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第3話「娯楽がないなら作ればいい!射的と輪投げのはじまり」

 ラーメン屋台を創造した翌朝。

 村の広場では、村人たちが大きな鍋を囲んで何やらぐつぐつと煮込んでいた。


「これが……あの“ラーメン”ってやつだ!」

「塩入れすぎじゃないか?」「いや、香草をもっと入れろ!」


 わいわいと楽しそうな声が飛び交う中、鍋を覗き込んだ子供が叫ぶ。


「ぜんぜん昨日の味と違うー!」


(いや、見た目からして別物なんだが……)


 僕が作ったものとは似ても似つかない、謎の煮込み料理が完成しつつあった。

 でも、村人たちの顔は活気に満ちている。


(“真似しよう”って発想が生まれた時点で、すげぇ進歩だな)


 僕がその光景を微笑ましく見ていると、頭の中に神様の楽しそうな声が響いた。


『ふふ、昨日の一杯が文明の種になったか。面白いぞ』


(よし、“食”の種は蒔けた。次は娯楽だ。僕が作ったVR都市で人が集まった最大の要因は、結局“遊び”だったからな)


 僕が次の計画を練っていると、神様がすかさずツッコミを入れてくる。


『また妙なことを考えているな。そのニヤニヤ顔、何か企んでいる時の顔だぞ』


 どうやら僕の考えていることは、この神様には全部お見通しのようだ。


 ◇


 腹が満たされると、次に人間が求めるのは心の充足だ。

 しかし、この村にはその“心を満たす何か”が決定的に欠けていた。


 広場の隅では、子供たちが木の棒を振り回して遊んでいる。

 だが、それもすぐに飽きてしまうのか、やがて地面に座り込んで、ただぼーっと空を眺め始めた。

 大人たちも同じだ。農作業が終われば、家に帰って寝るだけ。会話も少なく、笑顔もほとんど見られない。


(やっぱり……ここには“遊び心”がない。神様が退屈するのも当然だ)


 この世界は、生きるのに精一杯で、人生を楽しむという発想そのものがないのかもしれない。

 ならば、僕が教えてやるしかない。


 ◇


「みんなー! また面白いもの、見せてやるよ!」


 僕がそう叫ぶと、村人たちが「またあの美味いものか!?」と期待の眼差しで集まってきた。


 僕は広場の中央に立ち、ニヤリと笑う。


「今日は腹じゃなくて、心を満たしてやる。――創造クリエイト!」


 昨日と同じように、地面がまばゆい光を放つ。

 村人たちは一度経験しているからか、今度は驚きながらも、何が生まれるのかと興味津々で見守っていた。


 光が収まると、そこには二つの新しい屋台が出現していた。

 一つは、棚に並べられた的にコルクの弾を当てる『射的屋台』。

 もう一つは、少し離れた場所から木の輪を投げて景品を狙う『輪投げセット』だ。


「な、なんだこれは!?」

「今度は武器か……?」


 村人たちが戸惑う中、僕は得意げに説明する。


「遊び場だ。弓矢の練習にもなるし、子供も大人も楽しめるぞ。ほら、やってみな!」


 僕が促すと、一人の少年がおずおずと射的銃を手に取った。

 見よう見まねで的に狙いを定め、引き金を引く。


 ポンッ、という気の抜けた音と共に弾が飛び出し、見事に的に命中した。

 棚から、ことりと小さな木彫りの人形が落ちる。


「やった! 当たった!」


 少年は景品の人形を手に、満面の笑みで飛び跳ねた。

 その姿を見た他の子供たちも、「俺もやりたい!」「私も!」と目を輝かせる。


 やがて、その熱狂は大人たちにも伝わった。

「俺の方がうまい!」「いや、次はワシが!」と、いつの間にか村人たちの間で競争が始まり、広場は昨日とは違う熱気に包まれていた。


『ぶははは! 人間ってのは本当に単純だな! ただの木の的に熱狂してるぞ!』


 神様の爆笑が、頭の中に響き渡った。


 ◇


「よーし、景品を追加だ! 創造クリエイト!」


 僕はさらに、景品として色とりどりの「駄菓子」や「小さなおもちゃ」を創造して棚に並べた。

 甘い菓子の存在が、子供たちの射幸心をさらに煽る。


 気づけば、射的と輪投げの屋台の前には、村人たちの長蛇の列ができていた。

 子供も大人も、男も女も、誰もが遊びに夢中になっている。


 村長が、涙ぐみながらその光景を眺めていた。


「これほど村が……村が笑いに包まれるのは、生まれて初めてじゃ……」


『お前、文明を遊びで変えるつもりか?』


 神様の呆れたような声が聞こえる。


「当たり前だろ。遊びこそ街づくりの基本だ。楽しい場所に人は集まり、金が動き、文化が生まれる。これは、僕がVRゲームで証明した理論なんだよ」


 ◇


 村人たちの興奮は、またしてもあらぬ方向へ向かい始めた。


「やはり……これは神の奇跡に違いない!」

「我らの村に、神の使いが舞い降りたのだ!」


(うわ、またこのパターンか)


「いやいや、だから僕は神様じゃなくて、神様の友達で――」


『それ言うなっつってるだろおおお!!』


 神様の絶叫が、僕の言葉を遮った。


(いや、絶対どこかでバレるんだよな……。でもまあ、今はいいか)


 僕は苦笑しながら、熱狂する村人たちを眺めた。


「よし、食と遊びは確保した。次は“外から人を呼ぶ仕掛け”が必要だな」


 僕の呟きに、神様がすかさずツッコミを入れる。


『おい、勝手にロードマップを作るな! 俺を退屈させない計画なんだろうな!?』


 もちろんですよ、神様。

 最高のエンターテイメントシティを作って、あなたを驚かせてみせますよ。

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