第5話「冒険者を呼ぶ仕掛け──ダンジョン設計開始!」
宿屋の酒場から聞こえる陽気な喧騒を背に、僕は広場で夜風に当たっていた。
冒険者たちの満足げな顔、村人たちの笑顔。村は日に日に活気づいている。
(食、娯楽、宿、風呂……生活の基盤は整った。次は、冒険者たちが喉から手が出るほど欲しがる“アレ”だな)
僕が次の計画を思い浮かべてニヤリと笑うと、神様がすぐに気づいた。
『おいおい……お前、またとんでもないことを考えてるだろ』
「とんでもないことじゃない。ダンジョンは冒険者を惹きつける最大のコンテンツだ。この村が街へと発展するには、絶対に必須だろ?」
◇
翌日、僕は市場をぶらつきながら、冒険者たちの会話にそっと耳を傾けていた。
「この村は本当に快適だよな。飯も美味いし、拠点としては文句なしだ」
「ああ。だけど、欲を言えば修練場がないのが玉に瑕だな」
「そうなんだよ。もっと強くなるには、やっぱり実戦で魔物を倒せる場所が欲しいよな」
(よし……!)
冒険者たちの本音を聞き、僕は心の中でガッツポーズを決めた。
需要は確かにある。あとは、最高の供給をしてやるだけだ。
「決まりだな」
◇
僕は広場に戻ると、地面に落ちていた木の棒を拾い、簡単な設計図を描き始めた。
「入口は広場のすぐ外。初心者から中堅まで対応できるように、全三層構造にする」
「一層ごとにテーマを変えて、罠は死なない程度のペナルティ系。報酬は鑑定するまで中身が分からない宝箱。全体の攻略性は、僕が得意なテーマパーク式アトラクションだ」
『……テーマパークだと? 訓練場じゃなくて、遊園地でも作る気か、お前は!?』
神様のツッコミに、僕はニヤリと笑う。
「ただ辛いだけの訓練なんて、誰もやりたがらない。大事なのは、冒険者たちが“また挑戦したい!”と思えるような、中毒性のある仕掛けなんだよ」
そこで、ふと根本的な問題に思い至った。
「そもそも、ダンジョンのモンスターって…どうやって発生させればいいんだ?」
『普通は自然界から魔物が迷い込んだり、溜まった瘴気から生まれたりする存在だが…お前は創造魔法持ちだろ』
「そっか。じゃあ、ゲームみたいにリスポーン設定すればいいか」
僕は設計図に新たな要素を書き加える。ダンジョンの各階層に「魔力の泉」を設置し、そこからモンスターが自動的に湧き出す仕様だ。しかも、僕の頭の中にある「管理画面」から、湧くモンスターの種類・数・強さをいつでも調整できるようにしておく。
『……それ、もう完全に運営者じゃねぇか』
「まだあるぞ。次に、魔物を倒した後の素材や魔石のドロップ品。これをいちいち拾わせるのは面倒だ」
僕は創造魔法の権能に意識を集中し、さらなるルールをダンジョンに設定する。
――魔物を倒した際、モンスターからドロップする素材や魔石は光の粒子となって消滅し、ダンジョン内の管理倉庫へ自動転送される。そして、冒険者がダンジョンから出た際、入口に設置された“精算窓口”で一括して受け取れる。ただし、宝箱から直接手に入るアイテムは別だ、と。
『……お前、本当にただのゲームマスターだな』
神様の呆れた声が、僕にとっては最高の褒め言葉だった。
◇
設計図が固まると、僕は村人や冒険者たちが見守る中、広場の外れを指さした。
「――創造!」
僕の叫びに応えるように、ゴゴゴゴ……と大地が激しく揺れた。
村人たちの悲鳴が上がる中、何もない平原だった場所の地面が、ゆっくりと隆起し始める。
それは、まるで黒い巨大な獣が目を覚ますかのような光景だった。
みるみるうちに岩山が形成され、その中心部には、全てを飲み込むような巨大な洞窟の入口が、ぽっかりと口を開けていた。
「山が……生まれた……!?」
「おい、嘘だろ……あれって……ダンジョンか!?」
村人と冒険者たちが、目の前の光景に言葉を失っている。
「安心しろ。まだ外側だけだ。内部はこれからじっくり作り込む」
僕がそう言うと、神様が脳内に直接怒鳴り込んできた。
『さらっと山一つ作るな、このバカ者があっ!』
◇
あまりの出来事に、村長が震える声で尋ねてきた。
「ゆ、ユウマ殿……あのようなものを作って、危険ではないのか……?」
「大丈夫です。死ぬような危険な罠は入れません。ここは、誰もが楽しめる娯楽と修練を兼ねた場所にしますから」
僕の言葉に、村人たちは納得したのか、あるいは理解が追いついていないのか、やがていつもの結論に達した。
「これも……神の奇跡……!」
『だから“神扱い”されるって言ってるだろ! お前、そろそろ本当にどこかの宗教団体に目をつけられるぞ!』
神様の焦った声が聞こえる。
(まあ、いずれはそういう連中も来るんだろうけどな……)
今はまだ、考える時じゃない。
◇
僕は目の前にそびえ立つ、黒いダンジョンの入口を見上げ、不敵に笑った。
「よし……次は内部だ。ワクワクするような迷路、歯ごたえのあるモンスター、そして最高の宝箱……冒険者たちが夢中になる、最高のダンジョンを作ってやる!」
『……やっぱりお前、この世界を遊園地に変える気満々だな』
神様の呆れた声が、僕の新たな決意を後押ししているようだった。