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第39話「常識外れの戦争準備」

 辺境伯との謁見を終え、竜哭城からの帰路は、行きとは比べ物にならないほど重苦しい空気に満ちていた。

 僕の背後を馬で続く衛兵団のリーダーと騎士の隊長は、どちらも固く口を閉ざしたままだ。彼らの頭の中では、三週間後に待ち受ける、絶望的とも思える戦いのことだけが渦巻いているのだろう。


 だが、僕の心は、不思議なほどに晴れやかだった。

最高のライバルと、最高のゲーム盤、そして最高の賭け金。ゲーマーとして、これ以上ないほど心が沸き立つのを、僕は抑えることができなかった。


『……おい、ユウマ。一人だけ楽しそうな顔をしているんじゃない。お前が負ければ、この街も、お前の命も、全て終わりなんだぞ。分かっているのか?』


(ええ、もちろん。だからこそ、面白いんじゃないですか。負けられない戦いほど、燃えるものはないでしょう?)


 僕のあまりに楽観的な返答に、神様は深々とため息をついたようだった。



 僕たちが街へ帰還し、辺境伯との“賭け”の内容を伝えると、作戦司令室は三度、絶望的な沈黙に包まれた。


「……騎士団本隊と、模擬戦だと?」


 衛兵団のリーダーが、信じられないといった顔で呟く。

 騎士の隊長が、重々しく頷いた。


「ああ。辺境伯様が率いる本隊は、ただの騎士団ではない。大陸でも屈指の精鋭と謳われる、重装騎兵部隊だ。その突撃は、一度始まれば、城壁すら砕くと言われている。我々がゴブリン相手に勝てたのは、ユウマ殿の奇策があったからだ。だが、練度も装備も、そして数も圧倒的に上の正規軍を相手に、同じ手が通用するとは……」


 彼の言葉は、この戦いがいかに無謀であるかを、誰の目にも明らかにした。

 僕たちの衛兵団は、元冒険者や村人が中心の、いわば寄せ集めのゲリラ部隊。対する相手は、国で最強のプロフェッショナル集団。象が蟻を踏み潰すようなものだ。


 だが、僕はそんな絶望的な空気を打ち破るように、自信満々に言った。

「ええ、通用しませんよ。――だから、僕たちは、彼らの常識の外で戦うんです」



「これより、三週間の集中訓練を開始します。ですが、ただ剣を振るうだけの、ありきたりな訓練ではありません」


 僕はテーブルの上に、いくつかのアイテムを創造して見せた。

 手のひらサイズの薄い金属板に、小さな水晶が埋め込まれた奇妙な道具。地面に撒くための、鋭いトゲのついた鉄の塊。そして、投げつければ濃い煙幕を発生させる、ただの煙玉とは威力の違う、特殊な丸薬。


「こ、これは……?」

「“通信魔道具トランシーバー”、“撒菱カルトロップ”、そして“強化煙幕スモークグレネード”です。僕の考えた、新しい戦争のための“道具”ですよ」


 僕が通信魔道具の使い方――離れた場所にいる仲間と、リアルタイムで会話できること――を実演して見せると、部屋にいる全員が、魔法でも見たかのように目を丸くした。


「これがあれば、部隊同士が離れていても、寸分の狂いもなく連携できる。――僕の頭脳と、皆さんの力が、完全に直結するんです」


 さらに、僕は訓練計画の全貌を語った。

 ただの対人訓練ではない。僕が創造魔法で創り出した、動くゴーレム兵士を相手にした、超実践的な模擬戦闘訓練。辺境伯の騎士団の動きを完全にインプットさせたゴーレム軍団を相手に、僕たちはこれから三週間、来る日も来る日も“戦争”を繰り返すのだ。



 翌日から、僕の街の郊外に創られた広大な訓練場で、地獄の、そして常識外れの集中訓練が始まった。

 僕が創り出したゴーレム騎士団は、本物さながらの統率の取れた動きで、衛兵団に襲いかかる。最初は面白いように蹴散らされていた衛兵たちも、日を追うごとに、僕の戦術と新しい道具の使い方を吸収し、驚くべき速度で成長していった。


「第一部隊、煙幕を使え! 第二部隊は右翼へ回り込み、撒菱を設置! 敵の騎馬隊の足を止めるんだ!」


 僕の声は、通信魔道具を通じて、戦場の隅々にまでリアルタイムで届く。

 煙幕によって視界を奪われたゴーレム騎馬隊が、撒菱の罠にかかって混乱する。その隙に、側面から回り込んだ別部隊が奇襲をかける。

 それは、この世界の誰も見たことのない、情報と連携、そして“罠”を駆使した、全く新しい戦い方だった。


 騎士の隊長は、その光景を、ただ呆然と見つめていた。

「……これが、ユウマ殿の戦い方……。我々が学んできた戦術とは、何もかもが違う……。これは、もはや戦争ではない。巨大な狩りだ」


『……お前、本気で戦争を遊戯ゲームに変えるつもりか』


 訓練場を見下ろす城壁の上で、僕は神様の声を聞いていた。


「ええ。最高の対人戦(PvP)ですよ。絶対に負けられない、最高のイベントです。そして、このゲームの主役は、僕だけじゃない」


 僕は、泥まみれになりながらも、目を輝かせて戦う衛兵たちの姿を見つめていた。

 彼らはもはや、ただの村人や冒険者ではない。僕という指揮官の頭脳を、その手足として完璧に体現する、最強の“プレイヤー”へと、今まさに生まれ変わろうとしていた。

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