第4話「冒険者たちが来た!宿と風呂で大歓迎」
僕が村に現れてから数日。
ラーメンに始まり、射的と輪投げで生まれた村の活気は、いつしか村の外へと伝わっていた。
行商人や旅人たちの間で、こんな噂が囁かれるようになったのだ。
「何もないはずのあの村に、今“神の奇跡”が起きているらしい」
「極上の飯と、見たこともない娯楽があるそうだ」
その噂は、やがて冒険者たちの耳にも届くことになる。
『ほらな、派手にやればこうなる。面倒事が向こうから転がり込んでくるぞ』
頭の中に響く神様の声は、どこか楽しそうだ。
「むしろ大歓迎ですよ。人が増えないと、街づくりは始まらない」
僕の計画は、まだ始まったばかりなのだ。
◇
そして、その日はやってきた。
泥と傷にまみれた鎧を身に着けた、屈強な男女四人組のパーティが、村の広場に足を踏み入れたのだ。
「ここか? 噂の村は」
リーダーらしき大剣を背負った男が、訝しげに辺りを見回す。
「この村に、美味い料理とやらがあると聞いたんだが?」
僕は待ってましたとばかりに、彼らを屋台へと案内した。
ラーメンを一口すすった冒険者たちの顔が、驚愕に染まる。
「う、うめぇ!」
「なんだこれ! 旅の疲れが全部吹っ飛ぶぞ!」
さらに射的と輪投げで遊ばせた時の彼らの反応は、もっとすごかった。
最初は「子供の遊びだろ」と馬鹿にしていたのに、気づけば誰よりもムキになって的を狙っている。
「……ここ、村だよな? 王都の祭りより楽しいんだが……」
パーティの魔術師らしき女性が、呆然と呟いた。
『わははは! 見ろ、あの冒険者どもの緩みきった顔を!』
神様の愉快そうな声が、僕の頭の中に響き渡った。
◇
すっかり村を気に入った冒険者たちだったが、日が暮れ始めると、一つの問題が浮上した。
「で、泊まる場所はあるのか?」
リーダーの男の言葉に、村長が申し訳なさそうに頭を下げた。
「すまんのう……旅の方を泊めるような宿は、この村には一軒も無いんじゃ」
「えぇぇ……マジかよ……」
冒険者たちはがっくりと肩を落とす。
村人たちも「確かに、客人が増えたら泊まる場所がなくて困るな」と心配し始めた。
(来た! 街づくりイベント“宿屋建設”!)
僕は内心でガッツポーズを決めた。
需要が生まれてから供給する。これぞ街づくりの鉄則だ。
◇
「心配ご無用! 今から最高の拠点を作ってやりますよ!」
僕がそう宣言すると、村人たちも冒険者たちも、期待の眼差しで僕を見つめる。
僕は広場の少し開けた場所を指さし、叫んだ。
「――創造! 『宿屋・安らぎの木洩れ日亭』、あとついでに『共同浴場』も!」
まばゆい光が広場を包み込む。
光が収まった時、そこにはどっしりとした木造二階建ての、温かみのある宿屋が一瞬で出現していた。
「ま、また神の奇跡だ……!」
「今度は家が建ったぞ!」
村人たちの驚きの声もそこそこに、僕は冒険者たちを新設の共同浴場へと案内する。
湯気が立ち上る大きな湯船を見た彼らは、歓喜の声を上げて服を脱ぎ捨てた。
「あ”あ”あ”ぁ〜〜……生き返る……!」
「湯船だと!? 天国かここは!?」
風呂から上がった冒険者たちの顔は、満足感でとろけていた。
『おいおい、村の格がいきなり温泉街レベルになったぞ』
「冒険者ってのは、快適な拠点を常に求めてるんです。ここを根城にしたいって、きっと言い出しますよ」
僕の予言通り、話はその夜に決まった。
◇
宿屋の一階に併設された酒場で、村人と冒険者たちを交えた大宴会が開かれた。
リーダーの男が、ジョッキを高々と掲げて宣言する。
「決めた! 俺たちは今日から、この村を拠点にする! 依頼だって、わざわざ街まで受けに行かなくても、ここから出せるようにすればいい!」
その言葉に、「おおー!」と歓声が上がる。
村人たちも冒険者も、一緒になって酒を酌み交わし、笑い合っていた。
村長が、涙ながらに僕の手に感謝を伝えてくる。
「君がこの村に来てから、すべてが変わった……本当に、ありがとう」
『ふっ、だがな。これはまだ序章に過ぎん』
神様の意味深な声が、僕の心にだけ聞こえていた。
(食、娯楽、宿、風呂……生活の基盤は整った。次は、冒険者たちが喉から手が出るほど欲しがる“アレ”だな)
僕が次の計画を思い浮かべてニヤリと笑うと、神様がすぐに気づいた。
『おい、また妙なことを考えてるな?』
もちろんですよ、神様。
だって、冒険者がいるなら、潜るべき“ダンジョン”がなくっちゃ始まらないでしょう?