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第40話「完成、僕だけの軍隊」

 地獄の集中訓練が始まって、二週間が過ぎた。

 僕が創り上げた広大な訓練場は、もはや本物の戦場と見紛うほどの様相を呈していた。地面には無数のクレーターが穿たれ、あちこちで強化煙幕の煙がくすぶり、そして泥と汗にまみれた衛兵たちの怒号と、ゴーレム騎士の金属音が、日の出から日没まで途切れることなく響き渡っていた。


「――第三班、聞こえるか! 敵の重装部隊が中央を突破する! B-5地点に設置した“粘着液スライム”の罠を開放しろ!」


 城壁の上に設置された指揮所から、僕は通信魔道具を通じて冷静に指示を飛ばす。

 僕の脳内には、訓練場に配置された数十体の“使い鳥”から送られてくる映像が、リアルタイムで立体的に表示されていた。戦場の全てが、僕の手のひらの上にある。


『了解! 罠、開放!』


 通信魔道具から返ってきたのは、若い衛兵の、興奮に満ちた声だった。

 直後、訓練場の中央で、地面に巧妙に隠されていた落とし穴から、僕が創造した粘着性の液体が噴き出した。突撃してきたゴーレム騎士団は、その予測不能の罠にかかって次々と足を取られ、自慢の機動力を完全に失う。


「よし! 今だ! 全員、総攻撃をかけろ!」


 衛兵団のリーダーの号令で、煙幕の中に潜んでいた伏兵たちが、一斉にゴーレム騎士団に襲いかかった。

 彼らの戦い方は、もはや二週間前のそれとは全くの別物だった。正面から愚直に斬りかかる者は一人もいない。敵の鎧の隙間を狙って短剣を突き立てる者、足元を的確に狙って体勢を崩す者、そして後方からは、僕が新たに開発した、小型の爆弾を矢の先にくくりつけた“炸裂矢”が、正確な放物線を描いてゴーレムの陣形を破壊していく。


 それは、正々堂々とした戦いとは程遠い、しかし、圧倒的に効率的で、そして冷酷な“狩り”だった。

 あれほど手も足も出なかったゴーレム騎士団は、今や僕の衛兵団の連携の前に、面白いように破壊されていく。



「……もはや、言葉もない」


 僕の隣で、騎士の隊長が呆然と呟いた。

 彼の顔には、もはや驚きや侮蔑の色はない。あるのは、自分たちが信じてきた戦争の常識が、根底から覆されていくのを目の当たりにしたことによる、純粋な畏怖だけだった。


「ユウマ殿。あなたの衛兵団は、もはやただの兵士ではない。彼らは、一人一人が戦場の理を理解し、思考し、そして最も効率的な手段で敵を排除する、恐るべき“狩人”の集団だ」

「ええ。最高のプレイヤーたちですよ。僕の頭脳を、僕以上に正確に体現してくれる、最高の駒(仲間)です」


 僕の言葉に、隊長は静かに首を横に振った。

「……駒、などではない。彼らは、あなたという存在を、心から信じている。だからこそ、あれほどまでに強く、そして恐ろしくなれるのだ」


 彼の視線の先では、訓練を終えた衛兵たちが、泥まみれの顔で、しかし満足げに笑い合っていた。その目には、地獄の訓練を乗り越えたことによる、絶対的な自信が宿っている。



 三週間の訓練期間が、終わろうとしていた。

 最後の仕上げとして、僕は衛兵団と、騎士の隊長が率いる騎士団による、合同の模擬戦を実施した。


 結果は、誰の目にも明らかだった。

 数と装備で勝る騎士団は、序盤こそ優勢に戦いを進めた。だが、衛兵団が煙幕と撒菱を駆使して戦場を“自分たちのフィールド”に変えた瞬間、その優位は完全に失われた。

 通信魔道具による完璧な連携で、騎士団は次々と分断され、ゲリラ的な奇襲の前に、為す術もなく各個撃破されていく。

 最終的に、騎士の隊長は、背後から音もなく忍び寄った衛兵団のリーダーによって、その喉元に訓練用の木剣を突きつけられていた。


「……参った」


 隊長は、潔く敗北を認めた。

 その顔には、悔しさよりも、むしろ晴れやかな色が浮かんでいる。


「ユウマ殿。俺は、あなたと、あなたの創ったこの軍隊を、少し侮っていたようだ。俺たちの戦い方は、もう古いのかもしれんな」


 その言葉は、この世界の最強と謳われた騎士団が、僕たちの新しい戦い方を認めた、歴史的な瞬間だった。



『……ユウマよ。ついに、創り上げたな。お前の理想とする、“お前だけの軍隊”を』


 夕暮れ時、最後の訓練を終えた兵士たちが引き上げていくのを眺めながら、僕は神様の声を聞いていた。


「ええ。最高のゲームには、最高のユニットが必要不可欠ですからね」


 僕の答えに、神様は満足げに笑ったようだった。

 その時、街の門の見張り台から、辺境伯からの使者の到来を告げる、甲高い角笛の音が響き渡った。


 僕が司令室に戻ると、そこには騎士団長ゲオルグが、一通の羊皮紙を手に、静かに佇んでいた。


「――ユウマ殿。我が主、辺境伯アルフォンス様より、最終通達である」


 ゲオルグは、その羊皮紙を僕に手渡した。

 そこに書かれていたのは、簡潔な、しかし、僕たちの運命を決定づける一文だった。


「――三日後、夜明けと共に、合同軍事演習を開始する」


 僕は、その通達書を静かにテーブルに置くと、不敵に、そして楽しそうに、笑った。


「……最高の舞台が、整いましたね」

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