第9話「最初の来訪者、代官様のお成り」
衛兵団が結成され、街の治安は劇的に改善された。
僕が作った街は、食、娯楽、宿、風呂、ダンジョン、市場、そして治安維持組織と、発展に必要な要素が驚異的なスピードで揃いつつある。
(よしよし、いい感じだ。この調子でどんどん拡張していくぞ)
僕が詰所の屋根の上で、次の計画に思いを巡らせていると、神様が呆れたように言った。
『おい、ユウマ。お前、本当に気づいてないのか?』
「ん? 何にさ?」
『これだけ派手にやって、誰にも気づかれないとでも思っているのか? お前の作ったこの“街”はな、もう隠しきれる規模じゃないんだぞ』
神様の言葉は、まるで予言のようだった。
そして、その予言はすぐに現実のものとなる。
◇
翌日の昼下がり。
街道の向こうから、一団の騎馬隊が土煙を上げてやってくるのが見えた。
先頭を走る馬には、見たこともない紋章が描かれた旗が掲げられている。
彼らは街の入口で馬を止めると、リーダーらしき肥えた中年男が、尊大な態度で衛兵たちに言い放った。
「我らはこの地を治めるアルフォンス辺境伯様が遣いである! この村の責任者を呼べ!」
男は自らを「代官のダリウス」と名乗り、村を見下すような視線を送っている。
明らかに、ただの旅人や商人とは違う。面倒なことになった、と直感した。
◇
僕が広場に出向くと、代官ダリウスは僕の姿を見て、あからさまに眉をひそめた。
「なんだ、貴様のような若造が責任者だと? ふざけているのか?」
「僕がこの村……いや、街の代表だ。何か用かな?」
僕が平然と返すと、ダリウスは鼻を鳴らした。
「“街”だと? 笑わせるな。ここは辺境伯様の土地にある、しがない村の一つに過ぎん。その村が、許可もなく建物を建て、市場を開き、あまつさえ“ダンジョン”なるものを運営していると報告があった。これらは全て、辺境伯様への反逆行為と見なされてもおかしくないのだぞ!」
ダリウスは、勝ち誇ったように言い放つ。
周りに集まってきた村人や商人たちに、不安の色が広がった。
『ほらな。来たぞ、お偉いさんたちが』
神様の声が、やけに冷静に響いた。
◇
ダリウスは、腕を組んで僕を見下した。
「だが、辺境伯様は慈悲深い。今までの無許可営業の罪を問わない代わりに、この村で得られる全ての利益の“半分”を、税として徴収するとお命じだ!」
「半分だと!?」
「ふざけるな!」
その言葉に、商人や冒-険者たちが激昂する。
一触即発の空気が流れる中、僕が育てた衛兵団が、ダリウスの騎士たちと住民の間に割って入った。
僕は冷静に、一歩前へ出る。
「なるほど。税を払え、と。いいでしょう」
「なっ……」
僕の意外な返答に、ダリウスだけでなく、村人たちも驚きの声を上げた。
「ただし、条件がある」
僕はニヤリと笑った。
「税を払う以上、こちらも相応の対価を要求する。まず、この場所をただの“村”ではなく、特別な“自治区”として正式に認めてもらう。そして、辺境伯様の名において、この街の安全と商業活動の自由を保証していただきたい」
僕はさらに、ハッタリをかます。
「すでに僕は、王都の大商人とも話を進めている。もし辺境伯様が我々の活動を不当に阻害するようなら、この話は全てご破算。辺境伯様も、大きな利益を逃すことになりますが……それでも?」
◇
僕の予期せぬ交渉術に、ダリウスは完全に面食らっていた。
ただの若造だと見下していた相手に、完全にペースを握られている。
「ぐっ……そ、そのようなこと、私の一存では決められん……!」
「なら、今の話を全て辺境伯様に持ち帰って、ご判断を仰いでください。良い返事を期待していますよ、代官殿」
ダリウスは悔しそうに顔を歪めると、「覚えておれよ!」と捨て台詞を残し、騎士の大半を連れて慌ただしく帰っていった。
ただし、数人の騎士を「監視役」としてこの街に残して。
(よし、第一ラウンドはこっちの勝ちだな)
僕は騎士たちが去っていった街道を見つめる。
(政治クエストの始まりか。ますます面白くなってきたじゃないか)
僕の本当の街づくりは、どうやらここからが本番のようだった。