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天の魚、地の翼。  作者: すにた
第二章「翔」
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2037年5月3日(日)憲法記念日、PM2:26、JR東日本・常磐線、内原駅上野寄り、太平洋セメント水戸サービスステーション専用線跡

 日本にはゴールデンウィークと言う大型連休がある。合衆国で言えばサンクスギビングとかクリスマスに相当する、国民が待ち望むゴールデンタイムらしい。


 今日は、5月3日、国民の休日の憲法記念日なんだけど、日曜日なんだよ。これについて文句を言ったら、葉子ちゃんは「振替休日と言うものがあるので心配ご無用」と応えた。まあ、そうだよね。こんなに働く日本人、公式な休日数くらい調節してあげないと市民革命へ一直線だよ。


 で、本日は学校から一番近い映画館を目指して、JR東日本・常磐線、内原駅までやって来た。遠かったよ! 会津ならバス一本で駅前に行けばいろんな施設があった。しかし、学校に一番近い、茨城空港鉄道の始発駅/JR東日本・常磐線の石岡駅には、レトロな商店街しかない。ショッピングモールがない。それはそれで素敵なんだけど、文化的生活や買い物など面では魚沼市の山に分校があった頃より厳しくなった。


 JR東日本・常磐線の石岡駅まで来れば、後は内原駅まで電車に乗るだけ。ここにジャスコ・モールと言うショッピングモールがある。ネットによれば、同系のモールとしては小ぶりでショボイらしい。しかし、今の私達には光り輝く約束の地にしか見えない。


 買い物もネット通販にばかり頼っていると、購買意欲が低下したり、精神的に養豚場の家畜に堕ちそうで怖い。人間とは目の前の何かに、ルアーされたり、セドュースされたりして、衝動的に購入を決定すべきだと思うの。理由は、そうしないと銀行の残高が足りなくて引き落とし不能とか、「ご利用は計画的に!」な人生の暗黒面に落ちてしまう。会津に残ったお手伝いさんの百合子さんもそう言ってた。あの人、今時の先進国では珍しい、バリバリの現金決済派だからなぁ。


 で、ジャスコ・モール水戸内原にあるKOHOシネマズを目指して電車に乗っていると、車窓から何かすごい光景を見てしまった。


 廃墟だ。線路に沿って錆びて朽ちた工場だか、何かの跡地が見えたのだ。かなり巨大で、そこまで線路が敷かれいた跡がありありと見て取れた。


「すごいね」

「うん・・・デストピア映画の舞台みたい」


 でで、私達は予約したカップルシートでフランス映画「The Fifth Element 〜ゾーグの復讐」を鑑賞してご飯を食べた後に、この廃墟的な引き込み線(?)跡地にやって来たのだ。


 映画の方はブルース・ウィリスの孫のブルース・ウィリス三世が演じるコーベン・ダラスが、1997年に公開された前作以上に笑わせてくれたので大満足だった。でも、前作でクリス・タッカーが熱演したルービー・ロッドを担当した、名前も思い出せないイモ俳優が明らかにパワー不足だった(「Oh My God」とか「Green」って全然言わなかったし。戦犯は脚本家、許すまじ)。出来れば、CGで良いからプリンス(The artist formally known as Princeの事ね)に演じて欲しかった。


 でででー。そこは内原駅のすぐ近く。たった500m。そして線路に沿ってほぼ1kmが雑草に浸食されながら、"世紀末"な気配を辺りに伝播させていた。


 第二小脳で検索をかけたら、廃墟の正体がすぐに明らかになった。太平洋セメント水戸サービスステーション専用線跡地、と言うらしい。2000年までは使われていて、専用列車がセメントなどをここで取り扱っていたとか。その頃の内原駅は今と違って、とても栄えていたらしい。


 内原駅は確かに変だ。駅舎などは小さいのに、プラットホームは妙に長く、幹線に平行する留置線が多すぎる。元々は太平洋セメント水戸サービスステーション専用線への入線待ちの列車がそこに居たらしい。そして、その後、電車留置用の電留線(でんりゅうせん)に転用された、とか。


 そのデストピア・ランドの中には生活道があるので、不法侵入する事なくハリウッド映画「Twelve Monkeys」の雰囲気を満喫出来た(なお、私はTV版の方は認めない)。錆びて自重を支えられずに弧を描きつつある鉄で網状に組まれた柱、プラスチック製でないトタン板みたいな壁を蔓草が長い年月掛けて浸食した跡、何より長年人が関与していないのでなだらかな自然と人工の調和は良い。


 生と死の境に生じるグラデーションって言うんだろうか? ヨーロッパに残る放置された古城とか要塞なんかも、こんな感じの・・・日本語で言う"ワビサビ"に満ちてるんだ。日本で、森の中で放置されて朽ちていく古寺もそうだけど、無から生み出されて、有となって、また無へ帰して行く。


 私は実はそういうのに憧れている。人間は生身なら、魂が失われれば直ちに身は朽ち果てて、同じ世界で共に生きる多くの生き物たちへは滋養に富んだ資産となる。そして、彼らの力を借りて分解されて、また円環の(ことわり)へを繰り返す事が出来る。


 それに対して、瓦礫に埋まって、約2トンの圧力を喰らっても曲がるだけで済んじゃう機械の身体では、脳核が死んでもその外殻である"人形"だけ悠久の時を過ごしちゃいそう。有機物じゃない大部分の擬体構成物は、自然界の微生物に分解される事無く、スクラップ場に放置される廃車みたいに相当長く放置プレイされそうだ。


 でも、こう言う文明絶滅後みたいに崩れ掛けた風景を目にすると、生身よりもちょっとだけ長い時間さえ掛ければ、私の身体も葉子ちゃんの後を追って、いつか同じ場所にたどり着けるんじゃないか、と希望が持てる。


「大きなタンク? 傾いてない?」

「うん。地盤が緩んでるか、基礎が崩れ始めてるのかな?」


「レールが雑草に食べられてない?」

「うん。何年も掛けて少しずつ穴を開けたんだね」


「あの踏切・・・」

「うん。完全に機能停止してるね。そこから奥まで入れそうだ」

「行く?」

「タンクだけでなく、他の物も何時崩れるか分からないからやめよう」


「あの棒みたいなのが突っ立ってるの何?」

「分岐機・・・手動式のレバーみたい」

「重そうだね」

「男の仕事だよ」


ーーーバリバリバリ!


 すごい音が東の空から聞こえて来た。葉子ちゃんは音のする方を向いているが、私は逆方向の西を向いた。そこには真っ赤な火を噴きながら日本海を目指して直進する航空自衛軍、第301飛行隊の飛行機が見えた。


 擬似衝撃波(ダイヤモンド)現象。ここから観測出来る衝撃波(セル)群から推測すると、最高出力時のリッチバーン状態に近い。多分、本物のスクランブル発進だ。こんな市街地の上空でソニック・ブームを引き起こす寸前の速度を出すなんて、今じゃ定期便になりかけてる未確認飛行機(アンノウン)も、同じく超音速で防空識別圏(ADIZ)に入って来たと言う事だろう。海上に出て管制から許可が出次第最高速出すのか。お客様、日本機を北か南にギリギリまで引き付けてから急転進して三沢か小松の歓迎(インターセプト)(かわ)したな。お客様も燃料ギリギリだろうに。F-15でお出迎えする時代だったら、ここからミリタリ・パワーで飛ぶのは辛かったろう。お客様の方は海上で作戦行動する燃料持つかな? 会敵予想空域は領海内どころか、かなり陸の近くって事?


 辺りが静かになると、今度は葉子ちゃんのスマホの着メロが鳴った。繋いでいた私の手を外して、通話を受信した。すると少し長電話だ。誰なんだろう、少し興味を持つと通話内容を伝えて来た。


「チーちゃんが、これからこっちに遊びに来る。もう「スーパー日立」って言う特急に乗ってて、たった今、東海駅を通過したってさ」


 私は驚く。第二小脳で「スーパー日立」を検索。時刻表で東海駅を通過のスジ・・・、16M、64416の・・・特急ひたち16号か。


「東海駅ってどこだ? ここからもう20kmないじゃん。ん? 内原駅も石岡駅も通過。水戸駅で普通列車に乗り換えだ」


 東海駅到着は「14:26」か。さすが優秀な私の相棒。最近ではずいぶん使えるようになったわね。必要な情報を一瞬で上げてくれた。


 よし。私もスマホを取り出して、学校の管理部に電話する。生徒以外の人間を学校敷地内に滞在させる場合、許可を予め申請しておいた方が(よろ)しいのだ。まあ、我が校から治療の都合で私立松本高校に短期留学中の生徒だから問題はないだろうけど。


「こんにちは。2年1組の朝間ナヲミと申します。今晩、学校寮への私立松本高校に短期留学中の高校一年生の廿里(とどり)千瀬(ちせ)の宿泊申請をさせてください・・・え? もうゲスト用空き部屋が満杯? じゃ、私達の118号へのエクストラベッドで・・・はい・・・そうです・・・それと学食のチケットも・・・アレルギーはないです。そこら辺は2036年度の生徒データベースに登録されてます・・・」


 私を横目で見ながら、葉子ちゃんも電話でチーちゃんに指示を出す。


「今、ナヲちゃんが宿泊手続きを始めてる。また、魚沼の時みたいに私達の部屋においで。これから二人で迎えに行くから、水戸駅で下車して駅舎で待ってて。うん、今近くにいるんだ」


 葉子ちゃんは私の服の袖を摘まんで、駅の方へ歩く様にとジェスチャーを送って来る。私は電話で宿泊申請をしながら、視線で「分かった」と伝える。


 デストピア風廃墟の探索はお終いだ。私達の妹分をお迎えしてあげる方が重要なイベントだ。


 さあ、ちっちゃいチーちゃんは、この一ヶ月間の松本生活でどのくらい大人になったかな? 会うのが楽しみだな。

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