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【短編】ゆうやけ荘は今日も平和に   【シリーズ】

台風です。佐々木さんと花笑ちゃんが暇しています。

作者: FRIDAY

 

 暴風で窓がガタガタ鳴っている。豪雨で窓がバチバチ鳴っている。

 台風ですよー。

「台風ですよー。もうむっちゃ台風ですよー。何でこんなに大荒れなんですかねー、大はしゃぎですねー」

 パタパタと足を振りながら、花笑ちゃんが不満げにぼやく。

「ほんとじゃー、なんじゃタイフーって。風が煩くて敵わんのじゃ。外にも出られんし」

「いや、佐々木さんは晴れてても外には出られないでしょ」

「気が滅入るんじゃー。もっとこう、はっぴーに心安らかに生きていきたいものじゃ」

 はっぴはっぴと佐々木さんと花笑ちゃんが合唱する。

 仲のよろしいことで。


「でもほんと、今年は凄いみたいですね。ニュースで言ってました」

 僕は地元から離れて来ているため、これほどの台風は初めてだ。

 というか、僕の地元は台風が上陸しない地域だったため、正直言うと台風はこれが初めてだったりする。

「まあなあ、いつもはもうとっくに逸れてるんだが、今年はどういうわけかまっすぐ来てるらしいな」

「こう暗くなると、結構怖いですね……大丈夫なんですか、窓とか割れたりしませんか」結構本気で怖いのですが。

「んー、まあ、風で割れるようなことはないぞ。何か飛んで来たらまた別だがな……」さらっと怖いことを言わないでください。


「暇ですー暇なのですーテレビも見飽きましたー何か面白いことないですかねー」

「暇じゃー暇なのじゃーげーむも飽きたのじゃー何か面白いことないものかのー」

 いよいよ佐々木さんと花笑ちゃんが歌いだした。


「うわ、今光りましたよ……あ、鳴った。加賀さんと水戸さん、まだ帰りませんね……大丈夫でしょうか」

「ああ、あのふたりならまつげの奴が帰りに拾ってくるって言ってたぞ。あいつ車持ってるからな」

「あの軍用車両みたいなのですよね……それなら安心、ですかね」

「暇ですーユーヤさん何か一発芸やってくださいー」

「一発芸じゃーユーヤの一発芸じゃー」

「え、なにその無茶振り……できませんよ、一発芸なんて。ネタがありませんて」

「見たいんですー暇なんですー」

「普段やらない奴だからこそ面白くなるのじゃーいわゆるぎゃっぷ萌えという奴じゃー」佐々木さんはまた変な言葉ばかり覚えやがって。

「前島さん、ちょっと助けてください、止めてください」

「わーぱちぱち」口だけで拍手しやがった。

「無茶言わないでくださいよ」

「無茶だからこその無茶振りなんだろ」

「なんですかその正論に見紛う暴論……無理ですって、キャラじゃないんですよ」

「だからこそのぎゃっぷ萌えじゃ」

「ですよ」

「やっかましい、できないものはできません」

「「けちー」」

「ハモっても駄目です」

 人には決して譲ってはいけない瞬間というものがある。

 というかこのふたり、随分仲良くなったよねえ……悪いことではないんだけど。


 あ、また光った、鳴った。

「近いですね……まつげさんたち、大丈夫ですかね」

「さてな……そういや、まつげって、雷ダメだっけか?」

「え、そうなんですか?」それはまた、意外な。

「あー、どうだったかな……加賀が強いのは確かなんだけど」

「加賀さんって、あの見た目で大概のものに強いですよね……え、でもまつげさんが雷に弱かったら、なおのこと心配になってきますよね。車運転するの、まつげさんなんですもんね」雷でびっくりしたら事故を起こしてしまうのでは。

「まあ、あれだ。いざとなったら加賀が運転代わるだろ」

「成程、それならだいじょう――」ぶ? 「え、ちょっと待って下さい、加賀さんって運転免許持ってるんですか?」

「おお、何だ知らなかったのか? 持ってる持ってる」

「え……」それは、なんというか、信じがたい衝撃の事実だ。だって「加賀さん年齢的に免許取れないんじゃ」

「何言ってんだ。加賀は合法ロリなだけで実年齢はレディなんだぜ」

「あ、いや、それはそうなんですけれども」確かに僕よりも年上なんだけれども。

 でも、こう、どうにも腑に落ちないというか。それに他にも、

「足、届くんですかね……?」

「んー? まあそこはそれ、上手くやるだろ。加賀なんだから」

 まあ、確かに免許取っているんですもんね……いやでも、軽自動車ならともかく、まつげさんの装甲車みたいなアレはほんとに届かないんじゃ。

「だーじょぶだって、心配し過ぎだ。失礼な奴だぜ全く。また加賀に怒られるぞ」

「またって……そんなに常習犯じゃないですけどね」うん、多分。


「暇じゃ!!」

「うわっ」

 いきなり目の前に佐々木さんの顔がドアップで迫ってきて引っ繰り返りかけた。バックグラウンドでは雷光がいい感じに効果を、じゃなくて。

「何するんですか佐々木さん。腰が抜けたらどうするんですか」

「そうなったらなったで退屈しのぎにはなるわい」「え、ひど」「とにかく暇なのじゃ。一発芸をせんと言うなれば、ユーヤ、何か暇つぶしを考案せい」そんな御無体な。

「暇つぶしって言ってもな……」

「早うせい。早うせんと、花笑が退屈のあまりにコサックダンスを始めよるぞ」「ええ!?」

 見ると花笑ちゃんは、コサックダンスはさすがに始めてはいなかったが、なぜかその場で逆立ちしていた。その場って、ソファの上だ。器用な。しかも、

「花笑ちゃん……スカートで逆立ちって」

「暇なんですー!」

「やめんか、はしたない」

 うわ、前島さんから極めて真っ当な注意が入った。

 しかし、うむ。

 ブラックか。花笑ちゃんは意外とアダルト。

「それはともかく……暇つぶし……暇つぶしか」

 一応、花笑ちゃんは現役女子高生なんだから、勉強しなさいとか言えばいいのかもしれないけれど、そんなものを是とするわけもなく。佐々木さんだってもっと暴れるだろうし。となると、こういうときに最適な遊びといったら……ああ、あれかな。

「前島さん、ボードゲームとかって、ありません?」

「あん? ボードゲーム?」

「ええ、オセロとか、そういうのです。ジェンガでもいいですけど」

「あー……あったかもな。物置のどっかに」「んじゃあ、それで」「ああ、行ってらっしゃい」「…………」ですよねー。

「でも、どこにあるのかわかりませんよ」

「物置っつっても、大して物も置いてないからな。それに、年一ねんいちでまつげが整理してっから、見ればわかるんじゃね?」

「そうだといいんですけれど……」

 言いながら、僕は立ち上がる。見つからなかった場合、さらに面倒なことになりそうだから見つからないと困る。割と切実に。

「ユーヤ、わっちはあれじゃ、国取り合戦がやりたい」

「あー、そうですね」白の国と黒の国で取り合ってください。

「ユーヤさん、花笑ちゃんはあれです、ポーンとかクイーンとかでチェックメイトってやりたいです」

「あー、そうね」もっとシンプルに白黒つけようぜ。

 まあ、佐々木さんの要望は意味不明として、花笑ちゃんの方はできないこともないかもしれないけれど……ルールも知らないと思いはするけれど。

 でも、白黒合戦も合戦盤と白駒黒駒がないとできないんだよねえ……あるかな。


 確かに、物置は綺麗に整頓されていた。それでも埃っぽいのは埃っぽいから、佐々木さんが入り込んで荒らすこともなかったのだろう。さすがはまつげさん、几帳面に綺麗好き。

 ともあれ、そういう娯楽品の棚から一番上にあった奴を引き抜いてきました。

「ユーヤ、なんじゃこれは」

「ウィリアム・シェイクスピア作、ヴェニスのムーア人」

「え? しぇーくすぴあ?」

「もとい、源平碁です」リバーシでも可。

 それでも佐々木さんも花笑ちゃんも分かっていない顔をしていたけれど、ものを見れば瞭然なので、すぐに嬉々としてそれを箱から引き抜いた。

「上手が白じゃったか。なればわっちが白じゃな」

「何を言ってるんですかー、白は花笑ちゃんですー、花笑ちゃんは潔白で純白なんですー」

 いや、花笑ちゃんは黒かった、と思ったけれど自重した。

 ともあれ、お気に召していただけたようで何よりです。


「――ん、お、帰ってきたみたいだぜ」

 新聞から目を上げないまま、前島さんが言った。帰ってきたというのはこの場合、まつげさん、加賀さん、水戸さんのことだろう。無事に帰ってこられたのかな。

「僕、ちょっと玄関まで見てきますね」

「気ィつけろよ。戸を開けた途端に何か突っ込んでくるかも知らんからな。バケツとか如雨露とか、瓦とか」

 最後のが一番不穏ですが。

 とりあえず、行ってみるとする。

「ここで右翼から急襲! 本陣に揺さぶりをかけるのです!」

「なんのっ、ならばわっちはここで秘めていた伏兵を展開! 挟撃じゃ!」

 ……僕が二人に渡したのって、オセロだったよね?


 僕が玄関に行くと、ちょうど三人が入ってくるところだった。三人ともずぶ濡れだ。

「あ、ただいまですユーヤさん。出迎えごくろー」

「た、ただいま帰りました……」

「……ふしゅー……」

「お帰りなさい、加賀さん、水戸さん、まつげさん……って、まつげさん大丈夫ですか。かなり大丈夫じゃなさそうなんですけど」

 水戸さんに肩を借りている(加賀さんでは身長が釣り合わない)まつげさんは、何かもう見るからにぐったりしている。髪や顎から滴り落ちる水滴も相まって、まるで水難に遭ったみたいだ。

「まー大丈夫ですよ。雷が鳴る時期は、まつげさんは大体こんな感じですからねー」

「そうなんですか……あ、これタオルです。どうぞ」

「これはこれは、さすがユーヤさん。気が利きますねー」

「はいこれ、水戸さんとまつげさんも」

「あ、有り難うございます……」

「お風呂も沸いてるので、すぐに入った方がいいですよ。冷えると風邪ひきます」

「おー、ますます気が利きますねー。ユーヤさんはいいお嫁さんになれますよー」

「え、お嫁さんですか」

「それじゃー水戸ちゃん、入ってきましょーか。まつげさんも連れてきてくださいー」

「し、失礼します……」

「あ、はい。ごゆっくり」

 せめてお婿さんがいいな……


「ここで破城槌じゃ! 思いきりいてこませぃ!」

「何の! そっちがそう来るならこちらは落石で勝負です!」

「……あの、オセロだよね……?」

 女子三人の入浴は想像以上に時間がかかった。そろってのぼせているんじゃないかと心配になって覗きに行こうかとしてしまったくらいだ。してないけど。断じてしてないけど。したのは佐々木さんだ。

「いやー、いい湯でしたよユーヤさん。有り難うございました」

「いえいえ、それは何よりです」

 お風呂上がりの三人娘がパジャマ姿でやって来た。一風呂浴びて、まつげさんも多少回復したらしい。ひとりで歩けている。

「…………」

 三人娘。

 加賀さんと水戸さんはともかく、さすがにまつげさんを“娘”で括るのは結構な無理ぎゃっ――お、思いきり内頬を噛んだ。

「ふむ。では何か御礼をしなければなりませんね」

「え、いやいいですよそんなの」

「いやいや、遠慮しないで下さいよーユーヤさん。減るもんじゃないんですから。それじゃー水戸ちゃん、せーの、」

「え、え、」

 恐らくいきなりの無茶振りに全身で戸惑う水戸さんを強引に連れて、加賀さんがくいっとしなをつくって、

「タイトル・水も滴るイイ女」

「……おー」ぱちぱち。

 水戸さんをも強引にまじえて俗に言うセクシーポーズをとった加賀さんは、僕のおざなりな反応にやや難色を示した。

「何ですかユーヤさん。いまいち反応が薄いですね」

「え、いやそんなことはないですよ」何だかんだ出るとこは出ている水戸さんが顔を真っ赤にしてそのポーズを取る様はなかなか萌えるところもあったけれどロリ体型つまりずどーんの加賀さんがそんなポーズを取っても水が滴るどころかそのままナイ「あがらっ!?」シャンプーボトルが額を直撃した。

「ぼ、僕別に口に出してませんでしたよ!?」「しかし何だか酷く失礼なことを考えているような気がしたので」「…………」間違ってはいませんが。

 不意打ちで思わずポーズを取ってしまった水戸さんは、羞恥の為だろう顔を両手で覆ってしゃがみこんでしまっている。耳までまっかっかだ。

 それにしても今のセクシーポーズ、水戸さんが取るとまだかわいらしさが残るけれど、まつげさんが取るとどうなるんだろう。やはり妙齢の女性として体型にメリハリのきいているまつげさんならさぞかし妖艶にならがっ……ま、また内頬を噛んだ。同じところ。

 何だろう。これはあれかな、煩悩はほどほどに、っていう啓示か何かかな……

 ちなみにまつげさんは、ソファでぐったりしています。

 気が付けばいつの間にか、雷鳴も遠ざかり、雨脚もちょっと弱くなっています。

「お、今週末には逸れるらしいぞ、台風」

 新聞を読んでいた前島さんがちょっと嬉しそうな声を上げました。やはりさしもの前島さんも、いつまでも続く嵐には辟易しているのでしょう。

 台風一過の青空が楽しみです。


「ゆくぞ、王手じゃ花笑っ! 観念せい、ここがお前さんの墓場じゃ!!」

「なんですと! 先にチェックメイトしたのは私ですよ! ――なんちゃって、ふふ、ここでトラップカード! ワープして離脱です!」

「しまった! 謀ったな!?」

「あの、ふたりとも、ほんとに何のゲームしてるの? 僕が持ってきたのってオセロだったよね?」

「暗殺部隊で急襲! ここの駒は全ていただきです!」

「なんてことだ、やりおったな! ――なんての、ふふ、ここで秘密のスイッチをオンじゃ!!」

「なんですって!?」

「え、いやちょっと佐々木さん、ほんとに何を、ボードの下に手を突っ込んだりして、あ」

「そりゃ、ぼんばー!!」

 がっちゃーん。

 

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