01:殻の空、繋がれた森
主人公、佐藤は異世界にやってきた。
知らない天井だ。いや、天井なんてなかった森の中、すごい森の中だ。それじゃどんな森だかわからないって?
つまりどでかいバオバブとかセコイアデンドロンとか、そんなものよりとんでもなく…そうだ、あれやっていい?
あ…ありのまま、今起こった事を話すぜ。もう遅いか。
それにしてもどうみても王城の近くの森でとかいう展開じゃないぞ。これはあれだ。原初の森とか、そんな感じだ。
あー、魔王ルート入ったかな。しかしこれだけデカイ木だと魔王城探すのも楽じゃないな。迎えとかこないかな。
「魔王様、お迎えにあがりました」
いま言ったの実は俺。フヒヒ…サーセン
…
…
…
来ないよ。マジか。正直相当困った。俺が困った奴だ? 知ってるよ。
はっきり言って自然の森に本来道なんてない。腰から上が出ればいい? 馬鹿言うでねぇ。そこら辺の草は頭から上とか余裕だわ。
俺は差し詰め巨人の庭に落ちた小人だな。数歩進むのも相当面倒だ。
っていうか今気づいたけど、俺の姿どうよ。パジャマだよ。しかも上だけ。下はパンツ一丁。いや想像させてすまなかった。これで終りにするよ。美幼女がやったら激萌えなんだろうがな。
しかしこんな格好じゃ歩くだけで擦り傷だらけ、下手すれば傷口から未知の毒とかが入り込むとか最悪な展開があるぞ。
なんでこう無理ゲなんだ。仕方ないので邪気眼を発動する。
それは絶対遵守の力…王の力は人を孤独にする。って意味ねえよ。しかもいますでに孤独だよ。
これから使う能力は妖精の加護だ。そう俺、小さい頃から既に妖精さんが見えたんだぜ。すごいだろう。
あと予想できた奴もいるかも知れんから先言っとくが、30過ぎたら魔法も使えるようになったよ。こっちはあんまり使ってないから慣れてないけどな。
さて早速木の精霊を呼び出すことにしよう。
「出よ妖精! どおぅらあああぁあぁぃぃぃあああああぁぁっ、どおおぉぉぉぅぉおぉ!」ハァ、ハァ…
本当はな、召喚にな、掛け声なんていらなかったんだけどな。フゥ…
あれだよ。ちょっと静かすぎて寂しくなったんだよ。周りに遮音の結界張ってあるから、何も言ってないのと一緒だよ。
「妖精と精霊を一緒にしないで欲しい」
「うひぅっ」
びっくりした。急に背後から声かけられたら誰だってビックリするよな。しかもこんな薄暗い超密林の中でだったらそりゃあ漏らすよ。
あ、こ…声をだぞ。勘違いするなよ。
おおおっと、よく見るとこの妖精、見た目はショートで無口系な例のあの…おにゃのこに似てる!
おいにゃんのハートにスパーキーング。あ…あれ、幼女が後退しだしたぞ。
「どどど、どどどうしたの?」
なるべく笑顔で、優しく包みこむような声で話しかける。
「…………」
俺が一歩進むごとに妖精が一歩下がる。また一歩進むごとに再び一歩下がる。やはり木の妖精というべきか、彼女が通った場所は草も木も自然に避けている。まさに木が避けてるーを間近で見れたことに感動。
そして数回そのやりとりを繰り返したとき、突然妖精が向こうに走りだした。
きっと付いてこいってことだな。俺も一緒になって走りだす。
そういえば、ふと思ったが主人公って一部鈍感っていうのが相場だよな。ハァ、ハァ…
何故いまそんなことを考えたのか、不思議だが、とにかく目の前の妖精を追わなければ。ハァハァハァハァ…
「え、ちしようよ。え、ちしようよ」ハァハァハァハァ…
途中、俺が何を叫んでいたのかは思い出せない。しかし次第に早くなる妖精の後ろ姿を、俺は見失わないように必死だった。ハァハァハァハァ…
ハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァ…
妖精の効果が切れた木や植物が、次々と俺の後ろで元に戻っていくのを感じる。だんだん迫るその気配に俺は止まれない。止まらない。
もうダメだ、見失う。そう思った瞬間、突如視界が開けた。
バサッ、という音と共についに俺は森を抜けた。
辺りに妖精の姿はなかったが、どうやら俺はひとつの難を脱したようだ。
よく見るとそこは近所の公園だった。
ライトを持った人が近づいてきたのでよく見るとお巡りさんだった。
隣では先程の妖精さんが泣いている。どうやら妖精さんではなかったようだ。
おしまい
あくまで一話完結設定の後書きです。