表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天の魚、地の翼。  作者: すにた
第二章「翔」
62/490

2037年6月5日、PM2:50、私立会津高校・小美玉校屋上、仮設生徒会室

 先日の夕方、私がコンビニに買い物に行っている隙に、寮の部屋まで届いていた段ボール箱。どうせ大した物は入っていないだろう、と一晩放置してしまった。それを、翌日の放課後になって、今更ながら開封する事にした。だって暇だったんだもん。


 葉子ちゃんが、常陸利根川病院に擬体や義肢、義足、人工臓器のバックアップ(整備)の打ち合わせに行ってしまったから、寮に一人残されて暇で仕方なかったんだよ。


 サイバー治療施設完備の松島へ留学してしまった治療継続中の生徒達は別としても、我が校における義肢、義足、人工臓器を利用する治療を既に終了した元患者達の数は相当数に昇る。現状でも一般的な高校と比べれば圧倒的に多い訳だ。さらに全寮制でもあるからして、それらの治療、調整、定期整備は学校周辺で行える様にインフラを予め整えておく必要がある。


 ある一定期間置きに、バックアップ担当してくれる常陸利根川病院の、登録患者データベース内のデータに変更が無いかを確認する必要がある。もし、急患で運び込まれた時に誤って古いデータを利用してしまえば、取り返しの付かない医療事故が起こるかも知れない。それを避けるための打ち合わせやデータの突き合わせ、と称した現場同士の顔合わせはけっこう大切な事だ。


 そんな事情で、機械化身体(擬体)補助士2級資格者の保険の先生と、機械化身体(擬体)補助士準2級資格の葉子ちゃんが(つら)なって、学校から至近距離に建っている"常陸利根川病院"のサイバー治療担当者と非常時の対応について打ち合わせをしに行くのは理に適っている。ええ、実に理に適っている。忌忌(いまいま)しいことに。


 「準2級資格」の取得最年少者として知られるようになった葉子ちゃんが、全校生徒を代表として選ばれて打ち合わせに加わると言うのは仕方が無い事だ。誇らしい事ですらある。建前としてはその通り。


 しかし、それでも苛つく。私専用の葉子ちゃんだった筈なのに、みんなのモノになるというのは、何となく許しがたい。本音をぶっちゃければ。


 私のモノなのに・・・と定期的に腹が立っては収まって行く。勝手に。繰り返し。


 そんな訳で、何か気が紛れるほどに面白い物でも入っていないかと、箱の封を開けて見た。しかし、開封と同時にゲンナリ。ものすごい数の配達物が詰められていた。何よこれ。


 当然だけど全部"朝間なをみ"宛の封書と葉書ばかり。多くはダイレクト・メール、配達不在書、請求書、請求免除書、領収書だった。会津のアサマ宅の住所向けに発送されて、震災以後、郵便局でそのまま留められていた物らしい。


 面倒臭いと思いながらも、他にする事もなかったので、仕方なく念入りに内容確認を始めた。すると、それらの束の中に、私の今後の人生において、とても重要としか言いようのない物を発見した。


 例えば・・・


 難民認定証明書

 戸籍謄本


 などだ。


 へ?


 え??


 どう言うこと???


「難民認定証明書」と「戸籍謄本」は、この一年、欲しくて欲しくて堪らなかったもの。今後どうにかして取得したいと計画していたもの。


 喉から手が出るほどに欲しかった宝石達が知らぬ間に発行され、送付され、大量のジャンク郵便物の中に紛れて込んでいたのだ。


 と少し遅れて理解した。


 これらは私の人生において、()にとっての金棒(・・)に相当する。来年の事を語って笑われても、これでぶっ飛ばせる。これの御陰で、もう怖いものは何もない(例えば、罪を犯しても強制出国/送還される事はない)。しかし、あまりにもあっけなく入手出来ていたので、何か拍子抜けしてしまった。


 え"っ? あり得ないだろっ?

 あまりにも淡泊過ぎる。

 もっと荘厳で感動的な獲得瞬間とかあるべきじゃない?


 いや、「拍子」が何だか、今ひとつ良く分からないんだけれども、それを抜かしたままにしておいて良い場合ではない。兎に角、内容を確認しないと。


 書類の細部まで読み進めると、二ヶ月の前に私に難民認定が通知されていたと判明した。そればかりか、以前にダメ元で行っていた法務省への帰化申請が承認され、家庭裁判所もアサマ先生と私の養子縁組を適当と判決してくれていたと読み取れた。


 それらの通知が会津大震災の大混乱の中で、すべて配達休止されていて、しばらくの間、郵便局の仕分け倉庫の中で積もっていたらしい。


 内容は以下、こんな感じだ。


 難民認定証明書の交付がR17年4月12日。

 国籍の帰化認可がR17年5月12日。


 おい、もっと早く明確に知らせてくれよ。無駄になってしまった約一ヶ月間の切実な願いはどうしてくれるんだ。いや、それでイミグレからのインタビューの日程が決まらなかったんだな。


 とにかく、帰化した事により、私は「日本人」となった。実にお目出度い事である。横書きの戸籍謄本に依れば、私はアサマ先生の養女として、R17年5月12日確かに入籍していた。


 日本人となった事で、私の難民認定証明書は失効されている筈だ(一度も目にされる事無く失効ってちょっと可哀想)。証明書を返納する必要があるかどうか、法務省の方に確認する必要があるな。


 ちょっと心配になった。あまりにも都合良すぎる。何かの冗談か詐欺かも知れない。


 だから、校舎屋上にあるプレハブ建築の生徒会室に行って、友だちの万条(まんじょう) 菖蒲(あやめ)に相談してみた。すると、そう言うのを確認したい時は「インターネット版官報( kanpou.npb.go.jp/ )の該当ページを探して閲覧しなさい」と応えてくれた。そして、彼女は買ったばかりの新しいスマホで該当日の法務省告示を検索してくれた(以前のスマホは交換用バッテリーが製造中止となっていて、小美玉へ引っ越す直前に手放したそうだ)。


 検索してみると・・・


 官報

 法務省告示第13478号

 R17年5月12日帰化認可 法務大臣 浅生 雄一

 朝間なをみ(旧名*なをみ・いりーな・ばーぐ) R2年9月25日生


 との記載があった。どうやら、通知の内容は本当の事だったらしい。でも、ぜんぜん実感が無い。持てない。湧いてこない。


 呆然としていると、万条(まんじょう)さんが「おめでとう」と言ってくれた。そして、「さっさと葉子ちゃんに報告してきなさい」と次にするべき事を的確に示してくれた。


「うん、そうする」と言ってから、私はふらふらとした足取りで葉子ちゃんを探しに寮の方へと歩いて行った。


 国籍法第10条によれば、官報にその旨が告示されると同時に帰化事実は効力を生じている。つまり、先月、5月12日にはすでに私は日本国籍と取得していた事になる。


 しかし、万条(まんじょう)さんは、私が居なくなった後で、私がその時にはまだ気付いていなかった事に思いを馳せていた。ちょっと、国籍の取得手続き完了が(はや)過ぎるのではないかと。


 私、朝間ナヲミは日本へ到着してすぐに、難民申請、帰化申請、養子縁組の審査申請をすべて済ましていたと彼女に伝えた。


 難民申請だけは審査期間が一年と言われているので矛盾はなかった。しかし、その点以外は、私が受けた待遇は万条(まんじょう)さんが知っている国籍法とは明らかに矛盾が生じていた。


 私の現段階での「帰化」には、申請条件で適ってない点がいくつもあったのだ。


 例えば、


 住所条件だ。国籍法第5条第1項第1号によれば、帰化申請を実行する時に、すでに5年以上日本に在住している必要があった筈だ。そして、在住として登録する住所が適法であり、尚且つ正当な在留資格も同時に保持で規定になければならない、


 筈なのだ。申請の時点で在住歴ほぼゼロ。治療の期間をカウントしても在住歴は1年に満たない。だから、申請が受理される事が、まず特異だ。


 更に、


 能力条件だ。国籍法第5条第1項第2号によれば、帰化該当者が成人年齢とされる18歳以上に達している必要がある、


 筈なのだ。私はまだ16歳でしかない。この件でも、申請が受理された事が不思議だ。


 さらに突っ込みを入れると、戸籍を創設と言う段階をえる事無く、既存の物に直接入籍となっている。かなりイレギュラーな事例としか言い様がない(まるで「何処にも身柄を渡さない」という宣言を誰かに向かって行っているみたいだ)。


 しかし、官報に「帰化認可」の旨が記載されているのだから、その効力の程は疑う余地が無い。だから、万条(まんじょう)さんはこの件については敢えて私に告げずに黙っていてくれる事にした。良い人だね。


 とは言え、後日、合衆国側の要確認事項だけは教えてくれた。


 なんと、合衆国の国籍を放棄するには、過去5年間の所得税の納税証明書を提出して、さらにその期間の平均年収や保有資産に応じて納税する義務があるんだとか。通称「落とし前税(An Expatriation Tax)」と言うそうだ。


 私の場合、合衆国の国籍は自発的な放棄ではなく、厳罰による剥奪に当たるので、かなり微妙な線だ。しかし、日本の国籍法では二重国籍は違法なので、早めに確認しておくべき事案らしい。何故なら、帰化直後の私の品行が不方正と見なされると、後から続く難民の皆さんに迷惑をかける事になるからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ