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「……どゆ事?」


 この感覚はいつも慣れない。混乱の渦に放り投げられ、その上一瞬完全に見放されたような感覚。


「sideBの主人公って誰だと思う?」


 流華の大きな疑問を解消するために、代わりに小さく切り取った疑問を投げ返してくる。

 その質問に答えるには順序が必要だと言わんばかりに。

 

 主人公が誰かについて考えてみる。女子大生を除いた残り3人を見比べてみる。

 女子大生を邪魔だと感じ、マンションから追い出そうと考える人間。それが主人公になり得る人物だろう。

 とすると、可能性として一番高いのは隣に住んでいた赤い目の男だろうか。

 いや、大家さんという可能性もある。

 二人とも同マンションに属している人物だ。

 そうなると除外されるのはサングラスの女か?

 頻繁にマンションを訪れてはいるが、大家の話によれば彼女はここの住人ではない。

 そんな外部の人間が住人の追い出しに繋がるだろうか?

 流華は答えを口にしてみる。 


「赤い目の男か、大家さん?」

「どうしてそう思う?」


 小枝の切り返しに流華は露骨に戸惑った。

 どうしてと言われればほとんど消去法で導いただけだ。

 あまりはっきりとした理由があるわけではない。


「まあ、残念ながら両方ハズレだけどね」

「えー!? ……じゃあ」

 

 小枝から得られた衝撃の宣告。

 そしてそれにより、必然的にグラサン女が主人公に躍り出る。

 流華の中で一番可能性のなかった人間だ。

 

「やったわ、私の予想は正解だったみたい。ごめんね流華ちゃん」


 流華とは打って変わって香澄先生は正解に辿り着けたようだ。

 ごめんね、なんて言いながらも香澄先生の表情は謝罪の言葉とは裏腹にとても嬉しそうだ。

 なんだかとてつもなく悔しい。


「お、いいねーかすみん。じゃあ、あたしの代わりに……やっちゃう?」

「あら、いいのかしら? このバトン受け取っちゃって」

「どうぞどうぞ」

 

 ――予想が当たっただけではなくバトンタッチだと!?


 まさかの展開だ。このままいつものように小枝の演説が始まると思っていたのに。

 

「当たっているかどうかあんまり自信ないけど、やってみようかしら。でも途中までしか分からなかったから、助け舟はお願いね、小枝ちゃん」

「あいあいさー」


 そんな水兵のような掛け声を聞いたのも久々だなと思いながらも、香澄先生の方に目を向ける

 今日の香澄先生はかなりノッているようだ。久しぶりの都市伝説に昂ぶったのか。

 何にせよ、様子を見守るとしよう。


「私が疑問に思ったのは、サングラスの女性と赤い目の男性の関係性ね」

「関係性? でも二人の関係って」

「そうね。男女の関係と見ていいと思うわ」


 普通に考えればその思考に辿りつくだろう。

 ひょっとすれば親族の可能性もある。だが、住人ではないのに頻繁に出入りしているという点がその可能性を薄める。やはり住人である男の部屋に、外部のグラサン女が出入りしている。そう考えるのが自然だ。


「でもね、少しおかしいと思わない?」

「おかしい?」

「ええ。違和感って言った方が正しいかしら。どうも引っ掛かるのよ」

「そんなおかしな所あったっけ……」

 

 考えてみるが、二人についてそういった点は思い浮かばない。


 ――香澄先生は一体何に……?


「隣に住んでいるのって、本当に赤い目の男なのかしら」

「え?」


 その言葉に、頭に浮かべた話のイメージが一気にぐらつく。


 ――隣人は赤い目の男じゃない?

 ――いやいや、それはおかしい。


「待って下さい。そこはちゃんと大家さんが言ってたじゃないですか。住んでいるのは赤い目の男だって」


 そうだ。その点は間違いなく大家さんがそう証言している。

 

「短いお話だから描かれてないだけなのかもしれない。でもね、実際に女子大生が男の姿を見たって言う描写、ないでしょ?」

「それは……」


 そうだ。確かにそこは描かれていない。口伝でしか女子大生は男の存在を確認していない。


「じゃあ、実際はそんな男……」

「いないと私は思うわ。男の描写はない代わりに、サングラスの女については女子大生も何度か確認してるでしょ。つまり、本当の隣人はその女の方なのよ」


 赤い目の男は存在しておらず、隣人はいつも見ていたグラサン女。

 気付かないものなのだろうか、と疑問に思う。

 ただ今の世の中、人間関係はより希薄になっている。大家にわざわざ隣の人物について聞きに行くぐらいだ。隣人に対しての認識はその程度しかない。

 それに加え、実際大家さんにその女は住人ではないなどと言われてしまえば、そうかとなってしまうのかもしれない。

 グラサン女にとっては自分の部屋に鍵を差す姿も、それを知らなければ合鍵を持った同棲をしている彼女が訪れたようにも見える。

 作為的にもたらされた情報が事実を全く変えてしまうのだ。

 

 つまり、大家さんは女子大生に嘘をついていたという事になる。


「なんでそんな嘘を?」


 そうなれば監視していたあの赤い目の持ち主はいない。

とすれば、グラサン女が赤い目の持ち主なのか。その為にいつもサングラスをかけているのか。

 いろいろな疑問が湧き上がってきて流華は尋ねるが、うーんと香澄先生はこめかみに人差し指をあてる。


「ごめんなさいね、私が辿りつけたのはここまでなの」

 

 残念そうに香澄先生が息を漏らす。


「バトンを戻すわ。ちなみにさえちゃん、ここまでの仮説はどう?」

「あんがと、そのままバトンを頂くわ」

「お願いするわ」


 どうやら香澄先生の考えた説は、小枝が思い描いている物語の一部分をちゃんと塗りつぶせていたようだ。


「それでは続きを」


 おほん、とわざとらしく喉を整え再び小枝のターンへと戻る。


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