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第29話「街づくりの槌音」

 僕の提案した“みんなの家”――街の複合コミュニティセンターの建設計画は、圧倒的な支持を得て、正式に決定された。

 翌朝、街の広場には、僕が創造した光の設計図を、目を輝かせながら見上げる人々が集まっていた。冒険者たちは、本格的なギルドの誕生に胸を躍らせ、商人たちは、取引所の完成がもたらすであろう利益を計算し、そして村人たちは、子供たちが文字を学べる学び舎の姿に、この街の明るい未来を夢見ていた。


『ふん、大聖堂を建てるという教会の計画を、見事に自分のプロジェクトにすり替えたな。しかも、住民の支持という、誰にも覆せないお墨付きでだ』


(最高の街づくりには、住民参加型のイベントが必須ですからね。やらされて建てる大聖堂より、自分たちで創る“我が家”の方が、百倍愛着が湧くでしょう?)


 だが、問題は山積みだった。

 設計図はあっても、これほど巨大で複雑な建物を、この世界の技術でどうやって建てるのか。誰もが、期待と同時に、その途方もない計画に畏怖の念を抱いていた。



「……ユウマ殿。この壮麗な建物を、我々の手で、本当に建てることができるのだろうか……?」


 作戦司令室に集まった街の代表者たちを前に、村長が不安げに呟いた。

 彼の言葉に、誰もが頷く。


「だからこそ、僕の出番ですよ」


 僕は自信満々に言うと、広げられた設計図の一点を指さした。


「まず、この建物の最も重要な部分――基礎工事。これは、僕が創造魔法で一瞬で終わらせます。寸分の狂いもない、完璧な土台を創りましょう」


 僕の言葉に、どよめきが起こる。


「次に、資材です。森から木を切り出し、岩山から石を運び出す……なんて悠長なことはしません。これも僕が、すでに加工済みの、最高品質の木材や石材として“創造”します。そして、建設に必要な道具。クレーンや足場といった、この世界にはない便利なものも、全て僕が用意します」


「……つまり、ユウマ殿が、全てを一人で創り上げてしまう、と?」


 騎士の隊長の問いに、僕は首を横に振った。


「いいえ、違います。僕がやるのは、あくまで“準備”だけ。実際にこの家を建て、魂を吹き込むのは、この街に住む皆さん自身です」


 僕は、衛兵団の中にいた、一人の男を手招きした。

 彼は、衛兵になる前は、腕利きの棟梁として知られていた男だった。


「棟梁。あなたに、この建設プロジェクトの現場監督をお願いしたい。僕が用意した最高の資材と道具を使って、最高の家を建ててください」


 指名された棟梁は、最初は驚きに目を丸くしていたが、やがてその目に、職人としての熱い炎が宿った。


「……お任せください! この命に代えても、最高の“みんなの家”を建ててご覧にいれます!」



 その日の午後、僕の宣言通り、建設は始まった。

「――創造クリエイト! 『揺るがぬファウンデーション』!」


 僕が広場の中央で叫ぶと、大地がわずかに揺れ、巨大な建設予定地がまばゆい光に包まれた。光が収まった時、そこには寸分の狂いもない、美しく、そして強固な石造りの基礎が、すでに完成していた。

 さらに、その周囲には、規格の揃った木材やレンガが、まるで巨大な模型のパーツのように、整然と山積みになっている。


「おおおお……!」

「基礎が……一日で……!」


 街の住人たちは、その神業を目の当たりにして、言葉を失う。

 だが、驚きはそれだけでは終わらなかった。


「皆の者、棟梁の指示に従い、建設を始めるぞ!」


 衛兵団のリーダーの号令で、街の男たちが一斉に動き出した。

 冒険者たちはその怪力で資材を運び、器用な商人たちは細かい組み立て作業を手伝い、村人たちは炊き出しで現場を支える。

 僕が創り出した、滑車を使った簡易的なクレーンが資材を吊り上げ、頑丈な金属製の足場の上を、職人たちが軽快に走り回る。

 その光景は、もはやただの村の建築作業ではなかった。それは、一つの目的のために、全ての住民が心を一つにした、壮大で、そして統率の取れた“プロジェクト”だった。


 その輪の中には、司教たちの姿もあった。

 彼らは自分たちが担当する礼拝堂の建設のためにと、聖水を撒いて土地を清めたり、労働者たちに食料を配ったりと、実に甲斐甲斐しく働いている。その慈愛に満ちた姿は、街の住人たちの目に、まさしく聖職者の鑑として映っていた。


(……抜かりないな、あの司教様も。こうやって、民衆の信頼を着実に稼いでいくつもりか)



 数日が過ぎ、建設は驚異的なスピードで進んでいった。

 “みんなの家”は、日に日にその姿を現し、街のどこからでも見える、新たなシンボルとして、空へと伸びていく。

 槌音と、人々の活気ある声。それは、僕の街が、ただの寄せ集めの共同体から、本当の意味での“一つの都市”へと生まれ変わっていく、産声のようにも聞こえた。


『……面白いな。実におもしろい』


 夕暮れ時、建設現場を見下ろしながら、僕は神様の声を聞いていた。


『お前は、ただ建物を創っているだけではない。建物を創るという共同作業を通じて、この街の“魂”を創り上げている。見事なものだ』


(ええ。最高の街づくりシミュレーションですよ)


 僕が満足げに頷いた、その時だった。

 街の門の見張り台から、警鐘の代わりに、使者の到来を告げる角笛の音が、高く、そして長く響き渡った。


 僕は、ゆっくりと街道の方へと視線を向ける。

 地平線の向こうから、一つの騎馬隊が、辺境伯の紋章旗を掲げて、こちらへ向かってくるのが見えた。


(……ようやく、来ましたか)


 辺境伯からの、僕の提案に対する“返答”が。

 槌音の響く僕の街に、政治という名の、新たな風が吹こうとしていた。

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