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マイワールド・クロスネス  作者: 一水ケイ
第一章 あたしと魔物とエクソシスト
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あたしと魔物とエクソシスト-3

「……はぁ!?」

 あたしは高橋から離れ、自分の服装を確認した。

 白いカッターシャツとブレザーにチェックのスカート、ごく普通の中学校の制服。紺のダッフルコート。持ち物はスクールバッグ。

 目の前の、マント着用で金髪碧眼の自称エクソシストとは全然違う。あたしはファンタジーな人間じゃないぞ!

「どうしてあたしに!?」

「ついさっき、お前は神社で神の使いとして務めていただろう」

 神の使いって何それ、……いや、もしかして。

「まさかとは思うけど、巫女のこと……?」

「ああ、それだ」

 ば、バイトなんですけど。おみくじ渡してただけなんですけど……。

「今回のミッションは元々俺一人では難しいものであり、日本で仲間を探すつもりだった。日本の宗教施設といえば寺や神社。お前がぴったりだ」

「いや、無理……」

「それに、お前が先程、神事に使われる木片に『世界平和』と書いていたのを俺は見た。お前の志も、俺たちの『世界を救う』という最終的な目的と合致している」

「それはちょっとした間違い……」

「心配するな。誰でも未知のことに対しては不安を持つものだ。しかし、いざやってみれば、思っていたほど難しいことではない。必要なのは少しの勇気だ」

 正論なんだけど、だからバイトだし、心願成就の間違いなんだってば!

 すると、目の前の高橋が突如黙り込み、あたしの目をじっと見た。

 何かを考えている。あ、諦めてくれた……?

「……その顔は、興味を持ち始めたようだな」

 こいつの目は節穴どころか落とし穴か!

「無理無理無理、無理だって、あたし魔物なんて見たことないもん!」

「自分をそう卑下する必要はない。少々潔癖な世の中だからな、神の使いと言えど魔物を見たことがない者は珍しくない。しかし、きっかけさえあれば見て、感じられるようになる。先程魔物の残り風を感じられたのならば素質は十分だ。エクソシストである俺の傍にいれば、影響を受けて魔物を感じやすくなるから、これをきっかけとして神の使いとして成長すればいいだけだろう」

 いいことを言った、というふうに高橋が深く頷く。

「よし、今回のミッションについて説明しよう」

 しかもそのまま説明を始めやがった。相変わらず表情を変えない高橋なんだけど、少し嬉しそうに見えた。あたしは全然嬉しくない。

 けれど、だからと言って高橋を無視して立ち去ることもあたしにはできなかった。「魔物の残り風」を感じたのは事実だったから。高橋の言う通りなら、彼の影響を受けて、あたしにも魔物が見えるようになっているらしい。そんな状態で一人で帰って、もし魔物に遭遇なんてしてしまったら、怖いどころの騒ぎじゃない。結局あたしは高橋の話を聞くしかなかった。

「今回捕獲するのは、『デネボラ』と呼ばれる魔物だ。こちらの世界のもので例えるなら、……そうだな、少し大きくて黒い獅子を想像してもらえばいい」

「獅子……ライオンなの?」

「ああ」

 魑魅魍魎なんて聞いて、その語感から嫌な想像をしていたけれど、少なくとも見た目が気持ち悪いものではないらしい。

「元々、俺たちエクソシストは、ある場所で捕獲したデネボラを本部へ運んでいたんだ。その途中、……まぁ……何というか、その、デネボラが……逃げた……というか」

「ふーん、……って」

 少しの違和感を覚えた。今まで、表情は真顔のままだけどあれだけ淡々と、そして途切れることなく語っていた高橋が、あからさまに言葉を濁している。

 あたしはなんとなく声のトーンを落として尋ねてみた。

「あのさ、高橋。もしかして、もしかしてなんだけど、デネボラを逃がしちゃったのって、……あんたなの?」

「ああ、そうだ。俺たちというか、俺がやってしまった」

 さっきはあれだけ濁していたのに、今度はあっさり頷きやがった。

「ちょっ、はぁ!? お前、何逃がしてんのよ!! そのせいであたしまで巻き込んでんじゃん!!」

「いや、悪かった」

「そんなあっさり言うなっ、可愛げもないっ!!」

「可愛げがあったらいいのか? ……ごめんだっぴょん」

「その真面目顔で言うな――!!」

 気付けばあたしは肩で息をしていた。目の前の高橋は涼しい顔で、それがものすごい敗北感をあたしにもたらしていた。

 そのときだった。

 冷たい空気が上から降ってきて、あたしのすぐ傍を駆け抜けた。

「ひゃっ……!?」

 冷たい。その冷たさは、さっきと同じく、冬のせいじゃない。一拍遅れて、凍らされるような震えがつま先から這い上がる。

 高橋の言葉を思い出す。「あれは魔物の残り風だ」。ということは。

「ちょっと高橋っ、今」

「デネボラが近い」

 あたしは辺りを見回した。変わったところは、何も見つからない。じじじ、と切れかけた電灯がまた点る。

「何もいないじゃない……」

「姿を消している」

 高橋の頬を、一筋の汗が流れおちる。相変わらずの無表情なのに、緊張がはっきりと見て取れた。それがあたしにも伝染する。

「どっ、どっ、どうするのよ高橋……」

「静かに」

 ぞわりと皮膚に鳥肌が立つ。

「来たぞ!」

 高橋は右手を前に突き出す。

 小さく、低い声で何かを呟いたのを、あたしは聞いた。

 暗闇が僅かに揺らぐ。その変化した空間からにじみ出るように。

 「それ」が、現れた。


「……!!」


 あたしの叫びは、声にならなかった。

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