魔法ギルト
魔法の呪文を変更しました。
町に入った瞬間、俺はまず人の多さに驚いた。門に近いってことは街の郊外のはずだがそれでもお土産や屋台が多く、たくさんの人で賑わっている。引篭り歴が長かった俺は最初は圧倒されていたが、歩いている内に慣れてくる。
建物を見ると俺がイメージしていた小説の風景とあまり変わらない。神の少女が言っていたラノベ小説は実体験であることが多いというのは本当なのかもしれない。
向こうに残った俺はもう小説を書き始めたのだろうか。いい作品が書けるように俺もこっちでがんばらないとな。
「どうだルイ。人が多くて賑やかだろ。すこしビビったか?」
考え事をしているとロイスがニヤニヤしながら俺に話しかける。黙っている俺が緊張していると思ってからかってるのだろう。確かに間違ってはいないが。
「うん。綺麗な町だね!少し緊張したけど、もう大丈夫だよ」
「っち。やっぱりルイはガキのくせにませてるな。もう少しビビると思っていたのによ」
ウゼー・・・
まあ俺を心配してのことだ。ロイスも初めて父となったわけだから、頼りがいがあるところを見せたいのだろう。
「父さん、魔法の家庭教師はどこで募集するの?」
これだけ大きな町だ。恐らく人材はたくさんいるはずだ。ただ家庭教師をその辺で探すわけではないだろう。
「魔法ギルトだ。ルイは知らないだろうけど魔術士が集まる団体だ。それと同じようなもので、冒険者ギルトというのもあるぞ」
キター!!
異世界の定番! 冒険者ギルトに魔法ギルト!
多くの小説の中で登場する施設がこの世界にもちゃんとあることが分かる。多分システムもそう違わないだろうと予想する。
「俺みたいは剣士は冒険者ギルトに入るが、母さんのような魔術士は両方に所属していることが多い。魔法ギルトはどちらかというと研究施設だな。研修した成果を町や国に売ってるんだ」
やはり俺が持ってるイメージとそう変わらない。
「ルイも大きくなったら冒険者ギルトを入るといい。いい仲間と冒険に出るのは楽しいぞ。俺と母さんもそこで出会い、いろんなところで冒険してきたんだ」
「うん! 大きくなったらそうするよ。父さんもいろいろ教えてね」
俺の答えに満足したのかロイスは大きく頷き俺の頭を撫でる。
そして俺たちは町の中心へ歩いていく。歩けば歩くほど人は増えていき、屋台だけでなく、香ばしい匂いを漂わせるパン屋や、呼び込みをしている飲食店なども増えてきた。雑貨店の前でもたくさんの人が集まっていた。
更に歩くと杖とマントのシンボルが飾ってある大きな建物が目に入る。
「ここが魔法ギルトだ。ここでルイの教師を探すぞ」
「うん! 楽しみだね!」
魔法ギルトは立派造りをしており、入るのに少し躊躇するほどだった。緊張しながらもロイスに連れられて建物に入る。
ギルト内は明るく、随分おしゃれな雰囲気だった。魔術士はもっとジメジメした薄暗いところで研究しているという先入観を持っていたが、どうやらここは随分ハイカラらしい。
周りを見ると壁際には天井に届きそうな本棚が並び、その中は本で埋め尽くされている。またいくつもの机があり、資料や怪しげな器具が散乱していた。
しばらく見ていると一人の中年男性がこちらに歩いてくる。
「これはこれは。ロイスじゃないか。マリーは元気かね?」
ローブを着た少し白髪混じりの中年男性がこちらに話かける。表情は穏やかで人の良さが伝わってくるが、同時に威圧感も感じる。子供の俺でもこの人は大きな力を持っていると感じる。恐らく間違いないだろう。
「おや? そちらの子供はもしや君とマリーの子供かね?」
そう言って中年男性は俺をじっと見つめる。その目を見るとまるで自分のことが見透かされるかのような感覚に陥る。
「これはすごい。この子はとんでもない力を持っているようだね。」
「ははは、さすがだなガリル。うちのルイはすごいぞ、天才だ」
中年男性はガリルという名らしい。ロイスは相変わらずの親バカだ。
それにしても俺を見ただけで魔力がわかるのか?
《魔法に精通していればある程度他者の魔力を感じ取ることができます。しかし正確に分かるわけではありません》
なるほど。俺はこの年で毎日のように魔力増強を続けてきたから魔力はかなりあるはずだ。俺から何か感じ取ったのだろう。
「初めましてルイ君。私はガリルという者だ。ここでギルトマスターを勤めている。君は魔法の才能があるようだ」
「初めまして。ルイです。魔法は母に教わりました」
俺はなんとか誤魔化す。するとガリルは嬉しそうな表情を浮かべた。
「礼儀のある子供だね。ふむ。確かにマリーは才能ある魔術士だ。英才教育もなかなかのものみたいだね」
「実はそれでここに用がある。うちのルイはマリーもお手上げだ。ちゃんとした家庭教師を招きたい」
「何? それはどういうことかね」
それを聞いたガリルは訝しげな顔を浮かべ、ロイスは今日のことをガリルに説明する。俺がこの年で魔法を使えること。通常よりも魔法の威力が大きいこと。そして無詠唱で魔法を使えることを伝える。
「にわか信じにくい話ではあるな。ルイ君、本当かね?」
「はい。父が言っているのは本当のことです。生活魔法だけだけど無詠唱で使えます」
ガリルは目を細め俺を見つめる。そして建物の奥へ移動し、丸い水晶玉を持って戻ってくる。
「ルイ君、ここに手をおいてごらん」
言われた通りに俺は右手を水晶玉の上に置く。すると水晶玉は眩い光を放つ。
それを見たガリルは大きく目を開き驚いている。
「・・・これは。この年でここまでの魔力を有しているとは」
「はは、やっぱりうちのルイはすごいだろ?」
どこまで親バカなんだよ。
「すごいなんてものじゃないよロイス。ルイ君はこの年で王宮魔術士並の魔力を持っているようだ」
「何? そこまでか?」
その言葉にはさすがの親バカも驚く。
「そうだ。実際に目にしないと私も信じられないよ。君らの子供は天才なんてレベルじゃない」
「ルイは特別だと分かっていたが、正直ここまでとは思っていなかった。マリーがお手上げなわけだ」
いつも軽そうなノリのロイスもこの時は真剣な顔を浮かべ俺を見つめている。
「ルイ君、付いてきたまえ。君の魔法を見てみたい」
俺とロイスはガリルの後に付いて行き、階段を降りる。地下に出るとそこには大きな空間が広がっていた。闘技場のような作りをしており、人形がいくつも設置されている。
「ルイ君なかなか広いだろ。ここは当ギルトの訓練所だ。造りはかなり頑丈だから皆ここで魔法を練習したり、新しい魔法試したりしている」
確かにその人形に向かって見たことのない魔法を放つ人が何人もいる。あれは攻撃魔法だろうか。凄まじい音を鳴らしながらいくつもの閃光が人形に向かう。
「すごいですね!見たことない魔法ばかりです。あれだけ魔法を放っても大丈夫なんですか?」
「ここは魔法を試す場所だからね。魔練石を使ってるからかなり頑丈に作られているんだよ」
ガリルの話を聞くと、魔練石とは錬金術師によって作られた魔法防御にすぐれた建築材のようだ。見た目はコンクリートのようだが、確かに魔術士の魔法が当たってもビクともしていない。町を囲う外壁にも同じ素材が使われているとも言っていた。
「ルイ君は生活魔法しか使えないと言っていたね」
「はい。母さんからは生活魔法までしか教わっていません」
「ふむ。それなら私が一つ魔法を教えよう。初級魔法だが使い勝手の良い攻撃魔法だ」
そう言ってガリルは的の人形に手を向ける。すると体からキラキラしたものが見える。生活魔法よりもかなり多くの魔力を込めているようだ。
こんなに早く新しい魔法を教えてもらえるとは思っておらず、呆気に取られているとガリルは魔法を唱え始めた。
「火炎よ、我を阻みし者を焼き尽くせ、赤き弾丸、ファイアボール」
するとガリルの手の前で赤い炎の玉が生まれる。ライトよりもずっと大きく、熱が感じられる。次の瞬間、人形目掛けて一直線に飛んでいった。かなりの速さで目で追うのがやっとだ。
そして人形の方で大きな爆発音が起き、爆炎が舞い上がる。威力もなかなかのものだ。煙が晴れたあと人形には僅かに焦げ目が付いていた。
「すごい・・・」
初級魔法と言っていたが、かなりの迫力に唖然とする。
これこそが俺がイメージしていた魔法だ。生活魔法もなかなか面白かったが、魔法はやっぱりこうドーン!と放ってこそだと思う。徐々に今見た魔法に興奮してくる。早く自分でも試してみたい。
きっと俺の力を見て教師を選ぶのだろう。ここはいいところを見せないと。
「どうだね?これが火の初級魔法である【ファイアボール】だ。ルイ君もやってみたまえ。君ならできるだろ?」
「はい!試してみます!」
俺は集中して今の魔法を思い出す。イメージするのは灼熱の炎の玉。テニスサーブのように一直線に的へと向かい爆発を起こす。
「火炎よ、我を阻みし者を焼き尽くせ、赤き弾丸、ファイアボール」
すると俺の手の平から丸い炎の玉が生まれる。魔力が吸い取られる感覚が分かる。この時に込めた魔力量で威力が決まるのだろう。とりあえず上限まで魔力を込めてみるか。
次の瞬間、俺の魔法はガリルよりも早く人形へと向かう。
ドゴオォォォン!!
訓練所に耳鳴りがするほどの爆発音が響き、爆炎が舞い上がる。ガリルもロイスも唖然と的を眺めるしかなかった。
そして煙が晴れた向こうには、上半身が爆ぜた人形が残っていた。
あれ?
またやりすぎた!?
お読み頂きありがとうございます。
次話は明日投稿します。
ヒロイン次で登場できるかな・・・




