(4)
「うげげげー。途中からそうなんじゃないかとは思ってたけどやっぱしか! きもちわりー!」
小枝は足をバタバタさせながら両腕は鳥肌をおさめようと必死に互いの腕をさすりまくる。
何度も聞いたはずの流華にとってもそれは全く同感な所だった。
壁の向こうにあった何気ない赤の正体。
開けられた小さな穴から流し込まれた粘ついた非日常は瞬く間に女子大生の日常を浸蝕する。
己の身に置き換えて考えるとますます嫌な気分になってくる。
「にしてもホントこういう後味悪いの多いよね、都市伝説とかオカルトって。この前のお守りの話だってそうだったし」
「あら、お守りってひょっとして、ゆかりちゃんのお守りのお話かしら?」
人差し指をピンと立て、香澄先生が正解を言い当てる。
お守りというキーワードだけでどの話かまで当ててしまうあたりはさすがは都市伝説マニアといった所か。
「そうそう。まあそれが醍醐味的な所もあるんだろうけどね」
「オカルトとかホラーって意外と礼儀正しいのよね。中身はおどろおどろしかったり、不気味だったりな割に、話の構成とかはすごくマナーがあるのよね。特にオチに関しては律儀よね」
「確かにそうですね。案外ふわっと終わるような怖い話とかって少ないかも」
「そうなのよね。いかに恐怖が相手に印象として残るか。そこが勝負な所はあるわよね」
「いやいや、今回もなかなかに刺激的なお話でござりました」
ぺこりと香澄先生に向かって小枝は頭を下げる。
「いえいえ、ご清聴ありがとうございました」
香澄先生も丁寧に礼を返す。
そんなマナーを重んじるような部活動ではないはずなのだが。
「で、小枝ちゃん」
「はいな」
「どのような感じでしょうか?」
「ああ、うん。だいたいオッケー」
「嘘、早っ!? あんた相変わらずこんな時だけは頭キレるよね」
「るーちゃんよ、あんたも相変わらず失礼だよ。あたしはいつでもキレッキレよ。カットカットよ」
と言いながら両手の指をちょきちょき開閉する。
「カットはなんだか違う気もするけど、この話にも見えてない真相があるっての?」
「まあ、あくまであたしの勝手な仮説だという事はお忘れなく」
最初は様々な都市伝説をただただ耳で聞いているだけの流華だったが、この活動を始めるようになってから少しは何かないかと考えながら話を聞くようにはなった。
しかし、既存の知り得た話という知識に囚われているのか、今回も特別何か頭に思い浮かぶものはなかった。そんな流華の頭とは違い、話を知らない小枝の頭は目の前に提示された表の情報から、その裏に潜み本当の答えとやらを導き出している。
「今回のこのお話、これはまさしくこの女子大生の為にあったって感じね」
「女子大生の為?」
「そ。目的はかなり明確だね」
明確な目的。
一体全体どういう事なのか。
小枝は先程香澄先生がしたように人差し指をピンと立てる。
「つまり、お邪魔虫は消えなさいってこったね」