手で応える。


「ナヲミで結構です。新しいFamily nameはまだ慣れていないので、First nameの方が楽です」


 レッドデビルズの隊長は力強く握り返す。


「お互い完全に機械化ボディを保持する身だ。それと、私は「我々」とは違って貴女の敵ではないと宣言させて欲しい」


「私は誰とでも仲良くしたいんです」


 朝間ナヲミは、「これが日本が世界に誇る萌え誘導技術プラグインによる笑顔か」と言うほどに、柔らかで、好意を持つ事に抗いがたい笑顔を見せた。ただし、それは擬態の表現力ポテンシャルに支えてられているとは言え、本人による直接制御だった。コナー・マクラウドにも、動作と動作に"継ぎ目"がない事で、それは一目瞭然だった。


「そして「我々」も決して一枚岩ではない」

 そう言ってから、彼は握手を解いた。

「と言う話だよ。それから、私や私の仲間も「コナー」と同様に「我々」と違うと個人的なメッセージを付け加えさせて欲しい」


 それを聞いて、朝間ナヲミは驚く事もなく、しなやかな身のこなしでレッドデビルズの隊長の元から後ずさりながら応えた。


「はい。ありがとうございます。「コナー」さんにもヨロシク伝えて下さい」

「ああ。そうさせてもらうよ」


 そこで彼女は思い出したかの様に立ち止まって、たった二言だけ付け加えた。


「ところで、私は今、幸せです。日本が大好きになりました。それも伝えて下さい」


 それを聞いた隊長は、不意に大きな衝撃を受けた。狭心症を疑いたくなるほどに鋭く鈍い痛みを胸中に感じた。しかし、大人らしく、作り笑顔で頷いて激しさを徐々に増して行く動揺を見事に隠し切った。


 合衆国を追い出されたサイボーグ少女はそのまま、実に無邪気に、右手を軽く振りながら人混みの中に消えて行った。


 ーーーたったの一度も振り返る事なく、か・・・。


 その場に取り残されてしまったレッドデビルズの隊長は、呆然とするしかなかった。


 彼には十二分に察する事が出来たからだ。朝間ナヲミが、少なくとも今、この瞬間は、合衆国に二度と戻る気は無いと宣言した、と言う事実に。故郷に帰ると言う選択は既に捨てて久しい、と最終的な回答をしてのけたのだ。


 ーーーこの少女の心中では、合衆国と言う環境は既に通り過ぎてしまった"過去"のモノとしてタグ付けされてしまっている。


 それは「今生きている環境への適応を完全に終えていて何の不自由も無い」。そして「今生きている環境に満足しているので過去を取り戻す必要性など感じていない」と言うメッセージが含まれているに違いない。


 彼は心がさらに痛くなった。痛みを通り越して、脱力感さえ感じ始めていた。


 見た事もない環境へ突然に移住を強要され、何の準備もないままに適応を迫られた。


 それを辛く感じない人間などいる筈がない。恐怖しない人間などいる筈が無い。


 一般的な価値観と照らし合わせてみれば、大方の人間がレッドデビルズの隊長の心の痛みへの共感を示してくれることだろう。


 そして、その試練は、まだ成人年齢にすら達して子供に与えられたのだ。おそらく、大方の人間がレッドデビルズの隊長が感じた憤りへの支持を示してくれることだろう。


 しかし、それほどに深い絶望を、実に容赦ない形で全身を失ったばかりの少女に与えたのは、自分が属する社会だった。しかも、自分はその社会において、それなりに意志決定機関に近いポジションにいる。それでも、その被害者の境遇を改善する事が出来ないと知っていた。それがとてつもなく悔しかった。


 ーーー何と言う事だ。私ほど偽善者と呼ばれるに相応しい者は、この世界にもそう多くはあるまい!


 そんな怒れる男の肩を誰かが叩いた。視線を向けると、そこにはハリー・ブライアントが立っていた。その肩に置かれた手をそのままにして、彼は言った。


「君がカナダへ渡った理由、今解ったよ」

「そうか。こちら側へようこそ。歓迎するよ」


 ハリー・ブライアントは満面の笑みで応えた。


「とりあえず、岩国に戻ったらバーでも行かないか?」

電撃戦(ブリッツ)か。それはマリーンズの戦略にも合致するな」


 そこで二人は、握手をした。本当に硬く握り合った。もし、その掌が朝間ナヲミのものであれば、デリケートな指間・関節部を破損させてしまったかも知れないほどに。


 その様を遠くから一人で観察していた、公安刑事の「山田」は、観測結果からやや想定外の方向に転じた、と言う印象を受けた。彼には海兵隊(マリンコ)の隊長の身体に代弁を委ねた「コナー・マクラウド」がどんな勢力に属す「意志」であるのかは見当が付いていた。しかし、そう言う形で、そう言う内容のメッセージを送るとは考えていなかったのだ。


「あっちにも話の解る奴、いそうじゃないか? 相田」

「もちろん、微々たる数ですけどね」


 相田つかさがインカムを通じてどこから応えた。一体どこから眺めていると言うのだろう。


 そこで校内放送が入った。これから綱引きを実行すると言う。


 全員がそれを聞いて事前打ち合わせ通りの順番で、ロープの左横に列を作った。


ーーーGet set, Ready, Go!


 なお、結果はレッドデビルズの辛勝だった。

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