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幕間 残されたものたち

家の二階の一室。かつての星宮蓮の部屋。

 ――いや、本来は今も星宮蓮の部屋のはずだった。


 しかし今は、そこにいるはずの主人だけがきれいに消え、その生活の跡だけが取り残されている。ベッドのシーツは朝のまま少し乱れ、机の上には開きっぱなしのノートとペン。椅子は、中途半端に引かれた位置で止まっていた。


「……はぁ」


 小さなため息が、静かな部屋に落ちる。

 声の主はドアをそっと閉め、きしむ階段を降りて一階へ向かった。


 リビングのテーブルの上には、使いかけのマグカップと、警察署でもらった紙束が散らばっていた。

 「行方不明届」と印字された紙には、見慣れた名前が黒々と並んでいる。


 ――星宮蓮。十七歳。高校二年。


 母・沙織は、震える指でそこをなぞり、すぐに手を離した。

 キッチンから戻ってきた父・真司が、ペットボトルの水をテーブルに置く。安っぽいプラスチックが、かすかに軋んだ。


「……警察の人、動いてはくれてる。駅の防犯カメラも確認するってさ」


「ええ……わかってる。でも……」


 その先の言葉は、喉の奥でほどけて消えた。


 ソファの端では、妹の陽奈が体育座りのまま膝を抱えている。さっきからほとんど喋っていない。


「お兄、スマホもいまだに既読つかないし……」


 陽奈の手には、指紋がつくほど握りしめられたスマホ。

 ここ数日、何度も画面を点けては、蓮からの返信を待ち続けていた。


「ケンカしたわけでもないのに、なんで何も言わないで……」


 真司が、ゆっくりと娘の頭を撫でた。


「大丈夫だ。蓮は勝手にいなくなるようなやつじゃない。……何かあったとしても、絶対帰ってくる」


 自分に言い聞かせるようにしぼり出した言葉に、沙織はぎゅっと唇を噛みしめた。


 テーブルの奥、家族写真の中で、制服姿の蓮だけがいつも通りの笑顔でこちらを見ている。


 * * *


 教室の一番後ろ。窓際の席だけが、ぽっかりと穴が空いたみたいに空席になっていた。


「今日も、星宮は休みか」


 黒板の前で出席簿をめくっていた教師は、そこで一拍だけ言葉を止め、小さく咳払いをした。


「……星宮の行方について、何か知っている者がいたら、あとで職員室に来なさい」


 教室のあちこちで、小さなため息とざわめきが生まれる。


「蓮、まだ見つからねぇの?」


「駅にもいなかった。家にもいないって」


「マジでどこ行ったんだよ」


 そんな会話が、声を潜めながらも教室の中に広がっていく。


 最後に目撃されたのは、部活のあとの放課後。

 忘れ物を取りに行くといって部室を出て、そのまま戻ってこなかった。


 心配になって様子を見に行ったときには、人気のない部室に、蓮の鞄だけがぽつんと残されていた。


 ――明日には、ふらっと教室に顔を出してくれ。


 そんな都合のいい奇跡を願いながら、

 誰もが空いた席を見ないふりをして、「いつも通り」の一日を装うしかなかった。


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