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天の魚、地の翼。  作者: すにた
第一章「起」
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2037年3月10日、PM12:20、松基7空団所属、軽機動装甲車(L.A.V.)の車内

 相田さんは普通の人じゃ見た事もない、戦車みたいな不思議な車でやって来た。うん、会津ではこう言う感じの車には繰り返しお世話になりまたよ。確かにね。国道が、雪で半分埋まったままの峠越えのコンボイの誘導車の中に、こういう車もいたよね。確か。


 とは言え、四半世紀前の被災地、でも完全に復興と遂げた松島の風景にはぜんぜん溶け込めてないよ。何なの、この非日常感。せっかく東京で日常感を取り戻したばかりだって言うのに。


 迎えに来てくれたのは嬉しいけど、この車、どうやって乗ったら良いの? というか私が乗っても良いの?


 戸惑っていると相田さんが中から降りて来てくれて、私達を車内へと正しい手段で誘導してくれた。助かった。一時はどうなるかと思った。良い人だな。気が利く紳士なんだね。プラス査定。チーちゃんにもずっとこう接してあげて欲しい。


 よっこらせっと、私とナヲちゃんとチーちゃんは、その戦車みたいな車に乗り込んだ。というか身体を滑り込ませた。中にはいると意外に大きいのだが、乗り降りは障がい者対応のユニバーサル仕様からはほど遠いというのが率直な感想だ。でも、車内は広いのでスーツケースを持ち込むには便利だ。荷物が多いと思って配慮してくれたんだろうか?


 座席に座ってから戸惑っているとナヲちゃんがシートベルトをかけてくれた。自動車のと違って、これを付けるともう身体が全然うごかなくなる。遊園地のジェットコースターみたいな危険な遊具に備え付けられているシートベルトの方が、まだ幾分は身体の動きの自由度が高い。でもまあナヲちゃんが当然と思ってるようなので、私も文句は言わない。


廿里(とどり)さん、久しぶり。無事で嬉しいよ」


 相田さんは正しい。一番気遣うべき相手を最優先して早速コミュニケーションを図った。


「はい。頭にこぶを作っただけですみました。これからよろしくお願いします」


 昨夜、みんなで練習したとおりに、きちんと挨拶できた。チーちゃんは賢い子だ。


「これからはみんなと同じように、チーちゃんと呼んでも良いかな?」

「もちろんです。松島にいる間にもっと仲良くなれると嬉しいです」


 お、これはアドリブに違いない。しかもチーちゃんは本当に嬉しそうだ。相田さんもやれは出来るじゃないか。この間、学校に訪ねてきた時と違ってすごくフレンドリーだよ。白々しさもあまり感じないし。


「まずは、病院に向かうよ。新しい先生に挨拶しよう。朝間先生の友だちだから緊張しなくて良いよ」

「はい」

「危ないから、シートベルトするよ。キツかったら言ってね」

「ありがとうございます」


 それが終わると相田さんは助手席へ戻った。自分もシートベルトを装着しているらしい動きが見て取れた。


 それが終わると、初めてナヲちゃんに話しかけた。


「ずいぶんたくさん引き連れてきましたね」


 相田さんが苦笑に違いニュアンスで、我慢できなくて漏らしてしまった様に喋った。最初は私やチーちゃんがオマケで邪魔だという話かと思ったけど、ぜんぜん違うようだ。


「やっぱりそうですか。仙台に着いた辺りから肌がピリピリしてますよ」


 さも当然そうにナヲちゃんは応じる。どういうことなのだろう。私たちは二人だけだし、ナヲちゃんには私の他に連れなんかいないのに。特殊部隊並みに人混みに紛れる特殊能力を身につけたスーパー・ストーカーの一団でも彼女にぶら下がっているのだろうか。


「半分くらいは興味本位の民間組織などですが、どこぞの国の五軍がIPを隠しもせずに情報通信の傍受にやっきになってます」

「そんなVIP扱いするなら私の国籍剥奪なんてしなければ良かったのに」


 ナヲちゃんもそう応えて苦笑している。何々、ナヲちゃんの母国がナヲちゃんをストーキングしてるの? 訳が分からない。


「お・・・日本海のあっち側の大陸国家が果敢にアタックしてると報告が入りました。大人気ですね。そんな方をエスコートしてしまって後でみんなから恨まれるだろうなあ。新潟県滞在は大丈夫でしたか?」

「下越の・・・新潟市でなければ」

「あー、川沿いに領事館がありますからね」

「ええ、無茶苦茶に水面近くにある橋の上流にあるアレですね」


 そう言って相田さんは運転席に座る迷彩服のオジサンに発車を促した。戦車みたいな車は意外に静かに、しかもゆっくりと・・・何と言うか、上品な感じで動き出した。稀にお母さんと一緒に乗るタクシーよりもずっと乗り心地が良いのには驚いた。


「紹介します。運転してくれいるのは航空自衛軍(ともだち)の鴨田さんです。オッサンだから、けっこうエライ人なんですよ」


 相田さんの紹介に続いて迷彩服のオジサンが前を向いたまま続いた。


「はじめまして鴨田です。年頃の女の子3人のお出迎えというので無理言って運転させてもらいました。こうでもしないと若いこと知り合う機会もないんですよ」


「よろしくお願いします、鴨田三佐。そして初めまして。あのアプリのGooseと言うコール・サインありましたが鴨田さんのことですか?」

「その通り。Gooseは私です。さすがに目聡(めざと)いですなあ」

「擬体の方なのですか? そうはお見受けできないのですが」

「いえ、脳に第二小脳をつないであるだけです」

「賢明ですね。羨ましいです」

「いえ、自衛軍(ウチ)にそれだけの予算が付いてないだけですよ。わっはっは」


 ナヲちゃんは臆すことなく初めて会った大人の人ともしっかりと会話している。社交的ですごいなあ。私はこういう時に黙ってしまうよ。


「葉子さんもこちらまでおいでいただき助かりました。もし、お越ししていただける話でなければこちらから伺おうと思ってたんですよ」


 相田さんから助け船が出た。不慣れな環境に驚いてしまって、「借りて来た猫」みたいに縮こまっている私への配慮に違いない。


「チーちゃん、病院には5分で着くよ。ごつい車でごめんね。すぐに着くから我慢してね」


 相田さんが言った通り、本当に5分で私立松島大学医科学研究所附属病院まで到着してしまった。途中、信号が突然に青に変わったり赤に変わったりしたのが見えた。その度にすごいブレーキの音がしたけど・・・松島って交通事情、悪いのかな?

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