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天の魚、地の翼。  作者: すにた
第一章「起」
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2037年3月10日、正午、宮城県東松島市、JR東日本仙石線鹿妻駅南口 〜その2

 さて、ここからは私、森葉子がナヲちゃんから一人称語りを引き継ぎます。


 JR東日本仙石線鹿妻駅南口には、三菱T-2高等練習機とやらが置かれている。最近、やたらに飛行機に詳しくなったナヲちゃんに色々教えてもらった。


 飛行機の魂とも呼べるアドーア・エンジンを抜かれた状態らしい。率直な感想としては、どう見ても地上では無意味にハデハデ過ぎる悪目立ちなデザインだ。ダーク・ブルーとライト・ブルーのコントラストは駅周辺の風景に全く溶け込めてない。


 ナヲちゃんの蘊蓄(うんちく)によれば、どこかの昔の女子高生が思い付きでやったデザインを機体塗装に採用した結果らしい(きっとまだご存命のことだろう? ごめんなさい)。


 いや、きっと彼女にも悪気はなかったはずだ。このデザインも空でならきっと見栄えする筈。飛んでるところ見たこと無いけど。きっと、きっとね。


 なのにそれを地上に引きずり落として、さらに魂まで抜いてしまうと言うのはちょっと可哀想。エンジンとやらを差し込んだまま展示してはいけなかったのだろうか?


 ナヲちゃんからそう言う話を聞いて、何か魂を抜かれ人形、つまり脳核を外されて放置される擬体みたいなもの悲しさを感じた。


 でも、私、脳核を外された擬体を見た記憶が無い。それでもそんな寂しさを知っている気がする。何でだろう? 不思議だけど、無責任で思い込みが激しすぎる様な気もする。


 それにしても鹿妻駅は思った以上に遠かった。私はナヲちゃんとなんと半日かけて東京駅からここまで来たのだ。東京駅から仙台駅までは豪華で快適な新幹線ですぐに辿り着いてしまった。しかし仙台駅からここまで来るのが、すんごいローカル線なのでとても時間が掛かった。


 私は疑問に思う。何故、特急列車が走っていないのか。どうして、新幹線の駅がないのか。何の都合で仙台発の高速バスもここを避けるルートを走っているのか。


 鹿妻駅は、日本が世界に誇るサイバネティクス産業の重要な開発拠点の有力なアクセス経路の一つだ。物流なしで技術開発や革新ができる時代なったとは言え、これは不自然だ。この街では、まるで来訪者を拒んでいるかのような風変わりな旅客システムが構築されている。


 まあ、到着したのだから良いだろう。いや、良くない。帰りはどうしたら良いんだろう。


 こんな辺鄙なところまでナヲちゃんとチーちゃんにへばり付いてやって来たのは、もちろん私立松島高校の・・・擬体の人である相田さんに会うためだ。


 1月のあの日、私とナヲちゃんは間違いなく、彼によって命を救われた。ナヲちゃんの話では瓦礫に埋まっている時に、彼に通信が繋がって埋まっている位置を伝えたと言う。そして、本当にすぐに助けに来てくれた。あの時の私の体感時間では、ナヲちゃんがスリープモードに入ってから相田さんが来てくれるまで何時間も経っていた様な気がしていた。しかし、実はたった1時間にも満たなかったそうだ。


 どうやって、そんな短時間で松島から駆け付けられたのか、など不可解な点が多い謎の多すぎる人だ。だから、私はお礼も言うけれど、本当にチーちゃんを託せる人なのかどうかも確認するつもりでいる。命の恩人にそれは失礼かも知れないけれど、チーちゃんはこれから1年を彼の側で生きるのだから、先輩としてそのくらいの配慮はしてあげて然るべきだ。


 それに、どういうつもりであの飛行機のアプリをナヲちゃんに渡したのかも気になる。擬体の無い彼女への暇つぶしの肥やし、と言われたら問い詰め様もないけれど・・・確か、彼が助けてくれたときに着ていた服や機材は航空自衛軍のものだった。つまり、彼がそっちの人だと仮定すると、いろいろな不思議という問の数々に一定のレベルの解を与えることができる。


 ナヲちゃんがあのアプリで遊んでいる時に閃いてしまったんだ。きっとあの飛行機は飛行機じゃなくて、実は飛行機の形をした擬体なんじゃないか? そんな馬鹿な、と思う。でも彼女は仮想現実の中で、飛行機を義肢の延長で制御していた。


 相田さんは、我々(=人)の魂の入れ物が『人の形』、つまり擬体の有るべき姿が『人形』という基本的な観念を持ち合わせてはいないと思う。何らかの思索の後に一般的な観念を超越したのではなく、そんな寄り道をせずに最初からそう考えていたとも思っている。


 チーちゃんに注入されているマイクロマシンのデータを見ると、そんな気がして心がざわつく。彼にとって、自分の身体と他人の身体、または自分と世界を区別する「境」という認識が曖昧なのではないだろうか? 少なくとも、私達が考える「境」に対して共感は持ち合わせてはいないと思う。


「人にあらざる者」と言う概念を初めて知った。擬体を好まない人達が世界には多いそうだが、もしかしたらそういう得体の知れない何かに対して、本能的な嫌悪感みたいなものを持っている人達なんだろうか?


 私は人の魂は人型の器に宿るべきだと思う。人以上(・・・)でも人以下(・・・)でも絶対(・・)駄目(・・)だ。


 だって、もし、そうでなければ人は人でないモノになってしまう気がする。例えば、『飛行機の形をした人』なんて存在できるんだろうか? 長く飛行機であり続けたら人は人の心を失わずに居られるだろうか? (私は無理だと思う)


 人と人が共感し合うには、それはまず人と人でなければならない。人の定義は難しいけど、おそらくもっとも簡単なのは四肢と頭部を繋ぐボディを併せ持つ形状だろう。同じ形状であれば、身体が生身でも機械でも歩み寄りは可能だと思う。しかし、例えば、キャタピラーとクレーンを持つ巨大な重機型の擬体に人が宿った場合、生身の人だけでなく、人型形状の擬体に宿った人との共感も難しくなるだろう。最初は出来ても徐々に難しくなって行くだろう。


 何故なら、それだけ形状や身体のサイズや重さが違ってしまうと共同生活は不可能になる。当然、生活基盤も全く別物なってしまう。学校で机を並べて勉強したり、下校時に一緒にコンビニに寄ったり、一緒に電車に乗ってお出かけする事も出来なくなるのだから。


 元々親しい友人同士だったとしても、そんな違いすぎる生活を個別に10年続けてしまったとしたら、お互いにまったく違う経験を重ね過ぎて、不意に出会った時に共通の話題も探し辛くなる。そして、そんなすれ違いが重なれば以前は経験を共有した仲であると言う認識も徐々に希薄なって行って、最後に共感し合うことは適わなくなりそうだ。


 価値観の多様化を無条件で喜ぶ人達は、頭のネジが何本か抜けてるんじゃないだろうかと思う。多様化の先にあるのは統合よりも、分岐の可能性だ。人が進化の途上で他の猿から分岐した様に、人が人から分岐するという未来が現実的に危惧されてしかるべきだ。


 可能であれば、クロマニヨン人に初めて出会ったネアンデルタール人に「あの人達の事、どう感じた?」と率直な感想を伺ってみたいと本気で思う。きっと何かの参考になるだろう。もっとも、クロマニヨン人とネアンデルタール人は形状にそれほど大きな違いは無かったはずだけれど。


 あまりに奇抜な例えかも知れない。とどのつまり、私は自分と物理的に手と手を繋ぎ合える知性体とのみ、共存・共感が出来ると感じているんだと思う。私自身もまだ、漠然と考えているだけなので、この件に関して結論は当分の間出せそうにない。


 あの飛行制御アプリには、そういう"人"と"それ以外"の観念的に存在する"境界"を曖昧(あいまい)にしてしまう恐ろしさが確かにあった。そして、それが私をとても不安にさせるのだ。もし、ナヲちゃんがそれに触発されて、私と手を繋げない世界の住人となってしまうと考えると、ぞっとする。


 だから、私は相田さんが怖い。彼がどれだけ優秀で、何が出来るか、どれほど処理能力が速いか、とかが要因ではない。彼は今は人の世界に片足だけ軸を乗せているけれど、その先に進むためにだったら、何の躊躇(ためら)いも無く最後に残された片足もこちらの世界から外してしまうだろう。安易に人の世界の理を捨ててしまいそうな危うさに満ちていると表現したら間違いだろうか?


 今よりも一歩進めたポジションへと移動した時、彼は果たして人であってくれるのだろうか?


 そして、理由は分からないけれど、私の不安をどう言うわけか、既に見透かされている様な気がしている。


 ーーー気のせいなら良いんだけどね。


*過失により大幅な加筆・修正を施しました。

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