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天の魚、地の翼。  作者: すにた
第二章「翔」
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2037年6月7日(日)、AM9:50、私立会津高校小美玉校、学生寮901号室、居間

「フリクュアはもう見たいのかい?」

「KKサクラ、タイムカード編だよ。この感動、どうしたら君に同期できるんだろうね?」


 私立会津高校小美玉校、学生寮901号室(ゲストルーム専用の900番台の部屋)の居間で二人の高校生が会話している。しかし、あまり楽しんでいる様には見えない。


 片方は、私立松本高校所属の相田つかさ。擬体保持者で、航空自衛軍特殊技能士官(幹部自衛官、軍属)。ウイングマークも保持している。朝間ナヲミや森葉子とも顔馴染みになりつつある。


 そして、もう一人の方は、斎田一條。相田つかさと同様に私立松本高校所属。当然、擬体保持者で、航空自衛軍予備役。今回のミッションには主に整備兵として参加している。


 二人は会話ではなく、昨夜までに集めたデータをそれぞれが再々検討した結論を、第二小脳の外部記憶の同期という形で状況をシェアし始めた。


「おいおい、オレも混ぜてくれよ」


 同期中の二人に、姿無きオッサンの声だけが聞こえた。


「どうぞ、鴨田さん。パスはいつものです」


 鴨田さん、とは先日、松島でL.A.V.の運転をしてくれていた航空自衛軍幹部の三佐だ。今回は、私立松島大学保有のC-130Rのパイロットとして、私立会津高校小美玉校までやって来た。もちろん、百里基地のパイロット達にはバレバレだ。だが、彼らは高校生を引率する大男を見ても、大笑いせずに目を逸らしてくれる優しさくらいは、"遺憾なく"発揮してくれた。


 鴨田三佐は、隣の学生寮902号室に滞在中だ。どうやら挽いたばかりの豆で入れたコーヒーを楽しんでいる様だ。


「それにしても第二小脳ってのは便利だな。世界のどこに居ても、君たちのことを近く感じられるよ。会話が成立していると言うのに、我々の間に壁が二枚もあるとは思えない」

「朝間さんは、そういうの大嫌いらしいですよ」


「そりゃ、女の子だからだろう」

「それも含めてと言う意味ですよ」


「ガイジンにしとくのもったいないな。大和撫子にこそ、そうあって欲しいよ」

「あ、彼女、日本国籍は取得済みですよ」


「そう言えばそうだったな」

「まあ、我々が知っている事は内緒ですから、彼女が自分から言い出すまでは知らんぷりしておいてください」

「コピー」


 しばらく沈黙があった後で、鴨田三佐が申し訳なさそうに仮想現実空間で伝えて来た。


「"山田先生"もいるから、そっちに行っていいか? 第二小脳が無いから、我々のコミュニケーションには参加出来ないと文句言ってる」

「それは失念してました。どうぞ」

「すぐ行く」


 "山田先生"とは、朝間ナヲミ周辺を調査していた公安外事課の刑事の「世を忍ぶ仮の姿」だ。彼は年齢差は大きそうだが、ここでは生粋の高校生にしか見えない相田つかさと知らない仲でもないらしい。


 何故、彼がここにいるのかと言えば、それは公安もオブザーバーとして、私立松島大学・技術開発科助教授秘書に扮してこのミッションに参加していたからだ。彼の派遣が決まったのは実施直前だったので、それらしい肩書きを捏造するのに手間取った。それで、全くの素人でありながら、専門家として派遣隊に紛れ込んでいた。


 公安としては、合衆国海兵隊と朝間ナヲミの接触を観察したいと上からの要請が届いていたらしい。それが内閣調査室などとの確執による当て付けなのか、それとも何らかの独自ルートの情報で裏付けられた疑惑があるのかは現段階では判らない。しかし、松島(オジロワシ)の方から昵懇(じっこん)になりたいと話を持ちかけた以上、依頼を断るのは筋に反した。


 何より、朝間ナヲミのすべての嫌疑を公式には「すべて白」との判定に持ち込めたのは、公安からの強い支持があっての事だった。もし、その辺りの詳細を知ったなら、朝間ナヲミ本人も"激しく"感謝する事だろうが、そのあたりを調査対象に把握される事態は、裏の仕事をする者達としてはもっとも避けたかった。



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