ベテランの力
読者様より魔法の詠唱呪文をご提供頂きました。
早速本話でも採用させて頂いておりますので、過去と呪文が異なっていることをご了承ください。
マリーとロイスは撤退の念を捨て、今は目の前の変種オークに集中している。いつ攻撃するかそのタイミングを図っているだ。
マリーが盛大にフラグを立て、俺の不安は高まる一方だが、今は二人を信じるしかない。俺は俺で戦況をしっかり見て、必要あらばなりふり構わず参戦するつもりだ。
その時、黙々と倒したオークを貪っていた変種が立ち上がる。
どうやらこの短期間でオークを丸ごと食べきったらしい。オークがいた場所を見ると食べ残された骨の残骸と血の溜まりしかそこに残っていなかった。
俺たちがもしこの変種に敗北したら、きっとあのオークと同じ姿となってしまうだろう。そう思うとまた不安と恐怖が俺を侵食していく。
魔物に慣れたとは言え、それはほぼ安全が確保された状況だからこそだ。目の前の光景に俺は再び魔物の恐ろしさを思い知らされる。
「大丈夫よ。母さんたちがしっかりルイを守るからね」
「成長したと思ったらまたビビってんのか? まだまだだな、はっはっは」
若干震える俺をマリーが心配し、ロイスはわざと俺をからかい小声で笑う。
俺もしっかりしなきゃ。
力だけじゃなく精神的にも強くなるんだ。
そうやって自分を奮い立たせる。
「おい、こっちの方に近づいてくるぞ」
「そうね。もう少し距離が縮んだら攻撃するわ。ロイスもタイミングを間違えないようにね」
「おぅ。てか、なんかこの感じ懐かしくねーか?」
「ふふふ、本当ね。昔のパーティ時代を思い出すわ」
俺たちが話す間にオークを食べ終えた変種オークが動き出し、またキョロキョロしながら獲物を探し始める。
それを見たロイス達は緊張を高め、今にも攻撃しそうな勢いだ。
一歩また一歩と変種オークがこちらへ近き、俺たちは息を殺し、その姿を見つめる。着実に距離を縮める変種オークに俺の不安も高まっていく。
ドスン、ドスン!
重量をそのまま乗せたかのような足音が徐々に大きくなり、そして――
「烈火よ、我を阻みし者を灼熱の炎で貫き灰と成せ、紅蓮の槍。フレイムランス!」
変種オークが一定距離に達した瞬間、マリーは素早く呪文を詠唱し立ち上がる。その詠唱速度と威力はティアにさえ引けを取らない。
流石上級魔術士でベテラン冒険者だ。
瞬時に発動されたフレイムランスは字の如く紅蓮の槍となり、紅い閃光を残しながら猛スピードで変種オークへ飛び向かう。
あまりの速さに変種オークは一切反応できず、フレイムランスはそのまま胸を貫き――
ドッゴォォォォオオオオオオン!
凄まじい爆音を轟かせ、辺り一帯を巻き込みながら爆発した。
「すごいや母さん!」
「まだよ! ロイス!」
「あぁ、分かってるって!」
俺は爆発を見ただけで安心してしまったが、二人は戦闘態勢を解かず一切の気の緩みも見せない。
「グゥゥウオオオオオオオオオオン!!」
爆炎の向こうで耳を抑えたくなる程の雄叫びが突如聞こえ、怒り狂うその声からは理性が全く感じられない。
ドンドンドンドンドンドン・・・!
激しい突進音。
「来るわ!」
「あぁ! 任せろ!」
突進する変種オークがその姿を表す。
左半身は肩から下が爆ぜて無くなり、全身が魔法による火傷で爛れていた。吠える表情にはっきりと憤怒の色が見て取れ、その光景を見た俺は無意識に一歩下がってしまう。
「うぉおりゃぁあ!!」
ズンッ!
慄く俺とは逆にロイスは一瞬で変種オークの前に飛び出し、大きく袈裟斬りで攻撃を加える。オークの胸正面に大きな傷跡を残し、鮮血が吹き出る。
「グゥルルルアアアアア!!」
「まだまだぁあ!」
ズンッ! ザンッ! グサッ!
悲鳴を挙げてよろめく変種にロイスは更に怒涛の三連擊を加え、最後の一撃はオークの首を貫く。本来ならこれで絶命しているはずだが、変種オークはその状態で残っている右手の棍棒でロイス目掛けて振り下ろす。
「うぉっと!」
棍棒が頭部に直撃する寸前、ロイスは大きくバックステップを行い、剣を変種オークの首から引き抜き回避する。
それを見た変種オークは全身の火傷と損傷を無視して鬼の形相でロイスを追撃するよう突進の姿勢を見せた。
「旋風よ、我に迫る危機を乱気の力を用て彼方へと退け給え、旋風不可視の防壁、スパイラルウォール!」
突進と同時にマリーが風の中級魔法、スパイラルウォールを放つ。
まだ突進力がつく前だからか、変種オークは圧縮された風の防壁に触れた瞬間その身を弾かれ蹌踉つく。
「ナイスだ! マリー!」
「油断しないで! このオークの生命力は異常よ!」
「あぁ!」
二人の戦いを俺は黙って見ていることしか出来ない。
さっき魔物の大群を倒して自信が付いたばかりなのに、目の前の激しい戦闘に圧倒され体を動かすことさえできずにいた。
これがベテラン冒険者の戦い。
まだまだ俺には真似できない。
実力の差と現実の壁を嫌でも感じさせられ、俺はただ今繰り出されている戦闘に目を奪われた。
そしてその戦闘もついに終幕を迎えしょうとしている。
「くらえ!!」
動きの止まった変種オークの懐にロイスが一気に踏み込み、肉体強化を発動させた状態で渾身の一撃を首目掛けて一閃。
ゴトンッ。
ロイスの横切りで変種オークの首が切断され、切り離された頭部はそのまま地面へと落下した。その瞬間首の断面から鮮血が噴水のように吹き出る。
バッタン!
そして残された肉体も音をたてながら地面へと崩れ、あれだけ激しかった戦いが静かに幕を閉じた。
「「・・・」」
倒れた変種オークをロイス達は油断なく見つめる。
しばらく経っても死体が動かないことを確認し漸く戦闘終了を告げた。
「ふぅ、何とか倒せたようね」
「あぁ、ちゃんとくたばったな」
「本当にオークとは思えない強さだったわ。あのタフさは異常よ」
「そうだな。直撃は受けなかったがパワーも半端なかったぜ。頭上を棍棒が通り過ぎた時は生きた心地がしなかったぜ。はっはっは!」
戦闘を終えた二人は笑い合い互いに勝利を喜ぶ。
さっきまでの緊張が嘘だったかのように今は穏やかな空気が流れていた。
結局俺は何もできず、自分の未熟さを思い知らされただけだった。
「母さんも父さんも本当にすごかったよ。結局僕は何も出来なかった」
「はっはっは! 気にすんな! お前はまだまだこれからだからな。それに今回はもう十分活躍してるぜ? 俺もマリーも驚いたぞ」
「ふふふ、ルイにいいところ見せられて母さんも嬉しいよ。それにロイスの言う通りよ。ルイは母さんもびっくりするぐらい成長しているわ。経験を積めばもっとすごくなるよ」
「うん・・・ これからもがんばるね!」
俺の返事にマリー達はいつもの優しい笑顔で応えてくれた。
そして変種オークの死体をこのままにしておけないので俺たちは早速処理を行うことにした。異常な変種に素材を回収する気にもなれず、魔結晶のみを取り出して俺たちは肉体が完全に燃え尽きるまで見守った。
こうして戦闘が終了した俺たちはしばし勝利の余韻を感じながらその場で休憩しながら時間を過ごす。
そして俺はと言えばこれから更なる力をつける決意を心に刻んだ。
お読み頂き有難うございます。
次話は明日17:00に投稿する予定です。
新しい呪文如何ですか? 私と違ってセンスがありますね。
はい、わかってます。そんなこと。
ちきしょー。
本当に有難うございます。




