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第24話「呪いの源泉」

 瘴気の魔獣との戦いを終え、嘆きの谷には再び不気味な静寂が戻っていた。

 衛兵たちは、倒したはずの敵がいた場所を警戒しながら、荒い息を整えている。物理攻撃が効かない実体のない魔物との戦いは、彼らの精神をひどく消耗させていた。


「……ユウマ。お前が言っていた“本当のボス”ってのは、一体何なんだ?」


 衛兵団のリーダーが、マスク越しに僕へと問いかけた。その声には疲労と共に、僕の言葉の真意を探るような響きがあった。


「簡単な話ですよ。この谷の呪いの正体は、この濃すぎる瘴気そのものです。そして、さっきの魔獣たちは、その瘴気が集まってできただけの、いわば“現象”にすぎない。つまり、この谷のどこかに、この膨大な瘴気を無限に生み出し続けている“源泉”があるはずなんです。それこそが僕たちが倒すべき本当のボスですよ」


 僕のゲーム理論に基づいた説明に、騎士の隊長が深く頷いた。

「……なるほど。病を治すには、その根源を断たねば意味がない、ということか」


「その通りです。皆さん聖水の残りはまだありますね? ここから先は、さらに瘴気が濃くなります。気を引き締めていきましょう」


 僕の言葉に、討伐隊のメンバーは決意を新たにした。彼らの目にはもはや未知への恐怖はない。あるのは、この最高難易度のクエストを必ずクリアするという強い意志だけだった。



 僕たちは、谷のさらに奥深くへと足を踏み入れた。

 進むにつれて、瘴気の濃度は明らかに増していく。マスクの水晶フィルターが放つ浄化の光がなければ、一瞬で正気を失ってしまいそうなほどの邪悪な気配が、全身にまとわりついてくるようだった。


 やがて、僕たちの目の前に、信じられない光景が広がった。

 そこは、谷の中でもひときわ広く開けた、巨大な円形の窪地になっていた。まるで巨大な隕石でも落ちたかのような巨大なクレーター。その地面には無数の錆びついた剣や折れた槍、そして砕けた鎧の残骸が、まるで墓標のように突き刺さっている。


「……ここが文献にあった古戦場……」


 騎士の隊長が息を呑んで呟いた。

 ここは古代の魔王と勇者が激突した、伝説の場所。この地に染み込んだおびただしい血と、憎悪の魔力がこの谷の呪いの始まりだったのだ。


 そしてそのクレーターの中心部。

 僕たちは見てしまった。

 そこに突き刺さっていたのは、一本の巨大な禍々しい漆黒の剣だった。

 その剣はまるで大地そのものの傷口から生えているかのように地面に突き刺さり、その刀身からはこの谷に満ちる全ての瘴気の源と思えるほどの、濃密な紫色のオーラが絶えず噴き出していた。


『……あれが、呪いの源泉か。魔王の怨念が染みついた武器、といったところか』


(ええ。最高のボスアイテムですよ。あれを破壊あるいは浄化することが、このクエストのクリア条件でしょうね)



 僕たちが呪いの源泉へと近づこうとした、その時だった。

 僕たちの接近を感知したのか、漆黒の剣がまるで心臓のように、禍々しい脈動を始めた。


「――来るぞ! 全員、構えろ!」


 僕の叫びと同時に、剣から噴き出す瘴気の量が爆発的に増大した。

 瘴気はクレーターの中心で巨大な渦を巻き、やがて一つの定まった形を取り始めた。

 それは先ほどの瘴気の魔獣とは比べ物にならない、巨大でそして明確な“意志”を持つ存在だった。

 天を突くほどの巨躯、禍々しい山羊の頭蓋骨を思わせる頭部、そしてその背からは瘴気でできた巨大な翼が生えている。その手には周囲の瘴気を収束させて創り出した漆黒の大鎌が握られていた。


「グルオオオオオオオオオッ!」


 その咆哮だけで大気が震え足元の地面がビリビリと痺れる。

 これこそがこの谷の呪いの化身。嘆きの谷の主。


「――“嘆きの番人グリーフ・キーパー”とでも名付けましょうか。皆さん、ボス戦の始まりです!」



 嘆きの番人はその巨体に見合わぬ速度で、一直線に僕たちへと突進してきた。

 その手に握られた漆黒の大鎌が、薙ぎ払うように振るわれる。


「――全員、散開しろ!」


 僕の号令で隊員たちは一斉に左右へと飛び退く。

 大鎌が空を切り地面を深く抉った。もし直撃していれば数名はまとめて肉塊になっていただろう。


「聖水を使え! あれも瘴気の塊だ!」


 衛兵たちが残っていた聖水を一斉に投げつける。

 だが、嘆きの番人はその身に纏う濃密な瘴気のオーラで聖水を弾き返し、全くダメージを受けている様子がない。


「なっ……聖水が効かない!?」

「馬鹿な!?」


 隊員たちに動揺が走る。

 唯一の有効打と思われた攻撃が、全く通用しない。


(……なるほどな。周囲の瘴気をバリアのように使っているのか。なら、やることは一つだ)


『どうする、ユウマ? あのバリアを破らなければ、手も足も出んぞ』


(ええ。だからこそ最高の見せ場じゃないですか)


 嘆きの番人は僕たちの混乱を好機と見たのか、再びその大鎌を大きく振りかぶった。

 今度の一撃は先ほどよりも遥かに強大な魔力を帯びている。


 絶体絶命の状況。

 だが僕の口元には、不敵な笑みが浮かんでいた。


「――皆さん、僕に時間をください! このクエストの、最終フェーズを始めます!」


 僕はそう叫ぶと、一人隊列から離れてクレーターの中心――呪いの源泉である漆黒の剣へと真っ直ぐに走り出した。

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