第45話「僕の街の、新たな始まり」(最終話)
合同軍事演習から、一月が過ぎた。
僕の街――いや、今や正式に「特別自治区ユートピア」と名付けられたこの街は、かつてないほどの活気と希望に満ち溢れていた。
辺境伯アルフォンスとの間に結ばれた同盟は、絶対的なものだった。
彼が持つ権力と、僕が持つ創造の力が融合した結果、この辺境の地は、凄まじい速度で変貌を遂げ始めたのだ。
僕が創造した魔導蒸気船“希望号”は、今や三隻に増え、辺境伯の紋章旗を掲げて、南の自由都市との間に確固たる交易路を築いている。ダンジョンの共同調査は順調に進み、そこから産出される未知の資源は、辺境伯領全体の技術レベルを飛躍的に向上させていた。
そして、僕の街の中心には、ついに“みんなの家”が、その威容を現した。
◇
その日は、“みんなの家”の完成を祝う、盛大なお祭りが開かれていた。
建物の中心にある巨大な吹き抜けのホールには、この街の全ての住人が集まっているのではないかと思うほどの人々で溢れかえっている。
冒険者たちは、真新しいギルドのカウンターで祝いの酒を酌み交わし、商人たちは、商談スペースで新たな取引の話に花を咲かせている。学び舎の教室からは、子供たちが覚えたての文字を朗読する、元気な声が聞こえてきた。
その輪の中には、辺境伯アルフォンスと、騎士団長ゲオルグの姿もあった。
彼らはもはや賓客ではなく、この街の良き隣人として、住民たちと気さくに笑い合っている。
「――見事なものだ、ユウマ殿」
僕の隣で、アルフォンスが感嘆の声を漏らした。
「そなたは、ただ建物を創ったのではない。この街の、いや、この辺境全体の“未来”を創り上げたのだ」
「いいえ」
僕は、活気に満ちたホールを見渡しながら、首を横に振った。
「これを創ったのは、僕ではありません。ここにいる、みんなです。僕は、ただ、その“きっかけ”を創っただけですよ」
僕の言葉に、アルフォンスは満足げに頷いた。
◇
ホールの片隅では、光明教会の司教が、完成した壮麗な礼拝堂の前で、静かに祈りを捧げていた。
彼の野望は、僕と辺境伯が手を組んだことで、完全に潰えた。だが、彼はこの街を去らなかった。この、あまりにも常識外れで、しかし神の奇跡に満ちた街が、これからどこへ向かうのか、その目で見届けたいのだという。
彼の存在は、この街の多様性を象徴する、一つのピースとなっていた。
僕は、喧騒を離れ、完成したばかりの“みんなの家”の、最も高い場所にある展望台へと登った。
そこからは、僕が創り上げた街の全てが見渡せる。
活気に満ちた市場、鉄壁の守りを誇る竜鱗の城壁、そして、その向こうに広がる、豊かに実った麦畑と、どこまでも続く交易路。
ほんの数ヶ月前まで、ここは貧しい、名もなき村だったとは、とても信じられない光景だった。
『……ふん。なかなか、良い眺めではないか』
いつの間にか、僕の脳内に、神様の声が響いていた。
その声は、最初の頃のような退屈そうな響きではなく、どこか満足げな、穏やかなものだった。
『ユウマよ。お前との“契約”、どうやら俺の思った以上の結果になったようだ。正直に言おう。――最高に、楽しかったぞ』
(ええ。僕もですよ)
僕は、心からの笑顔で答えた。
「最高のゲームでした。ですが、これで終わりじゃありません」
『ほう?』
「僕たちの街は、まだ生まれたばかりです。この街が、これからどんな物語を紡いでいくのか。どんなプレイヤーたちが集い、どんなクエストが発生するのか。僕たちのゲームは、まだ始まったばかりなんですから」
僕は、地平線の彼方を見据えた。
その先には、まだ僕の知らない、広大な世界が広がっている。
辺境伯との同盟、教会との奇妙な共存、そして、まだ見ぬ王都や、他の国々。
この世界というゲーム盤は、僕が攻略すべき、未知のステージで満ち溢れていた。
『ふ、ふはははは! 全くだ! この世界は、まだまだ面白くなりそうだ!』
神様の心の底からの笑い声が、僕の脳内に、そしてこの新しい世界の青い空に高らかに響き渡った。
僕の神様公認街づくり無双は、まだ、始まったばかりだ。
(完)




