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第19話「招かれざる客、聖職者の訪問」

 街は、レベル1の非常警戒態勢へと移行した。

 衛兵団と騎士団による合同の巡回部隊が街の周囲を固め、市場の商人たちは自主的に店を早じまいし、子供たちは家の中から不安げに外の様子を窺っている。酒場からも、いつもの陽気な歌声は聞こえてこない。正体不明の敵が潜んでいるという事実は、着実に街の空気を重くしていた。


『ほう、なかなか様になってきたじゃないか。お前の創った衛兵団も、本物の兵士のような顔つきになったな』


「ええ。最高の街には、最高の守護者が必要ですからね」


 僕は詰所の屋上から、巡回部隊の引き締まった動きを満足げに眺めていた。

 だが、ただ防備を固めて待つだけというのは、僕のプレイスタイルじゃない。敵が動く前に、こちらからフィールドを支配する。それが僕のやり方だ。


「――創造クリエイト!」


 僕は街を囲むように、いくつかの“仕掛け”を設置した。

 地面に巧妙に隠された落とし穴、敵が踏むと大きな音を立てる“警報の枝”、そして森の中には、幻を見せて方向感覚を狂わせる“幻惑の霧”。どれも殺傷能力はないが、敵の侵攻を遅らせ、その位置を特定するには十分すぎるほどの、嫌がらせのようなトラップだ。


「……ユウマ殿。貴官の戦術は、我々の常識を遥かに超えている。まるで、戦場を遊戯盤のように見ているようだ」


 僕の仕事ぶりを見ていた騎士の隊長が、呆れと感心が入り混じった声で言った。



 緊張状態が二日続いた、三日目の昼過ぎ。

 ついに、森の中から動きがあった。

 だが、それは僕たちが想定していたような、武装集団による奇襲ではなかった。


「報告! 森から、所属不明の一団が……こちらへ向かってきます!」


 斥候からの報告に、詰所内がにわかに色めき立つ。

 僕が“千里眼の水晶”を覗き込むと、そこには信じられない光景が映し出されていた。

 森から現れたのは、武装した兵士ではない。純白のローブに身を包み、杖を持った、十数名の集団。彼らは武器を構えることなく、整然と、静かにこちらへ向かって歩いてくる。その歩みには一切の乱れがなく、訓練された兵士とはまた違う、異様な統率が取れていた。


「……なんだ、あれは? 傭兵じゃないのか?」


 衛兵団のリーダーが、困惑した声を上げる。

 その集団の先頭を歩く、ひときわ豪華な金糸の刺繍が入ったローブを着た初老の男の姿を見て、騎士の隊長が息を呑んだ。


「……間違いない。あの紋章は、光明教会のものだ」



 光明教。

 この世界で最も大きな力を持つ、唯一神を崇める巨大宗教組織。

 僕の頭の中に、かつて神様が言っていた言葉が蘇る。


『そんなこと言ったら、お前は“神子”だとか祭り上げられて、宗教団体に祀られるぞ』


(……まさか、な。いくらなんでも、こんなに早く来るとは……)


 僕が嫌な汗をかいていると、純白の一団は街の門の前で足を止めた。

 先頭の初老の男――おそらくは司教か何かだろう――が、穏やかな、しかし有無を言わせぬ響きを持った声で、門を固める衛兵たちに語りかけた。


「我らは、大いなる神の教えを広める者。この地に、“聖人”が現れ、数多の奇跡を起こしていると聞き、その導きのために参りました」


“聖人”? “奇跡”?

 衛兵たちが、顔を見合わせている。


「……我々はこの街の衛兵団だ。所属と目的を明らかにしない限り、通すわけにはいかない。代表者であるユウマ殿の許可なくしては」


 衛兵の一人が、マニュアル通りにそう答える。

 すると、司教はにこりと慈愛に満ちた笑みを浮かべた。


「ええ、存じております。我々が会いたいのは、そのユウマ殿……いえ、この地に現れたという“聖人”様なのです。さあ、どうか道を開けてはいただけませんか? 神の使いを、無下にはなさらないでしょう?」



 その言葉は、街全体に波紋のように広がった。

 僕が詰所の外に出ると、いつの間にか集まっていた村人や商人たちが、一斉に僕の方を振り返る。その目には、畏敬と、好奇と、そしてわずかな不安が入り混じっていた。


(……最悪だ。一番厄介なタイプのクエストが始まっちまった)


 軍隊相手なら、まだやりようがある。物理的な力には、物理的な力で対抗できるからだ。

 だが、相手は“神”の権威を笠に着た、巨大宗教組織だ。彼らの武器は剣や魔法ではなく、“信仰”という名の、人の心に直接作用する力だ。下手に手を出せば、僕はこの国中の人間を敵に回すことになりかねない。


『だから言っただろうが! 軍隊よりも、こういう連中の方がよっぽど面倒なんだぞ!』


 神様の、どこか楽しそうな、そして僕を心配するような声が、頭の中に響き渡った。


 司教は、僕の姿を認めると、満足げに深く頷いた。


「あなたですね。この荒れ果てた地に、神の御業とも言うべき奇跡の数々を顕現させたと噂の“聖人”様は」


 その言葉に、僕はただ苦笑いを浮かべることしかできなかった。

 どうやら僕は、この街の指導者から、いつの間にか宗教的なカリスマへと祭り上げられようとしているらしい。

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