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2015年/短編まとめ

二人の出会いに今カンパイ

作者: 文崎 美生
掲載日:2015/07/17

才能がないから人一倍努力した。

人一倍じゃ足りないから、二倍も三倍も努力した。

だから才能に胡座をかく人は嫌い。

私の努力を才能という一言で片付ける人は嫌い。


やっとやっと、担当がついた。

何度も何度も持ち込みをして、より良い作品を作るために努力をしてきたのだ。

寝る間を惜しんで書いた。

友達と遊ぶことよりも書くこと優先だった。


それなのに、それなのに……。

私の担当は、コイツは……。


「うん、才能ないと思うんで。もう辞めません?」


と笑顔で言い放ったのだ。

許せるか。

許せるわけがないだろう。

何で許さなきゃいけない。

私はこんな奴許さない。


「巫山戯ないで下さいよ!私は真剣です!才能がそんなに大事ですか?!才能がないと書いちゃ駄目なんですか!!」


バンッ!と勢い良く白いテーブルを叩いて立ち上がる。

今までこんな大声を出したことがあったろうか。

そう思い返するくらいに頭に血が上っていた。


努力してきた。

努力だけは怠らなかった。

才能がないのは知っている。

才能がない自分を認めてもいる。

でも、だからって……!


「努力を否定されていい訳じゃ、ないですよね」


ぽん、と優しく、刺激をしないようにと叩かれた肩。

柔らかい声に肩の力が抜ける。

振り返れば、私の肩に置かれた手のように優しく、声と同じような柔らかな笑みを浮かべた男の人が立っていた。


此処は編集部。

いつもなら下の打ち合わせ場所か、ファミレスとか喫茶店だが、こんな日に限って編集部の空いたスペースで打ち合わせをしていた。

打ち合わせとも言えない、私の作品に対する駄目出しだけだけれど。


そんな場所で私は大声を出したのだ、当然その場に居た人達には聞こえていたはず。

そう思い返すとひどく恥ずかしい。

頭に上っていた血が顔に集中するのを感じた。


「大体、最初に彼女には才能があるとか言ってたのお前だろうが。それを少し思った通り行かないからって、彼女にめちゃくちゃなこと言ってんなよ」


「でも、よぉ……」


「でもじゃねぇの。俺達編集の仕事は、作家に気持ち良く作品を生み出してもらうサポートだろうが。それを、作家が書きたくなくなるようなこと言ってどうする」


淡々と、それでも柔らかな口調は残して、諭すように言葉を紡いでいくその人。

触れられた肩からじわじわと熱が伝わってくる。

その人の言葉に泣きそうになった。

別に普通のことかもしれない。

でも、今の私はその言葉が涙腺を緩める。


「てか、担当変えたいなら編集長に頼めばいいだろう。俺が彼女の担当になるから」


「はぁ?!」


現担当さんの驚いた声。

それからその人の言葉に、緩んでいた涙腺が驚いたように固まった。

涙は出ていない。


その人は私の方を見て、にっこりと笑う。

それから「よくもまあ、コイツの無理難題に答えてましたよ」と言った。

やっぱり無理難題だったのか。

私の書けないミステリーを書けとか、濡れ場を入れろとか、正直書いている最中に泣きそうになった。

その上、書き上げても褒められることは一度もなく、言われた通りに書いても駄目出し。

限界もいいところ。


「頑張ってますよ」


「……え?」


彼が私の肩に置いていた手を移動させる。

今度は頭の上に手が置かれて、ポンポンと子供を宥めるように撫でた。


「コイツとは同期だし、それなりに仲いいしってことで、作品見せてもらってたんですよ。本当に努力してるんだなって、感じましたよ」


優しい言葉。

柔らかい言葉。

包み込むような言葉。


「凄く嘘臭いかもしれないけど。絶対有名作家になれると思いましたよ」


優しい笑顔。

柔らかい笑顔。

包み込むような笑顔。


「だから、絶対有名作家になれますから!だから、俺と一緒に作ってみませんか?」


固まった涙腺が緩んだ。

崩壊、決壊。

滲んだ視界では驚いたようなその人。

まだ、書きたい、創りたい。

才能がないのは知っているから。

それでも、ここしかない。




***




「んあ……」


ガサゴソ、と何かの音で目が覚めた。

体の節々が痛い。

何徹したっけ、何日寝てたっけ。

ぼんやりした頭のまま、天井を眺めていると顔を覗き込まれる。


「お早う御座います。もうお昼近いですけど」


にっこり、昔と変わらない笑顔がそこにある。

声だって昔と変わらない柔らかいもの。

今何日か聞いて、流石に寝過ぎたと思う。

三日は寝ていたことになる。

流石に時間を無駄にした感があった。


ベッドの上で起き上がって、乱れた髪を手櫛で直す。

それでもなかなか直ることはないので、最終的に一つに結んでしまうのが楽だ。


「それにしても、楽しい夢でも見てたんですか?」


「何が?」


彼は荒れに荒れた私の部屋を掃除していてくれたらしい。

疲れてそのまま寝たから汚かったのに、もうだいぶ綺麗になっていた。

床一面に広がっていた原稿用紙はなくなっていたし、机の上や隅っこにあったペットボトルや空き缶やゴミがなくなっている。


お世話になりっぱなしだ。

普通ここまでしないだろうに。

彼には出会った時からずっとお世話になっている。


「凄く笑顔の寝顔だったので」


クスクス笑う彼。

そんなにいい笑顔で錬ていたのか、私は。


「……まぁ、いい夢だよね。出会えて良かったと思うもん」


欠伸を一つ。

彼は首を傾げる。

分からなくてもいいんだ。

私は凄く感謝しているから。


出会えて良かった。

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