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第32話「難攻不落のホームグラウンド」

 僕の常識外れの宣言は、作戦司令室に鉛のような沈黙を落とした。

 村長は顔を青ざめさせ、わなわなと震えている。商人ギルドの代表は血の気の引いた顔で、絶望的な計算を頭の中で繰り返しているのだろう。誰もが、僕がしでかしたことの重大さに、思考が追いついていないようだった。


 最初にその沈黙を破ったのは、意外にも、テーブルを叩いて激昂していた衛兵団のリーダーだった。

 はーーーーっ、と。天を仰いで、これ以上ないほど深いため息をついた彼は、やがて呆れと諦めが混じったような、乾いた笑みを浮かべた。


「……もう、何も言う気にもならねえ。どうせ、俺たちが何を言ったところで、お前の頭ん中にあるゲーム盤は、ひっくり返らねえんだろ?」


 その言葉には、非難ではなく、ある種の全幅の信頼が込められていた。

 彼は、僕の狂気じみた作戦が、いつだって自分たちの想像を超え、そして常に最善の結果をもたらしてきたことを、誰よりも理解しているのだ。


「……で? その稼いだ時間で、俺たちは何をすりゃいいんだ? 次の指示をくれよ、“大将”」


 その言葉を待っていました、とばかりに、僕は不敵に笑った。


「皆さん、すぐに街の住民を広場に集めてください! これから、僕たちの街が生き残るための、最も重要な工事を始めます!」



 その日の午後、僕は街の全ての住民を広場に集め、現状を包み隠さず説明した。

 辺境伯からの厳しい要求。そして、僕がそれを突っぱね、新たな提案を突きつけたこと。街が、外部からの圧力に晒されているという事実を。

 広場は、水を打ったように静まり返った。

 だが、彼らの顔に浮かんでいたのは、恐怖や絶望ではなかった。


「……つまり、戦争になるかもしれねえってことか」


 誰かのその一言に、別の誰かが答える。

「上等じゃねえか! 俺たちの街は、俺たちの手で守る!」

「ユウマさんがいる限り、俺たちは負けねえ!」


 広場は、やがて地鳴りのような歓声に包まれた。

 ゴブリンの群れを退け、死の大地を浄化した僕への信頼。そして何より、自分たちの手で創り上げてきたこの街への愛着が、彼らの心を一つにしていた。


 僕は、その熱気を一身に受けながら、高らかに宣言した。

「――これより、この街の最終防衛ライン、“城壁”の建設を開始します!」



「――創造クリエイト! 『竜鱗の城壁ドラゴンウォール』!」


 僕は街の外縁部、広大な土地に手をかざした。

 大地が轟音と共に隆起し、地面から、まるで巨大な竜の鱗を思わせる、黒曜石のように輝く分厚い壁が、次々と姿を現していく。

 それは、ただの石壁ではなかった。僕の創造魔法によって、物理的な衝撃だけでなく、魔法攻撃に対しても高い耐性を持つ、特殊な魔力を帯びた城壁だ。


 城壁は、街全体を円形に、完璧な形で包み込んでいく。

 その高さは、騎士団の使う攻城兵器ですら、容易には越えられないだろう。


「う……おおおお……!」

「壁が……一瞬で……!」


 街の住人たちは、その神の如き光景に、もはや驚くことすら忘れ、ただただ圧倒されていた。

 だが、僕の仕事はまだ終わらない。


「棟梁! あとは頼みます!」

「おう、任せとけ!」


 僕が創り上げたのは、あくまで壁の本体だけだ。

 その上には、兵士が移動するための通路や、矢を放つための狭間、そして敵を迎え撃つための櫓を、これから街の住人たちの手で建設していくのだ。

 建設途中の“みんなの家”から、一部の職人たちが城壁建設の応援に駆けつけ、街は再び、活気ある槌音に包まれ始めた。



『……正気か、お前は。辺境伯との交渉中に、これ見よがしに城壁を建てるとはな。もはや、完全に臨戦態勢じゃないか』


 夕暮れ時、日に日に高くなっていく城壁の上から、僕は自分の街を眺めていた。

 神様の呆れた声に、僕は不敵に笑う。


「ええ。最高の対人戦(PvP)には、最高のフィールドが必要不可欠ですからね。僕たちのホームグラウンドでなら、どんな格上のプレイヤーが相手でも、負ける気はしませんよ」


 建設中の“みんなの家”。活気に満ちた市場。そして今、鉄壁の守りとして生まれつつある城壁。

 僕の街は、辺境伯からの返答を待つ間にも、内側から、そして外側から、凄まじい勢いで進化を遂げていた。


(さあ、辺境伯様。僕がアップデートした、この新しい“ステージ”を見て、あなたは次にどんな手を打ってきますか? あなたのターンが、今から楽しみで仕方ありませんよ)


 僕の街づくりは、もはやただのシミュレーションゲームではない。

 領主という巨大なライバルとの、リアルタイムストラテジーが、今、始まろうとしていた。

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