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「お邪魔虫ときたか」

 

 うーんと唸る香澄先生同様、流華も顎に手をあてながらその言葉の意味を探る。

 “お邪魔虫”。

 これが誰に向けてのものなのか。そこを考えていかなければならない。

 今回の登場人物を再度頭の中に並べる。


 主人公の女子大生、老婆の大家さん、サングラスの女、赤い目の男。


 この中に、小枝が言う所の”お邪魔虫”がいるのだ。

 

「まずこの話の中では語られていない重要なポイントが一つあるよね」

「語られていない重要なポイント?」

「この話は、赤い目の隣人に監視されていたってのがオチよね。でもそれはあくまで”お話”としての結末。ポイントはその後よ」


 結末のその後。流華は頭でその部分を補完する。

 女子大生は大家から恐ろしい真実を聞かされる。

 実は自分の生活はずっと見られていた。こんなおそろしい事はないだろう。

 都会での一人暮らしを満喫していたはずなのに。平和で幸せな日常は一瞬にして崩れ去ってしまったのだ。

 そんな彼女が取るべき行動は何か。

 おそらく小枝が言わんとしているポイントはその部分の事を言っているのだろう。


「女子大生がどうしたかって事よね?」


 見当違いな事を言っていないだろうかと思いながら口にしたその言葉に、小枝は立てていた人差し指を今度は流華の方に向け、にっと笑う。

 どうやら正解だったようだ。


「いいね、るー。で、実際どうすると思う?」

「部屋を出るよね。こんな自分の生活が筒抜けな部屋に、普通いられないでしょ」

「ご名答―。じゃあ誰がお邪魔虫かってのはもう分かったよね」

「え?」

 ここで最初に言っていた小枝の言葉の意味にもう一度立ち返る。

 そうなれば答えは一つだ。


 お邪魔虫=女子大生。


 案外あっさりと小枝から提示されたお邪魔虫の答えに行き着いてしまった。しかしその過程はぽっかりと大穴が空いている。

 なんとなく書いた答えが当たっているだけだ。

 これがもし数学の問題であれば、正式な○はもらえない。どうやってその解を導き出したか。その計算式をしっかりと明示しなければならない。しかし今の流華にはその部分にペンを走らせる事は出来ない。


「女子大生がお邪魔虫って事になるわよね、今の流れだと。でもどうしてそうなるのって所よね」


 どうやら香澄先生も同じ所で行き詰っているようだ。


「そんな難しく考える必要ないよ。もう今ので8割9割、解けちゃってるんだからね」

「そうは言ってもさー……」


 簡単そうに言ってくれるが、流華にとってはそうはいかない。

 自分よりも頭が回る香澄先生でさえ頭を悩ませているのだ。


「そういう時は、まず視点の移動。この話は女子大生の主観で語られてるよね」

「うん」

「仮にこの女子大生の主観側をsideAとするね。でもこれだけじゃこの話は完璧じゃないわけさ。そこで見なきゃいけないのはsideBの方」

「サイドビー?」

「この物語にはもう一人、真の主人公がいるってわけよ」

「真の主人公だなんて、なんだか熱い展開ね」

 

 ぐいっと香澄先生が前傾姿勢になる。


「この話はこの女子大生の為にあったって言ったの、覚えてる?」

「そんな事言ってたね」

「もう答えになるけど、言っちゃうね」

 

 突然の正解発表に流華も前傾姿勢になる。

 この話の真実を聞き逃さないように。


「これは全て、女子大生をこのマンションから追い出す為のものなのよ」


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