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転生条件

「おーい、なに固まっておるのじゃ。私と会話できる機会など滅多にないのだぞ」


 俺に話しかけている少女に目を向ける。

 白いワンピースに長い漆黒の髪。

 年齢は12歳前後に見える。

 少女でありながらなぜか貫禄があり無意識に手に汗を握るのを感じる。


「え? 誰?」


 半パニックになりながら、何とか声を絞り出す。


「光栄に思うが良いぞ。私は神だ。もっともこの世界のではないがな」


 耳を疑う。

 この少女が神だって?

 馬鹿馬鹿しい。


「気持ちは分かるがひどいのう。訳あって今はこんな姿だが、立派な神じゃぞ」


 どうやら神だと言い張るようだ。

 あれ? 

 まてよ?

 この流れって・・・ 

 どこかで・・・


「お主は見所があるようじゃ、人生をやり直したいと思っておるじゃろ。どうだ? やり直してみぬか?」


 混乱する頭を必死に回転させるが理解に追い付くことができない。


「お主毎日のように小説を読んでおったじゃろ。こんなお決まりの流れがまだ理解できぬのか?」


 そうだ。

 これはよくある小説の流れじゃないか。

 はは、ついに妄想しすぎて病んでしまったか。


「お主は正常じゃ。今お主はまさに人生の分岐点に立っておるのじゃぞ」


 え? 

 考えてることが読まれてる?


「神じゃからそれぐらい当然じゃ。私も忙しい身じゃ、そろそろ会話をしたいんじゃがの」


 どうやら本当に心が読めるようだ。

 聞きたいことは山ほどあるが、一番気になったことを聞く。


「俺の人生をやり直せるんですか?」


 俺の言葉に少女は微笑む。


「敬語を気にせずともよい。私は神だが他の神のように偉ぶる趣味はない。こうして人と直接話すのも随分久々じゃから普段通りでよいぞ」


 神なのにそれで良いのか?

 まぁ、お言葉に甘えるとしよう。


「わかった。で、どうなんだ?」

「やり直しはできるとも。但しお主も予想しておるじゃろうが、やり直せすのは別世界じゃ。この世界で起きたことを無かったことにすることは私にもできぬ」

「やっぱりか。予想はしてたけどな。でも、もし転生したら今の俺はどうなるんだ?」


 俺は長い間両親に迷惑をかけてきた。

 その事に気づいてからは両親に罪悪感を感じている。

 もし俺が転生することでいなくなるのであれば更に迷惑をかけることになる。

 それは出来れば避けたい。

 尤も俺がいても迷惑だろうけどな。


「心配することはない。転生するのはお主だが、この世界にもお主は残るのじゃ」


 え?

 どゆこと?

 

「私の力でお主の魂を複写して異世界へ転送させるが、こっちのお主はそのままじゃ」


 それってこっちに残った俺は結局ただのダメ人間じゃねーか。


「まぁ、話を聞け。この世界と異世界へ転送するお主は同じ魂でリンクしておるのじゃ」


 ふむふむ。

 よう分からんが取り敢えず続きを聞く。


「私の力でこの世界はあまり操作できないが、個人に影響を与えることぐらいはできるのじゃ」


 それで?


「この世界のお主は私と出会ったことを忘れ小説書きにさせるんじゃ。お主が好きなラノベ小説のな。そして書く内容はお主が向こうで実際に体験することじゃ。魂がリンクいている状態なら異世界で体験したことはある程度こっちで感じ取ることができるのじゃ」


 言っていることを必死に整理する。

 つまり俺は異世界に転生して、向こうで俺が体験したことをこっちの俺が感じ取り、それを小説にする?


「そうじゃ、理解が早くて助かるのう。つまり向こうの世界でも、こっちの世界でもお主は新たなスタートが切れるということじゃ。もっともお主が転生してろくな人生を歩まなければ大した小説も書けないがの。全てはお主次第ということじゃ」


 それを聞いて胸がざわめく。

 しかしこんなうまい話があるだろうか。


「安心せい。私ではないが、他の神がようやっとることだ。じゃなければ普通の人がスライムに転生する発想などあるはずなかろう。あれも同じように転生した者と残った者の魂がリンクしており、向こうで経験したことをこっちの者が書いておるのじゃ」


 え?

 あのスライムに転生して一国の王になった小説の作者って実際に転生してたん!?

 それに――


「他の神? 神はいっぱいいるのか? そもそもなんで転生させる必要があるんだ?」

「神は世界の数だけおるぞ。それこそ星よりも多いのじゃ。創造主は一人じゃが私ら程度の神じゃ会うこともない」


 なるほど。

 少女の言葉はなぜかそのまま受け入れられる。

 多分嘘はついていないはず。


「それから転生者が必要な理由じゃが、一般的なものはお主もよく読んでいる小説のように世界を救うためじゃ。お主らが住む世界は創造主が作った世界じゃから魂が特別なのじゃ。だから転生させると凄まじい力を発揮できる。まあ、娯楽で転生させる神もいるが、あれは少数派じゃ」


 こんな話を聞いて妙に落ち着いている自分に驚く。

 小説を大量に読み、その世界にいる自分を妄想してきたからか、神の都合で転生されることに対して不思議と嫌悪感はなかった。

 

 そして俺は気になったことを聞いてみた。


「なら俺にもその特別な力はあるのか?」

「当然じゃな。この世界の住人なら全て特別な力を持っておる。当然この世界で優れている人間ほどその力は大きい」


 自分が選ばれた人間だと思ったことを少し恥じた。

 それなら落ちぶれた俺は大したことないんじゃないのか。


「安心して良いぞ。お主は私が選んだのじゃ。当然理由はある。3つほどな」

 

 俺が反応する前に少女は更に言葉を続ける。


「一つ、私は今力が衰弱しておる。だからこのような少女の姿をしておるのじゃ。この世界の感覚で言うならあまり裕福じゃないのじゃ。優れた人間を転生させるほど力がいて、ようは高いのじゃ。お主はお世辞にも高いとは言えぬな」


 それを聞いて更にがっかりする。

 ようは金がないから優れた人材を買えないようなもんだ。

 俺は安物ってこった。


「二つ、私は特別な目を持っておる。魂を見抜く目だ。これは神の中でも特別なものじゃぞ? 普通の神は魂の表面しか見えんが、私は魂の奥底を覗く力があるのじゃ」


 魂の奥底?

 それが俺と何の関係があるんだ?


「お主の魂は確かに今輝きを失っているが、本来は大きな輝きを持っておるのじゃ。簡単に言えばダイヤから原石に戻ったようなものじゃ。でもダイヤはダイヤじゃ」

「俺が・・・ ダイヤ?」

「そうじゃ。そして最後の理由じゃが、お主はやり直したいと強く願っておったじゃろ? その気持ちは転生に大きく影響する。本人が納得しないで転生させると複写された魂が劣化するからのう。お主なら魂は完璧なはずじゃ」


 それってつまり?


「うむ。我ながらいい掘り出し物を見つけたのじゃ。お主は全ての条件においてぴったりじゃからな」

 

 暗かった気持ちが一気に晴れるようだった。


「もう一度聞くぞ。転生して人生をやり直したいかの?」


 俺はその言葉を聞いて、考えもせず即答した。


「はい! お願いします!」


 つい敬語を使ってしまうぐらい、俺は転生を強く望んでいたらしい。


 人生のやり直し。

 普通どれだけ望んでも実現できないであろうことが、これから起きようとしている。

 不思議と不安に思う気持ちはこの時露ほどもなく、ただ新たな世界に期待を膨らませていた。



お読み頂き有難うございます。

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