第6話「初ダンジョン公開!冒険者が挑む遊園地ダンジョン」
その夜、僕は一人広場に残り、地面に描いた設計図をさらに煮詰めていた。
目の前には、月明かりに照らされて不気味にそびえ立つ、巨大なダンジョンの入口。
「よし。入口から第一層は、完全に初心者用のチュートリアルエリア。罠は驚かす程度の軽いものにして、モンスターもスライムやゴブリンみたいな弱いやつを配置する」
「第二層は少し頭を使わせるトラップ迷路をメインに、中級モンスターをうろつかせる」
「そして第三層は、パーティの実力を試すためのボス部屋だ!」
僕が一人でブツブツと呟いていると、神様が呆れたように言った。
『お前、本当に遊園地のアトラクションを作るノリだな……』
「楽しさこそが、リピーターを呼ぶ最高のスパイスなんだよ」
◇
翌朝、僕はまだ薄暗いうちからダンジョンの前に立っていた。
内部構造のイメージは完璧に固まっている。
「――創造!」
僕が叫ぶと、ダンジョンの入口がまばゆい光を放ち始めた。
光は洞窟の奥へ奥へと流れ込み、内部を隅々まで照らし出していく。
僕の頭の中にある設計図が、現実のものとして構築されていくのが分かった。
石造りの通路が伸び、松明が壁に灯り、無数の部屋と扉が生まれる。隠された宝箱が配置され、モンスターたちがそれぞれの縄張りでうめき声を上げ始めた。
『おいおい、これじゃあまるでお前が遊んでたゲームのダンジョンを、そのままコピーしてるみたいじゃないか!』
「ただのコピーじゃないさ。何度も挑戦したくなる、最高に楽しくてクセになる仕掛けを、たっぷり詰め込んであるんだ」
光が収まる頃には、そこには冒険者たちの挑戦を待つ、完璧なダンジョンが完成していた。
◇
朝日が昇り、村が活動を始める。
僕は広場に集まってきた冒険者たちに向かって、高らかに宣言した。
「ダンジョン、完成だ!」
その一言に、冒険者たちが「おおおお!」とどよめいた。
「本当に入っていいのか!?」
「報酬はどうなってるんだ?」
口々に上がる質問に、僕は笑顔で答える。
「もちろん、誰でも挑戦できる。モンスターを倒せば素材や魔石が手に入るし、奥に進めば宝箱も見つかるはずだ。腕に自信のあるやつから、かかってこい!」
僕の言葉が、彼らの冒険心に火をつけた。
冒険者たちは大歓声を上げ、我先にとダンジョンの入口へと殺到し、列を作った。
一番乗りのパーティが、緊張と期待が入り混じった顔で、暗い洞窟の中へと足を踏み入れていく。
◇
ダンジョンの内部は、僕の狙い通り、阿鼻叫喚と笑い声に満ちていた。
第一層に挑んだパーティが、スライムやゴブリンの群れに遭遇する。
「弱い! だが数が多くてキリがねえ!」
通路に仕掛けられた落とし穴にハマった冒険者が、悲鳴を上げる。
しかし、穴の底には頑丈なネットが張られており、怪我をすることはない。
「うわはは! ダッセー!」
「助けてくれー!」
そのドタバタ劇に、後続のパーティから笑いが起きる。
小部屋に隠された宝箱から銅貨や回復薬を見つけたパーティが、「おおお!」と歓声を上げた。
ダンジョンの入口には、村人や子供たちまで集まってきて、中の様子を固唾をのんで見守り、歓声を送っている。
『……まるでアトラクションだな、これ』
「そう、それが狙いだ。恐怖と楽しさは、紙一重なんだよ」
◇
最初に挑戦したパーティが、興奮した様子でダンジョンから出てきた。
その顔は疲労よりも、満足感で輝いている。
「すげえ! めちゃくちゃ楽しかったぞ!」
「報酬もかなり美味い! これは毎日でも通いたいぜ!」
「あの落とし穴、次は絶対引っからないからな!」
彼らが口々にダンジョンを褒め称えると、まだ挑戦していない冒険者たちの期待は最高潮に達した。
村も、かつてないほどの大盛り上がりを見せている。
(よし、これで冒険者は完全にこの村に定着する……。街の心臓部とも言える、最高のコンテンツが完成した!)
◇
神様が、どこか感心したように言った。
『お前、この村に来てからまだ数日だろ? なのに飯、風呂、宿、遊び、そしてダンジョンまで揃えやがった。どんな都市開発スピードランだよ』
「いいだろ? 世界最速の街づくりだ」
村長が、涙ながらに僕の手を握る。
「ユウマ殿が来てから……この村は、本当に生まれ変わった……!」
僕は活気に満ちた村と、これから何度も挑まれるであろうダンジョンを見つめた。
「次は……もっと外から人を呼び込む、新しい仕掛けが必要だな」
僕の街づくりは、まだまだ終わらない。