家庭教師
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※一部内容修正しました。
「ルイ、あなたはママが想像していた以上の才能を持っているわ。悔しいけどママだとあなたの才能を最大限に伸ばせられないと思うの。だからちゃんとした教師を雇った方がいいわね」
マリーの顔は笑っているが、どこか悲しそうでもあった。
「教師?」
「そうよ。ママも魔法はそれなりだけど、ルイの才能とは比べられないわ。だからもっとしっかりした家庭教師を付けた方がいいと思うの。パパと相談してきっといい教師を見つけてみせるわ」
まだ訓練を開始して1週間しか経っていないが、マリーは俺の教育を諦めたようだ。
少し申し訳なく感じるが、俺はその言葉には甘んじるつもりだ。大きな力を手に入れるためには学ぶ環境も重要だ。その分俺も頑張らなきゃな。
そしてお昼になり俺とマリーは家へと戻り、ロイスがそんな俺たちを出迎えてくれた。
「戻ったか! 特訓はどうだったんだ? ルイならすげー成長したんじゃねーか? はっはっは!」
呑気に笑うロイスをマリーがむっとしながら睨につける。
「すごいなんてものじゃないわよ! お昼を食べながら話しましょ」
昼食を食べている間、マリーはひたすら俺の凄さを自慢げにロイスに話し、最初大袈裟だと言って笑っていたロイスもマリーの真剣な目を見て本当のことである判断した。
「ルイはやっぱすげーな。才能があるとは思っていたが、ここまでとはな。魔法の家庭教師は俺も大賛成だ。費用のことなら気にしなくていい、俺がすぐに稼いでやるぜ!」
そうか。家庭教師だってただじゃない。聞けば家庭教師を雇うには当然お金がかかるらしい。うちは決して裕福ではないから大きな負担になるはずだ。
「母さん。やっぱり僕は母さんと魔法の訓練をするよ。母さんだって凄いんだから家庭教師なんていらないよ」
それを聞いたマリーとロイスは一気に険しい表情に変わり反論してきた。
「子供が余計な心配すんな。お前の学費ぐらいどうってことねーよ」
「そうよ。ルイの才能はそれだけの価値があるの。これは私たちがそうしたいからそうするのよ。ルイは何も心配しなくていいわ」
前世では両親の世話になりっぱなしだった。
この世界でまた両親に負担をかけてしまうことに嫌気が差したが、二人の説得に俺は渋々同意する形となった。やっぱり両親というのは有難い存在だな。
「じゃあ早速午後に俺がミュールに行って募集してみるぜ」
「そうね。ミュールならきっと良い教師がいるわね」
話が決まった。
俺たちが住んでいるところは辺境の田舎だ。それなりに人はいるけど俺に魔法を教えられるような人はいない。一方ミュールはこの国でもかなり大きな町のようで人材も多く、そこならいい教師も見つかるだろう。
「母さん、父さん、ありがとう。一生懸命勉強するね」
言ってから俺はふと思う。
俺はこの世界に生まれてからずっと家を離れたことがない。更に前世も入れると俺はかなり長い間家に引き篭っていることになる。
そこで俺は意を決してロイスに尋ねてみた。
「父さん、町に行くなら僕も一緒に行きたい! だめ?」
そう聞くとロイスは一瞬きょとんとしたが、すぐに笑顔を向けてきた。
「もちろんいいぞ! 外の世界に興味があるのか? 流石俺の子だな! はっはっは!」
「もうロイスったら。でもいい機会ね。一緒に行ってきなさい」
二人共俺の提案に同意し、俺の同行が決まった。
異世界に転生して2年、この世界で充実した人生を送るためには当然行動範囲は広い方がいいし人付き合いも必要だ。引き籠もり歴の長い俺にはお出かけすら緊張してしまうが、克服しなくてはならない。
そして昼食を取ってしばらく休憩してからロイスが俺に出発を告げた。
「じゃあルイ、一緒に町へ出かけるか!」
「うん!」
俺とのお出かけが余程嬉しいのか、ロイスもテンションも高まる。
具体的な位置はよくわからないが、話によるとうちからミュールはここから馬車1時間ほどで到着できるらしい。
そしてマリーが俺達を見送り、俺たちは地元の馬車乗り場から馬車に乗りミュールへと出発した。
道中は穏やかだった。
もしかしたら魔物に遭遇するかもしれないと警戒していたが、そんなことは起きなかった。
「ルイ、この道の両側に所々丸い玉が見えるだろ。あれは魔物避けの魔道具だ。あれがあると付近に魔物は近づいてこねーんだぞ。この国は至るところに設置しているから移動が安全なんだ」
俺の思考が読めたかのようにロイスが理由を教えてくれた。
どうやらこの世界でも小説で読んだような独特の技術を持っているらしい。
「ルイが5歳になったら俺がしっかり剣術を教えてやるからその時は一緒に魔物を狩りに行こうな。まあお前は魔法もすげーから余裕だろうけどな! はっはっは!」
「うん! 絶対強くなってみせるよ!」
ロイスは余程俺に剣術を教えたいらしい。
いや、親としての威厳を保つために俺に剣術を見せたいだけなのかもしれないが。
そんな話をして馬車に揺られながら自然の風景を楽しむ。
道の周りで生えている木や植物は前世のものとそんなに変わらないように思う。まぁ、植物の知識を持っているわけではないから若干の違いがあっても俺に気付けないだろう。
馬車を進めて約1時間経ったところでようやく大きな町が見えてきた。
あれがミュールか。
確かに俺達が住む田舎とは比べ物にならず、離れたここからでも街の活気が伝わってくる。
そして俺たちは町の入口で馬車から降り、馬車主に感謝してから町へ入るため、入口の門で順番待ちしている列へと並ぶ。
周囲を見ると馬車に荷物を積んでいる商人らしき人、様々な装備をした冒険者っぽいグループ、親子連れの一般人などが俺たちと同じように並んでいた。
しばらく待っているいるとようやく俺たちの番になり門番らしき人がロイスに声をかける。
「お、ロイスじゃないか! 久しぶりだな。お? そいつはもしやお前さんが自慢してた子供か?」
「あぁ、2ヶ月ぶりだな! そんでこいつがルイだ。すげー魔法の才能を持ってるんだぜ? 今日はこいつの家庭教師を探しに来たんだ」
「ははは、こんな子供がか? 相からずの親バカぶりだな」
門番の兵士はダンって言うらしい。
それにしてもロイスが親バカなのはもう周知されているようで少し恥ずかしいな。
「こんにちはダンさん、ルイです」
あいさつは大事だ。これをするかしないかで印象が随分変わるはずだ。
「お、礼儀正しいね。ロイスの子供とは思えんな。ははは」
「何か言ったか、おい?」
「ははは、まあ怒るなって。できた子供じゃねーか」
「まぁな! はっはっは!」
そう言って笑い合う二人。どうやら二人の仲は良さそうで、親バカのロイスの扱いにも慣れてる様子だ。
しばらく俺たちは会話を楽しみ、そして――
「よし、町へ入っていいぞ。ルイ、いい教師が見つかるといいな!」
「はい! ありがとうございます!」
俺は初めてミュールの町へと足を踏み入れた。
次話は明日投稿します。
ヒロインはもう少しで登場します。